まとまったお金ができた。
という友人に、私は質問した。
「そんなに貯めて、何に使うの?」
「旅行だよ」
旅行か。どこか漠然としている。
「どこに行くの?」
「ここではないどこか」
そう言った友人の目は、叶わない夢を見る子供のようにキラキラ輝いていた。
私はそれが、なんだか馬鹿みたいに悲しかった。
君と最後の会った日、
それは君と最初に会った日で、
そう、それは僕の一目惚れで、
場所はよく晴れた屋上で、
僕が君に話しかけようとした瞬間、
君は笑顔で空に溶けていったんだ。
無理だった。ほんとに無理だった。
クラスメイトから半分ノリで推薦されたミスコン。
何かの手違いか、神様の気まぐれか、私は最終選考まで残ってしまった。
ただここまで残れたのは容姿だのポーズだの、外見が良ければまぁなんとかなる選考が多かったからだ。
最終選考はまさかの歌唱。聞いていない。
クラスメイトをキッと睨むと、曖昧な笑顔を返される。誰も私がここまで残るとは思っていなかったのだろう。当の本人だって思わなかったのだから。
他の候補者の『アイドル』を聴きながら、私は手に汗を滲ませていた。あぁ、なんて可愛い声。
「石沢 穂花さん、出番です」
私の名前が呼ばれた。ステージに立つ。
帰りたい。こんな大勢の前で歌う勇気は無いし、あんなに可愛くに歌えない。
助けを求めるように観客席を見渡すと、見覚えのある綺麗な黒髪が目に入った。私の視線に気づいてか、彼女の口が動く。
「がんばれ」
その瞬間、私の中で何かに火がついた。
「優勝おめでとう!」
ミスコンの後、私はトロフィーと共に、クラスメイトに囲まれていた。
「あんな歌上手だったんだ!」
「最高だった!!」
「みんなびっくりしてたよ!」
みんなの言葉に笑って返しつつ、頭は別のことを考えていた。あの時、私の緊張を全て吹き飛ばしてくれた、私の大好きな人のことを。
あの子はいつも、未来の話をしていました。
「来月、推しのライブがあるんだ〜!」
「スタバの新作出るんだって!来週!」
「明日は快晴らしいよ〜体育辛いな〜」
なんて、笑って私に話してました。
この子は、明日があると信じてました。
明日がある事を疑いませんでした。
こんな日がずっと続くと。
未来があると。
だから、私は生きていかなければいけないんです。この子の分までちゃんと。
だって約束したんですよ。
「一緒に、未来まで行こうね」
約束、したんです。
カーテンを開けて、
暖かい黄色の日が差し込んできた時、
私はむやみにほっとしてしまう。
今日も、生きることが許されたのだと