蜂蜜林檎檸檬蜜柑

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【平和な日常】

戦争が始まってから、もう何年経っただろうか。
僕の家は無くなり、親も、妹も、親戚も、友達も、全てが塵と化した。此処に居るのは僕一人。
リュックサックにはラジオやマッチやカンパン、缶切り、現金、寝袋といった必要最低限の持ち物のみが入っていて、右手にはランプ、左手には望遠鏡を落とすまいと掴んでいる。傍から見れば遠足へ行く高校生に見えるだろう。が、僕の体はリュックサックは煤や泥だらけ。元々は新品同様の黒いリュックサックだったが、この数年で煤や泥、雨が染み込み、汚くなっていた。

今日は此処で野宿をしよう。
僕は草木が生い茂る、少し涼しい林の中にリュックサックを置き、寝袋を広げた。
そしてリュックサックの奥底からメモ帳とペンを出し、拙い文字でメモ帳にこう書き記した



2976年 6月17日 木よう日
きょうは、人から水とかんぱんを買ってから、だい八せかい大せんあとちに行った。あたりでは不はつだんのほり起こしや、あとち じ後しょりをしている大人がたく山いた。たたかいが続くかぎり、べんきょうはできないし、ぼくはまだ大人になれないのかな。早くしゅうせんしないかねがっている。



もうそろそろ19になる僕は、覚えたてのひらがなと、親からいつかに教わった知る限りの漢字で、思った事をメモ帳に連ねた。学校での最後の記憶は小学1年生の一学期まで。最初で最後の短い学校生活だった。
早く勉強がしたい願う日々。
ぼろぼろの靴を脱いでから、静かに寝袋に入り、ランプの火を消す。目を閉じたら一体どんな夢が僕を迎えに来るののだろうか。



                    3.11

3/11/2023, 1:34:53 PM