【不条理】
__隕石衝突まで、あと4分。
「次のニュースです。えー、2週間前に発表された、地球付近を飛行する隕石。計算上では地球を逸れるとの予想が立てられていましたが、現在、その隕石が地球へ向かってきている、との事です。地球へ隕石が衝突する時間はおよそ、明日の午前3時頃だとの事です。これについて——」
「地球に隕石衝突ゆーてんのに、このアナウンサーはよう落ち着いとるな。職業病っちゅうやつか?」
朝7時45分、僕は朝ご飯を食べ終わった後、テレビの電源を消した、明日の午前3時に隕石が衝突するらしい。吃驚だ。
「なぁ、母ちゃん、今日地球最後の日らしいわ。知っとった?」
「なにぃ?知らんがそんなもん、まぁた巫山戯た事言っとらんと、学校行き!」
僕は母に小突かれながらも家を出た。
人間は凄いものだ。今日が地球最後の日ってことを知っている人も居るはずなのに、いつもも至って何も変わらない。……否、5分に一度は狂った人を見掛ける。きっとブラック企業にでも務めているんだろう。それか愛する人が居ないか、やり残した事が多すぎる人。僕はこれも運命。と受け入れているつもりだ。
学校に到着して、クラスへと入れば友達と朝の挨拶を交わす。これもいつもと変わらない。
「せや、けーちゃん、あっきー、共朝のニュース見たか?隕石衝突のやつ。俺朝むっちゃ驚いてんけど、」
「俺も俺も!急に隕石衝突とか、言われてもなぁ、彼女まだ居らんのにー!!」
「ばーか、お前に彼女なんか一生出来る訳無ぇべ、早う諦めんか。」
「何でやって!また一日だけ希望あるやろが!」
何て馬鹿で面白い友達だろうか。僕含め三人で仲良く談笑室いると、いつの間にかホームルームの時間になろうとしていた。
ホームルーム開始のチャイムと共に各々が席に着けば、教室の前のドアから担任の実中(みのなか)先生が入ってきた…が、何かがおかしい。変な違和感を感じながらも先生が教壇の前に立つのを待った。
先生が教壇の前に立ち、一つ息を据えば
「今日は朝から全部、自習となった、迷惑行為、犯罪を犯さん限りは自由にせえ、ええな?」
一瞬、教室内が静まり返った後、歓声が響いた。きっとこの担任も校長も、学校全体の人の頭のネジが外れたのだろう。きっと、今日が地球最後の日だからだろう。
僕はバカバカしくなり、家に帰ろうとしたが、友達二人に説得され、午後の6時まで遊ぶ事になった。
午後6時25分、地球まであと約8時間と35分、
「ただいまー。」
僕は家に帰宅した。
「おかえりぃ、今日は遅かったなぁ、」
いつもは9時帰りの父親が出迎えてくれた。
「親父、会社はどうしたん?クビにでもなったんか?」
「いやぁ、今日の朝、今日が地球最後ってニュースで言っとったやろ?せやから、今日はみんな早う帰れって社長がな」
はっは、と笑いながら父が説明をした後、母が「夜ご飯出来てんで〜!早う手ぇ洗って来い!家族でご飯や」と大声で僕へと呼び掛けた。僕は適当な返事を返し、手を洗って食卓へとついた。目の前には父と母、左隣には姉。
「姉貴、東京の寮に居るんとらちゃうかったん?」
「まぁね。でも今日が地球最後〜言われてたもんで、さっき帰って来てん。」
「ほぇ〜、おかえり、姉貴。」
「ん、ただいま」
家族団欒が楽しいと思ったのは今日が初めてだった。きっと最初で最後なんだろう。そう思うと少し悲しい。
晩御飯を食べ終わって、一人一人が風呂に入り、もうする事は寝るだけ。そうなった時姉貴が母ちゃんと親父と僕を呼び寄せた。何も、「今日はみんな一緒に寝ぇへん?」だと。
一度反対でもしようかと思ったけど、実は僕もしたかったから反対はしなかった、母ちゃんも親父も首を縦に振ったことによって、皆リビングで寝ることが決定した。
敷布団をリビングに引いて4人で寝るなんて、何年ぶりだろう。
そう思ってる時、また姉が口を開いた。
「……ごめん。遅いかもやけど、やっぱ私普通にしてられんわ。やっぱり、地球滅亡とかむっちゃ嫌やし、お母さんとお父さんと、けーちゃんとまだ一緒に居たかった。」
声でわかる。姉貴は泣いている。……と密かに母ちゃんの泣き声も聞こえてきた。
姉貴の言葉に続くように母ちゃんがひとつ大きく息を吸って、こう言葉を言い放った。
「アンタら、一生、永遠に、死んでも大好きやし、愛してんで。」
僕は心から何かが零れ落ちたような、そんな感じがした。それは父も母もきっと同じだろう。
みんな一緒、いつもみたいに笑っていれば怖くない。そう思い、笑いあった。で、最後の最後に悔いが残らないようにいっぱい、沢山、死ぬほど、家族4人で談笑をした。
そして、覚悟を決めた。
地球、日本は今とても熱い。そして現在__
【もっと知りたい】
姿の見えない君。見てはいけないという約束。
僕は君の事がもっと知りたくなっていた。
━━━━さとるくんさとるくん、
どうかおいでください。━━━━
━━━━さとるくんさとるくん、
いらっしゃったらお返事ください。━━━━
僕は14の頃、夜遅くに家の近くの公衆電話で、『さとるくん』に電話をかけていた。
さとるくんとはどんな質問にも答えてくれるという都市伝説の一つで、公衆電話で呼ぶことが可能な妖怪だ。
