【たった一つの希望】
昨日の夜、母が死んだ。正確には、村人に生きたまま焼き殺された。
この殺伐とした村は半年に一度、神に命を捧げる。と生きた人間をそのまま焼き殺す残酷か伝統があった。この金が無く、全てがスラム街の様なこの村で生きて早15年。うちにその『焼き殺される供仏』の順番が回ってきたのだ。最初、家族内で会議をした時は私が行くと言ったものの、まだ若いんだからと兄に止められ、酒に溺れた父は話に興味無し。そんなどうしようもない中、母が行くと決断をした。
私は泣いて辞めてと言った。けど母は頑固な性格故、決断を変える事は無かった。
母の最後の言葉を私は覚えてる。『強く行きなさい』私はその言葉と共に母から暖かくも切ない抱擁を受けた。
母が焼き殺されてから2ヶ月は経っただろうか、父が以前よりも酒に溺れている。最近は前までは無かった暴力が耐えない。
それは兄も同じで、私が殴られて、倒れたら次は兄。兄が倒れたら次は私。私と兄はずっと交互に殴られ続けていた。
殴られ終わったと思えば次は家事や畑仕事、出稼ぎをしろと駆り出される。
人は2ヶ月でこんなにも変わると言う事を初めて知った。
そんな生活が続いて早2年。私達兄弟はもう限界を越えようとしていた。否、逆に2年もよく持ち堪えたと思う
今は兄とこの家を出よう。と計画を練っていた。
父の起床時間や就寝時間を全て調べ、何処で何をどうすればこの家から、この村から出れるのかをずっと話している。
昼は殴られ蹴られ働かされ、夜は脱出計画を練る。最初は苦しく、正に地獄だった。だが、兄が居る。兄が居るおかげで私は今ここを脱出しようと思えている。兄は私にとって、希望であり仲間。きっと兄もそう思っているだろう。
今はもう深夜の4時、兄も私ももう眠くなる頃。この脱出計画はいつ決行されるのだろう。
私と兄は希望と不安を胸にして、また殴られ蹴られる朝を静かに寝て待つ。
3/2/2023, 2:16:29 PM