人間には、ココロというものがあるらしい。
それを知ったキッカケは、
「アンタさぁ、ヒトのココロないわけ?」
私に構ってくれる唯一の人間である彼女が、私の話を一部始終聞いた後に放ったこの一言だ。
「そもそもヒトじゃあありませんし」と口では返しながら、彼女が言う「ココロ」が引っかかった。
なんだ?ココロ?人間が持っているものだろうか?
……ただ、ココロについて聞いて「そんな事も知らないんだ〜」と馬鹿にされるのが癪で、その時は気持ちを押し込んで、彼女との会話を続けた。
ある日のことだ。
いつもの待ち合わせ場所に、彼女が来ない。
多少時間にルーズなところはある彼女だが、これだけ遅れるのは珍しい。
……何かあったのだろうか。
なぜか数日前に見た猫の死骸が頭をよぎり、慌てて首を振る。それでも収まらず、真っ平に潰れた車や赤い血の色といったイメージが次々と脳内に溢れる。
胸がざわめく。
呼吸が荒くなる。
嫌な鼓動が耳を打つ。
ふと、ふらりと足を踏み出した、その瞬間である。
「ごっめん!お待たせ!!」
息をあげた彼女が視界の端から現れた。茶髪のショートカットにラフなファッション。いつもの彼女だ。
フッと全身の力が抜ける。
「……遅い、です」
思わず漏らしてしまった低い呟きに、彼女は目を丸くした後、ケタケタと笑う。
笑い事ではない。私は…私は本気で…
「なーにその顔!やっぱりアンタにもココロ、あるもんだね!」
ココロ。またその言葉か。
「アンタさ、私を心配してくれたでしょ?不安になったりソワソワしたり……って言ってもわかんないか。
とにかく、私を待っている時に感じたーあー…それがココロだよ!ココロ!」
最後はもだついたが、彼女の言いたいことは分かる。
それにしても、これがココロか。人間だけの機能にして欲しかったものだ。
もうあんな思い、二度とごめんだから。
2/12/2025, 6:15:05 AM