NoName

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9/5/2024, 3:13:27 AM

私はよく思い出す。

カーテンを閉め切って、電気を消した部屋の中、あなたと2人でいたこと。
完璧に暗くしたつもりでも、日の光がじんわりとカーテンから漏れてしまっていたから、あなたの顔が濃い陰影をつけてじんわりと浮き上がっていた。
あなたは口角を上げて、私に尋ねた。
「いる?」
私は答える代わりに、あなたの頬に両手を添える。
その時、あなたの目がきらめいた。
黒い窪みの中でビー玉が光を反射したみたいに。
あまりに一瞬だったから、私はもう一度よく見ようとあなたの目に顔を近づけた。
「近いよ」
あなたがケラケラ笑う。
私が何も言わないうちに、あなたは軽い音と共にカーテンを開け放った。
光の眩しさに、思わず目を細めた。

今思うとあなたのあの一連の行動は、目のきらめきをごまかすためではなかったか。
あのきらめきはなんだったのか。
何でもない時に、わけもなく考えてしまうのだ。

8/21/2024, 5:16:44 AM

仲のいい友達と別れる時の「さよなら」は悲しくない。またいつか会えることが分かっているから。

今日もいつものように別れるだろうと思っていた。
ジリジリとした太陽の下で待ち合わせをして、涼しいカフェでお茶をして、そして映画を見た。
なんの変哲もない幸せな日だったから。
けれど、違っていた。
「じゃあね、さよなら」
「さよなら」の前に「じゃあね」が加わっただけなのに、僕は闇雲に嫌な予感がしたのだ。
「またね、さよなら」
だから僕は念押しするかのように、「またね」を「さよなら」の前に加えた。
明日また会えるよね、と。
彼女は何も言わなかった。赤い夕日の中に消えていく彼女の背中は、今にも飲み込まれそうな黒色だった。

7/6/2024, 12:37:10 PM

ある日ふと、中学校の友達を思い出した。
顔ではなく、いつも私の前を歩いていた彼女の後ろ姿だ。ショートボブに、白い制服がよく似合っていた。

春に引っ越してきたと思ったら、7月に入ると同時に、何も言わずに引っ越してしまったのだ。
先生は「お家の都合で」としか言わなかったけど、本当にそうなのかはよく分からないままだ。
『心中を図った』
『夜逃げした』
『裏の組織に消された』
露骨な噂はたくさん立ったけど、時間がたつと霧のように消えていった。みんな、友達を忘れたみたいに。
…あれ?
友達の名前…なんだっけ?
いくら考えても思い出せない。
好きな食べ物も、テレビ番組も、家族のことも、全て覚えているのに。その顔と名前だけが、穴でも開いてしまったかのように空っぽだった。
ふと電話帳を開く。ペラペラとページをめくると、いくつかの番号に赤線が引いてあった。
私はその中のひとつに電話をかける。
『おかけになった電話番号は…』
無機質なアナウンスが繰り返されるのみだった。
適当に選んだ番号なのだから当たり前だった。それに当たったとしても、彼女は引っ越したのだから。

私はそれから、毎日電話をかけた。
赤線は無数にあったけれど、ひとつひとつにかけた。
もしかしたら、昔の私が友達の電話番号を聞いていたかもしれない。それでこうやって、書き込んだかもしれない。そんな期待を抱きながら。
経過は、例のアナウンスが大半で、無言電話とたまに誰かが出る事が半分半分。こんなものだろう。
かけている途中で考えた。
もし友達にかかったとして、どうしたいのだろう。
私は何がしたいのだろう。
悪口を庇えなかった事を謝りたい?
中学時代の思い出を語りたい?
なぜ何も言わずに消えたのか、問い詰めたい?
そんな大層なことじゃない気がする。

私はただ、3ヶ月弱だけ友達だった、彼女の名前が聞きたかった。

6/30/2024, 12:14:13 PM

「私には、赤い糸が見えるんだよ」
始めは嘘かと思った友人の言葉だ。

しかし、友人の『恋予報』は嘘ほど当たった。
「隣のクラスのB子とC郎は両片思いだから、付き合うのは時間の問題かな」
「A奈、二股してるね」
「D介とE美はお互いちょっと冷めてきてる。もうすぐ別れそう」
ここまでくると、信じざるをえないじゃないか。

そんなある日のことだった。
私の薬指をまじまじと見ながら、友人は切り出した。
「……もしかして、恋してる?」
え?私が?
思わず私も自身の薬指を見るが、当然そこには何もない。そして、好きな人の心あたりもない。何かの間違いでは?
「……いや、見えてるから……」
「誰!!?」
思わず声が大きくなる。仕方ないだろう、無意識下の恋とか怖すぎないか。
しかしとうの友人はだんまりだ。同じ質問を重ねるも、俯いたままでいる。暑いのか、その首筋はひどく赤かった。
「今はまだ、言えない」
急に友人が切り出した。
「あなたが自覚してからね」
そう言い残すと、私が止める間もなくスタスタと歩いていってしまう。
ちょっと待て、まだ話は終わっていないぞ。
取り残された私は、思わず空を仰いだ。

そこで今日は5月の、太陽が隠れた曇り空だということに気がついた。

6/28/2024, 11:10:10 AM

夏と聞けば、
何か大きな冒険が始まるような気配がする。
大海原を船で進んだり、
蝉の声が反響する神社に行ったり、
普段行かない道を通ってみたり、
電車を乗り継いで、自分が知らない場所に行ってみたり、
そうやって、一夏の冒険を探しに行くのだ。

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