蜂蜜林檎檸檬蜜柑

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3/3/2023, 12:54:44 PM

【ひなまつり】
私はひな祭りの日が嫌いだった。

7、8歳の頃だっただろうか。私はひな祭りの日に大きな事故に遇った。内容はというと、大型トラックに撥ねられ、集中治療室で5時間の手術を受けるほどの怪我を負ったのだ。私はその時の事をしっかりと覚えている。

あれは7歳の頃、帰りの音楽が流れた時だったろうか。私は家から横断歩道を渡り、少し歩いた所の公園で一人遊んでいた。当時は私も素直な子だったので、帰りの音楽が流れたら直ぐに家に帰っていた。その日も例外はなく、帰りの音楽が流れたら直ぐに家に直行した。信号が青な上、普段、家の前の横断歩道はあまり車が通らないから完全に油断していたのだろう。私は周りを見ずに走って横断歩道を渡っていた。とその時、大きなクラクションと光が私の視界と耳内を支配すれば、途端に私の体は宙に舞った。体中物凄く痛くて、耳鳴りがした。声も出せず耳を聞こえない。幼かった私でも、車に撥ねられたんだと即座に理解した。数秒して車の運転手と母らしき人が私を囲ったが、私の意識はそこで途切れた。そこからはあまり覚えて居らず、私が気を失っている間、私は大学病院の集中治療室に居たらしい。
私が怪我の治療、リハビリの為に病院に入院している間、机の上に置いてあったのは可愛いぬいぐるみなどではなく、不気味な真っ白の顔をした我が家の家宝である雛人形。夜は怖いし、変に目は合うし、可愛くないしで、幼かった私は何故そこに雛人形が置いてあったのか、理解が出来なかった。だが、今は理解出来る。
お母さんによると、私が集中治療室で治療を受けた後、ずっと私の傍に家宝である雛人形を置いていたそう。御先祖様や神様が、私の命を救って頂いたと思い、病室の机に置いたんだとか。
その話は本当の様で、怪我の途中経過や治りもスムーズに進んで、後遺症と言えば左足の感覚麻痺のみだった。それも、医者の話によれば車椅子生活も視野に入れる。と話していたらしい。だがその車椅子生活にならなかったのも正しく奇跡だと医者もお母さんも言っていた。



きっと、雛人形に御先祖様や神様が宿っていると思っている人は少ないかもしれない。けれど私は信じ続ける。だってあの日は御先祖様や神様に救われたのだから。

3/2/2023, 2:16:29 PM

【たった一つの希望】


昨日の夜、母が死んだ。正確には、村人に生きたまま焼き殺された。
この殺伐とした村は半年に一度、神に命を捧げる。と生きた人間をそのまま焼き殺す残酷か伝統があった。この金が無く、全てがスラム街の様なこの村で生きて早15年。うちにその『焼き殺される供仏』の順番が回ってきたのだ。最初、家族内で会議をした時は私が行くと言ったものの、まだ若いんだからと兄に止められ、酒に溺れた父は話に興味無し。そんなどうしようもない中、母が行くと決断をした。
私は泣いて辞めてと言った。けど母は頑固な性格故、決断を変える事は無かった。
母の最後の言葉を私は覚えてる。『強く行きなさい』私はその言葉と共に母から暖かくも切ない抱擁を受けた。

母が焼き殺されてから2ヶ月は経っただろうか、父が以前よりも酒に溺れている。最近は前までは無かった暴力が耐えない。
それは兄も同じで、私が殴られて、倒れたら次は兄。兄が倒れたら次は私。私と兄はずっと交互に殴られ続けていた。
殴られ終わったと思えば次は家事や畑仕事、出稼ぎをしろと駆り出される。
人は2ヶ月でこんなにも変わると言う事を初めて知った。

そんな生活が続いて早2年。私達兄弟はもう限界を越えようとしていた。否、逆に2年もよく持ち堪えたと思う
今は兄とこの家を出よう。と計画を練っていた。
父の起床時間や就寝時間を全て調べ、何処で何をどうすればこの家から、この村から出れるのかをずっと話している。
昼は殴られ蹴られ働かされ、夜は脱出計画を練る。最初は苦しく、正に地獄だった。だが、兄が居る。兄が居るおかげで私は今ここを脱出しようと思えている。兄は私にとって、希望であり仲間。きっと兄もそう思っているだろう。

今はもう深夜の4時、兄も私ももう眠くなる頃。この脱出計画はいつ決行されるのだろう。
私と兄は希望と不安を胸にして、また殴られ蹴られる朝を静かに寝て待つ。

3/1/2023, 1:47:02 PM

【欲望】



「あ〜、ごっめーん、手が滑っちゃった!」

「あっ、そんな所に居たの?空気が薄くて見えなかったぁ〜」

「ねぇ、邪魔だから退いてくれる?害虫ちゃん。」


あの子は今日も虐められている。可哀想に。私はそう常々思う。けど助けようとはしない。
何故ならぱ、助ける助けない以前に、私が虐めっ子グループの中心だから。
始まりは些細な事だったと思うけど、今は虐めがかなりエスカレートしていて、やめ時を完全に失ってしまった。だが、私はそんな虐められているあの子を見て、私は、私は……





