【何でもないフリ】
自分が社会不適合者だと感じる時はあると思う。
例えば、少しのミスで注意されたり、失敗を侵してしまったり。そんな小さな積み重ねが罪悪感に切り替わり、「あぁ、自分はダメな奴なんだ」って思う。
その時大体は「よし変わろう」「自分の悪い所を見つけよう」って、なってた。けど最近はもうそれさえする気力が消えてきた。
「自分を考えたくない」「これが私っていう言い訳を使いたい」
多分その理由は「普通」が分からないから。だと思う。
端折りはするが、自分でも「一般」と外れた人生を歩んでることは自覚済み。そのせいで色々なことに諦めがついてしまってる。自分のことまで。
誰かに陰口を言われても聞こえないフリをして、なにかを言われたら優しく振る舞う。何でもないフリをすることが自衛に繋がる。けれど、それさえも面倒。自分が弱く醜く感じるから。
世界に75億人居るのなら、行き方は75億通りあるように、完全な共感は得られない。
独りじゃないけど、孤独。
【夫婦】
私の家の夫婦が瓦解したとき、数年の時を掛けながら私の大人への信頼は全て塵と化した。
小さい頃は、大人は安心しできる場所で、頼れる場所だと思っていた。全幅の信頼を置いても、それ以上を返してくれると思っていた。けど、それは違った。
その安心は夫婦を取り巻く周りの緻密な計算によって生み出されていたままごと、立派なハリボテだった。
小三の頃、親が離婚した。
私は母へ着いて行った。
母が言った。
お母さんはシングルだから、舐められる。 と。
私は従った。
9歳の決心だった。
今にも崩れてしまいそうな母を1秒でも早く、幸せにさせて上げないといけなかった。
11歳の時、母が言った。
恥ずかしい事をしないで、教育が行き届いてないように見えるから。
私は従った。母を幸せにするために。良い子であるために。
12歳、中学受験に失敗。母に恥をかかせた。
シングルだから、周りを見返さないと行けないのに。
母は私に落胆した。
私に掛けた金が、溝へ消えたと。
もしかしたら既にこの時から、大人を信用出来ず、嫌悪の対象だったかもしれない。
中学生。
あのお家はあぁだから。
このお家はきっとこうだから。
お母さんはこんな仕事してるから。
こうでなければいけない。こうあるべき。
母は自衛と前進に勤しんだ。
ウチを見てくれる親戚は、遠い親戚だから。
ばぁばが死んでから面倒見てくれるようになったでしょ?
だからあの親戚は、お母さん達をかわいそがってるの。弱いと思われてるの。
だから、あれはしないで、これもだめ。
1番ダメなのはこんな事。
親は苦しそうだった。その分、私にも罪悪感が募る。
私がこんな事をしなければ、あんな事をしていれば、
こんな気持ちを親戚に明かさなければ。
親の相談なんて、しなければ。
辛かった。弱かった。だから、逃げ出した。
電気の着いていない自室、午後9時4分。
夫婦の瓦解から始まったこの話を思い出して、
私は今ここに書き記している。
【始まりはいつも】
他人から促されて、始まっていた。
産まれてから、親に物事を決められ、
あれをしたら、これをしなさいと、そう言われた。
私はそれに従って、成長した。
親の影響でダンスを始め、親に進められ、バレエを。
それに従えば、間違いは無い。
『期待しているからね。』 期待させた。
『期待してたのに。』 私は謝った。
『なんで頑張らないの。』 頑張った。
『頑張りすぎ。』 適度を意識した。
『サボらないで』 全力になった。
従いとは、一種の会話。
従いとは、問題と答え。
感情による喧嘩はあっても、最後には従った。
反発をしても、最終地点は従って決めた。
反論をして、最終地点がズレて、
私は後悔した。 もっとああすれば良かった。
信じれば良かった。 と。
従いとは、私を裏切らないと、そう信じていた。
それに従って私は塾に入った。テニスをした。
中学受験をした。バレエを辞めた。
受験に落ちた。 親が喧嘩をした。 離婚をした。
私は母親についていった。 母親は正しかった。
小四から中一まで、不登校だった。
『もう恥をかかせないで。』 従った。
中学二年生になった。 半年は学校へ行った。
勉強が出来なかった。 怒られた。
勉強しろと言われた。 従った。
『勉強はパフォーマンスじゃない。』
『パフォーマンスしないで。』
私の音読、口ずさみの勉強は間違っていたらしい。