当時、心も体もボロボロだった僕は思い切ってそよ都市伝説を試してみる事にした。
━━━━さとるくんさとるくん、
どうかおいでください。━━━━
━━━━さとるくんさとるくん、
いらっしゃったらお返事ください。━━━━
僕は公衆電話に10円を入れ、さとるくんを呼ぶ決められた呪文のようなものをボックス内で呟いた。
だが、その時さとるくんは何も答えてくれなかった。
何故なら、これから24時間は携帯電話でさとるくんの返事を待たなければさとるくんは答えてくれないからだ。
およそ半日たっただろうか、自分の携帯電話から不在着信の音が鳴った。僕は少しワクワクしながら携帯を手に取り、
『もしもし、さとるくんですか?』と質問を投げかけた。
相手は案の定さとるくんで、さとるくんは『今、宮川スーパーの前に居るよ。』と答えた。宮川スーパーとは、僕の家から5分程の距離にあるスーパーだ。きっとそこから僕の元へ来るのだろう。
また少ししてさとるくんの声が電話越しに聞こえた。
『今、君の家の目の前だよ。今から家に入るね』
さとるくんの声だ。さとるくんは家に来てくれたらしい。
僕の心は少しだけ飛び跳ねた。
また数秒したら『今、君の真後ろにいるよ。でも後ろは見ないでね』とさとるくんが僕に話しかけてくれた。後ろを振り向きたくなる衝動を必死に抑え、僕はさとるくんに質問をした。
『さとるくん、僕は幸せになれますか?』
『…なれるよ』
さとるくんは少し言葉に詰まった後、答えを述べてくれた。僕は嬉しくなって、2つ目の質問をさとるくんに投げかけた。
『さとるくんさとるくん、さとるくんは僕の力になってくれますか?』
『なれるよ。なるかわりに一人の夜は絶対に後ろを振り向かない事を約束してね』
さとるくんは落ち着いた声でそう述べてくれた。
さとるくんが僕の力になってくれる。嬉しい。嬉しい。
僕は感激して
『ありがとうさとるくん。お電話切るね』と決まった言葉を言った。
ブツン-、と電話を切れば、背後にズン、と重い影が乗っかったような気がした。きっとさとるくんだ。
僕はさとるくんが力になってくれることから来た嬉しさと興奮を抱いたまま寝床に就いた。
それが、僕とさとるくんの初めて出会った時だった。
【平和な日常】
戦争が始まってから、もう何年経っただろうか。
僕の家は無くなり、親も、妹も、親戚も、友達も、全てが塵と化した。此処に居るのは僕一人。
リュックサックにはラジオやマッチやカンパン、缶切り、現金、寝袋といった必要最低限の持ち物のみが入っていて、右手にはランプ、左手には望遠鏡を落とすまいと掴んでいる。傍から見れば遠足へ行く高校生に見えるだろう。が、僕の体はリュックサックは煤や泥だらけ。元々は新品同様の黒いリュックサックだったが、この数年で煤や泥、雨が染み込み、汚くなっていた。
今日は此処で野宿をしよう。
僕は草木が生い茂る、少し涼しい林の中にリュックサックを置き、寝袋を広げた。
そしてリュックサックの奥底からメモ帳とペンを出し、拙い文字でメモ帳にこう書き記した
2976年 6月17日 木よう日
きょうは、人から水とかんぱんを買ってから、だい八せかい大せんあとちに行った。あたりでは不はつだんのほり起こしや、あとち じ後しょりをしている大人がたく山いた。たたかいが続くかぎり、べんきょうはできないし、ぼくはまだ大人になれないのかな。早くしゅうせんしないかねがっている。
もうそろそろ19になる僕は、覚えたてのひらがなと、親からいつかに教わった知る限りの漢字で、思った事をメモ帳に連ねた。学校での最後の記憶は小学1年生の一学期まで。最初で最後の短い学校生活だった。
早く勉強がしたい願う日々。
ぼろぼろの靴を脱いでから、静かに寝袋に入り、ランプの火を消す。目を閉じたら一体どんな夢が僕を迎えに来るののだろうか。
3.11
【過ぎ去った日々】
「痛い、痛いってば」
僕は涙を流した。そこには仲間もいない、孤独で居なければならない、牢屋の中の様に冷たく、酷かった。相手が気に食わないことがあれば殴られ、反抗すれば蹴られ、相手の癪に障ることをすれば変な噂を流される。この事については親にも全く言えていない。
僕は母子家庭で育っている。弁護士との話で忙しい母さんに、僕の事情なんて話せるもんか。
…でも本音を言えば、僕に寄り添ってくれる人が欲しかったかな。
こんな生活がつづいて早3年。僕はある決断をした。これは僕の人生を今、大きく変えることとなる。
これを寂しい。と思ってくれる人は現れるだろうか。僕のいじめっ子達は後悔してくれるだろうか。
僕はいじめっ子達への一生の呪いへと化す。
母さん、どうかお元気で。
それじゃあさよなら。
橘 海斗
僕は過ぎ去った酷い日々を思い出しながら、たった1枚の遺書を勉強机の上に置いた。そして天井から吊り下げられている縄に手をかけ、頭を入れた。
【大好きな君に】
大好きだ。
もし、世界で1番輝く宝石と君が並べられたのなら、
僕は即座に宝石よりも君を選ぶだろう。
それくらい君は僕にとっての光であり
愛情を注ぐべき存在だ。
今日もそんな君にこの言葉を贈る。
今日も君の事が