物凄く興奮していた。



「ねぇ?私を見て?貴方を虐めている私を見て。そして、私を恨んで♡」

そう私は心の底から思い願った。
最低な形でも良い。嫌がられても構わない。ただあの子に私という存在をしっかり覚えて、思っていて欲しかった。欲望を言えば、あの子を監禁して全てを管理したい__。



「え、っと、、あの…」

「き、気付かれなくても…その、ぁ、、」

「ごっ、ごめんなさい………」


今日も私は虐められている。毎度毎度酷い虐めだ。花瓶の水をかけられたり、上履きを隠されたり、教科書をハサミで切られたり、虐めは半年前よりもずっとエスカレートしている。私を虐めるのは辞めて、辛いから、怖いから、毎日そう思う。


……けど、私は”あの子”がいる限り、学校に通い続けるつもりだ。


そう、”あの子”とは虐めの中心に居る幼なじみ。
何故あの子は虐めをするようになってしまったのか。そして私はいつから虐めを受けていたのか、

でも何故か、あの子の虐めは






すっごく興奮する。



私に注目してもらえてるみたいで、堪らなく興奮する。きっとこの虐めは、他の人とは成立しない。私はこの人に虐められていたい。ずっと、永遠に。
この虐めは、愛が籠っている様で、善い。
本音を言えば、もっと酷い事をされたいもっと辱めを受けたい。

それが歪んでても良い。捻れてても良い。ただ、私を見て、愛して、興奮して。興奮させて。







  
           sadist &  masochist

2/28/2023, 11:35:18 AM

【遠くの町へ】

今日は大好きなあの子へ贈り物を捧げる日。
少し遠く、小さな町へ足を運ぶ日。
今日はあの子が大好きなメロンパンとコーラを渡すんだ。
喜んでくれるかな。
あの子の大好きなメロンパンとコーラを黒いリュックサックの中に詰め、家を出る。鍵を閉めたらまずは近くのバス停へ。
ここから小さな町へはおおよそ2時間かかる。
行くのはちょっと大変だけど、あの子に会えるならそんなの気にしない。

バスに揺られて約2時間。バス一本とはいえさすがに疲れつつある。大好きなあの子に会う前に少し休憩をしよう。
こんな小さな町にもコンビニは存在する。僕はコンビニでツナマヨのおにぎりとお茶を買って、それをコンビニ内の小さなフードコートで食べた。朝、何も食べていなかったからか、おにぎりの具がすごく美味しく感じる。お茶も美味しい。

僕はコンビニを出た。腹は膨れ、大好きなあの子のいる場所まであともう少し。辺りはもう既に真っ暗で、人っ子一人居ない。小さな町なので調度良い街灯も勿論無い。僕は予め持っておいた携帯ランプの電源を入れ、歩き始めた。
細い道の端っこには用水路があって、落ちないか少し不安だ。もし、足を滑らせて落っこちたりでもしたら大変だ。大好きなあの子に会えるからって浮かれっぱなしでいるのは少し危険だ。僕は用水路に落ちないようにしっかりと歩いた

墳墓の前を通り、坂道を登り、木々の生い茂る山へと向かう。
大好きなあの子の所までもうちょっと。
森の中には少し小さな小屋がある。そこに大好きなあの子は居るのだ。
僕は小屋を見つけると期待に胸を膨らませながら腐りかけた木の扉をギィィ、と、開ける。ちょっと臭い。
あぁ、大好きなあの子が居た。山奥だからか、小屋の中は少し汚く、前よりも蝿が集っていた。だが大好きなあの子は前と全く同じ場所に座っている。
「久しぶり。1ヶ月ぶりだね。」
僕は感激の声を漏らす。だけど大好きなあの子は何も言わない。いや、何も言えないのだ。だけど僕は大好きなあの子の目の前にメロンパンとコーラを置き、少し話をしてからまた来るね。と一晩でその小屋を去った。

また来るね。その約束は叶わなかった。



一週間後、

朝から大雨で湿気が酷い日。

__次のニュースです。某月某日、某所の山奥の小屋で死体が発見されました。死体は既に白骨化していて、先程鑑定士が遺骨を鑑定した所、骨の形からしてこの骨は女性のもの。ということが判明しました。現在もこの事件については捜索中、との事です。__


テレビの電源をブツン。と切る。


「あーあ、あの子見つかっちゃったか。しかたない。また新しい子、探さないと。」