従った。 親の前では勉強を辞めた。
自室で勉強をした。 成績は上がらなかった。
『サボらないで。』
『アニメばっかり、勉強しなさいよ。』
従いたかった。
そこには到底自我とは言えない自我があった。
私は勉強をしていたら、それを否定された。
だから、一人で勉強をしていた。
けれどそれさえも疑われた。
従えることに従ったら従いでは無いと、そういう事。
従う?従うとは。従いの意味。従いの結果。
人は『人生は自分の為に生きる』と云う。
けれど、私は周りに従う為、質問人間になった。
なってしまっていた。
中学三年生。 現在。
私は質問人間のまま。 私のする事は、全て疑う。
成績不振。人間不信。
ふしん したがう 言葉が脳に溢れ
目から零れ落ちる。
自分の為とは他人の為。
感情で言うならば、幸せ。
幸せを感じる前は、誰かに幸せを渡している。
幸せを渡す理由として、
相手が好きだから、相手を励ましたいから。
そんな理由こそ様々あるが、
結局これは感情に従っているだけなのだ。
人間は、上手いことにそう出来ている。
長年の歴史から、そうあるべきと何かに従っている、
学校の道徳は、人としての道を学ぶのと同時に、
感情、歴史、そんな位置付けられたものに
どう従うか。多い手順を用いて説明しているだけの事
趣味や、社会もそう。
自分の功績は周りに回って他人へ。
リーマンは公共に。
先生は教え子に。
定員は客に。
金も入るがそれは結果論、経済を回す道具である。
ものを買わずとも、税がある。
そのサイクルのせいで自分に物が入って来る。
けどそれは他人からすれば自分には帰って来ないもの
だからそれを他人が補う。
補い合いの、他人行儀。 ギブアンドテイク。
これが始まり。
人の最終地点は、支え合いではなく、
物事の始まりと従いなのである。
【秋晴れ】
何年か前に
いじめが起きた。 いじめられた。
病んだ。 不登校になった。
親の喧嘩がエスカレート。 親が離婚した。
親が病んだ。 母子共に自殺を考えた。
中学校に入学した。 疑心暗鬼だった。
人間不信。 頑張った。
私も、親も、二人で、
頑張った。 頑張った。 頑張った。
頑張った。 頑張った。 頑張った。
中学三年生。 父親の事は割り切った。
凄く楽しい毎日。 幸せが続く。
けれどある日の興味本位でそれは崩れた。
それは、好奇心と私の勘違いから始まった。
脳の片隅にある記憶から、父親の勤務先を思い出す。
父親の勤務先を検索。 父親の名前を検索。
電話番号があった。 法律を調べた。
違法じゃない。 電話はできる。
四日後に、決行した。 怖かった。
『はい、◾︎◾︎◾︎ 株式会社 ◾︎◾︎ です 。』
『 ◾︎◾︎◾︎ です、 覚えてますか? 』
『 ◾︎◾︎◾︎ …… か , 久 し ぶ り 。 』
私の嫌な予感が、的中。
やはり小学校五年生の時から、
父親の時間は止まっていた。
中学三年生の私に対する態度はそこにはなく、
少しの動揺の後、
幼子を猫撫で声であやす様な声が、聞こえた。
ゾッとした。 恐怖した。 トラウマが蘇る。
喉の奥が詰まった。 電話を切りたい。
話す度に背筋が固まる。
けれど、電話をかけたのは私。
『また電話するね。』
『成人したら、会おう。』
約十二分の電話を切る前の私の言葉は、
その瞬間から嘘になった。
嘘にしなければ、私が壊れそうだった。
もう平気だと思っていたものに対峙して分かった。
私は何も克服してない。割り切っていない。
忘れようとしても、それが脳裏を過ぎり続ける。
頭を振っても、怖い思いは変わらない。
大誤算だった。
ただ、恐怖を忘れていただけ。
秋晴れの今日、それに気付いてしまった。
兄弟の居ない私。母にも友達にも言えない悩み。
それが今日、出来てしまった。
清々しい秋晴れが、黒い気持ちで覆われた。
この恐怖が掠れてくれる日を、ただひたすらに待つ。
【やわらかな光】
地面に身体を叩きつけられた。
痛い、痛い、痛い、痛い、熱い、寒い、分からない。
自分の背中にあった筈の白い羽は、そこにはなかった。助けなど、なかった。彼の羽のような白い腕は、私の体を掠った。
ぐしゃり、
砂の床が綺麗なレッドカーペットに。
観客の代わりに、蟲と鴉が拍手喝采。
私に擦り寄ってきた。
私にやわらかい光が降り注ぐ事を願い、
3階の窓枠から此方を覗く頭に呪いが降りかかる事を
祈る。