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1/12/2025, 12:01:20 PM

小鳥のさえずりで目を覚ました。
慌てて時計を確認したが、そういえばと昨日上司に辞表を叩きつけたことを思い出し、もう一度布団に潜った。午前10時のことだった。

どうして辞めてしまったのか、ハッキリとした理由は無い。仕事はそこそこ上手くいって、人間関係も良好で、上司にも将来を見込まれていた。ただ、心残りは全く無かった。

焼いたトーストにバターを塗って、チーズ、ハム、レタスを間に挟んだサンドイッチと、市販のコーンスープで昼ごはんとした。
それをペロリと平らげたら、することが無くなってしまった。いつもは仕事に関する勉強をしていたが、もうその必要もないだろう。

何の気もなしに昔のアルバムをペラペラとめくっていたら、ある写真が目についた。
中学3年生で賞を取った、水彩画の写真だ。
一時期毎日のように描いていたが、高校・大学に入って時間が無くなり、結局この写真の作品が最終作となってしまったのだった。

「わたし、しょうらいはえかきになるの!」

幼稚園の記憶が鮮やかに蘇る。
そうか、私は絵描きになりたかったんだ。
けれど、“忙しい”を理由に諦めてしまった。
“向いてない”“どうせ続かない”
ネガティブな言い訳で、私の気持ちに蓋をしていたのかもしれない。
それが今日、一気に放たれたのだ。

画材は実家に置いてきてしまった。
なら、また新しいものを買えばいいだろう。
今まで無趣味だった分、貯金はたっぷりと溜まっている。時間だって余るほどある。

そうだ、今日から気が済むまで、
もう一度だけ、追いかけよう。
あの夢のつづきを。

12/22/2024, 8:20:58 AM

違和感を感じたのは、その週の頭だった。
空が変だ。
具体的な「何か」は分からないが、
それでも「何か」が変。
見続けると頭がおかしくなりそうな、青色の空だ。
知人は何も感じていないらしい。
それどころか、「以前より空を見上げるようになった」と言う。
こんな不気味な空を、よくもまぁ。

異常に気づいたのは、その次の日だった。
街に出ると、半数以上の人間が空を見上げている。
まるで空に映画が上映されているかのように、周りの視線が青空に吸い込まれている。
空を見上げるも、当然そこには何も無い。
ただ、不気味な青色の空だ。

世界の終わりかと思った。
その一週間後、大空に目玉が浮かんでいた。
じっとこちらを見下ろす、神の目のようだ。
ベランダから街を見下ろすと、ほぼ全員が空を見上げている。瞬きもせず、空の目を見つめ返している。
今日の空は夕焼けを煮詰めたような赤色だ。
俺はすぐに家に入り、カーテンを閉じた。

その次の日、何も無かったかのように一日がやってきた。空は元に戻り、街の人間もスマホに目線が釘付けになっている。
おかしな点といえば、知人が減ったことだろうか。
どうやら俺は二週間ほど、誰とも会話しなかったらしい。
一昨日に空について会話した知人がいたような気がしたが…今は顔も名前も思い出せない。

12/19/2024, 12:28:03 PM

「さようなら!!」
友達の元気な別れの挨拶が、どうしてか今日は特別に胸に響いた。遠ざかっていく小さな背中を追いかけたくなる。声を掛けようとしても言葉にならず、じわりと目に涙が滲んだ。
別に何かあったわけじゃない。
いつもこんな気持ちになっているわけじゃない。
ただ、今日は行ってほしくなかった。
そんな日もあるということだ。
気持ちをグッと抑えて、帰路へ戻ろうとしたその時だった。
何かが勢いよく私の背中にぶつかる。
思わず振り返ると、そこには笑顔でこちらを見上げる、私の友達がいた。
「え、どうしたの?」
平静を装うとも、声がひっくり返る。
「別に〜!今日は家まで付いてこうかなって!」
「どうして?」
「うーーん…そんな気分だから!」
えへへ!と友達は笑って、私の手を握った。
あたたかい。
あたたかいなぁ。
溢れそうな涙を堪えて、私はその小さな手を握り返した。

12/8/2024, 3:09:24 PM

急なお手紙でごめんなさい。
でも、これだけは一番に伝えたかったので、筆を取らせていただきました。
私は、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に選ばれました。
なので、明日からは⬛︎⬛︎へ引っ越すことになります。
もう会えないかもしれません。
ごめんなさい。
ダメだ、私謝ってばかりいますね。
あなたが言ってくれたのに。そんなに卑屈になる必要はないって。何も悪くないって。
私、嬉しかったんですよ。
そんなこと言ってくれる人、周りに誰もいなかったから。ギュッと抱きしめて、頭を撫でてくれる人なんて、いなかったから。
初めてを沢山くれた。
愛をくれた。
私、幸せだった。
でも、もうダメみたいです。
神様に見放されちゃいました。
こう言ったらきっとあなたは怒るだろうけど、最期に言わせてください。

今までありがとう、ごめんね

12/7/2024, 2:42:05 PM

部屋の片隅で、もう一方の片隅を見ている。
何かが立っている。
気配はあるが、見えない。
幽霊かもしれない。
「あなたは誰ですか?」
と声を掛けたら、気配が無くなった。
きっと、人見知りの幽霊なんだろう。

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