おつむの弱い人は、流行りの知識の帽子を
やたらと被りたがります。
見せびらかすだけの帽子がいかに役に立たないか、
そんなことさえ知らずにいるのです。
そうして、流行の風に帽子を飛ばされると
寒くなった頭に新品の情報の帽子を被るのです。
そんな脳みそもたましいも詰まっていない頭を
帽子ごと叩いたら、馬鹿みたいに音が響いて
さぞ気持ちが良いでしょう。
知識も情報も必要な分しか身にまとわない
賢者の帽子が見てみたいものです。
きっと、ひさしの下から覗く額は
神々しく輝いていましょう。
先人の知恵とたましいを受け継いだ脳髄は波打ち、
皮膚の表面を星々のように煌めかせましょう。
思わず、こちらの帽子を取って
挨拶したくなるような尊い人の帽子は
どこで見られますか。
(250128 帽子かぶって)
小学生の冬、私は足元にあった氷の破片のような雪玉を同級生に投げつけた。向こうにちょっかいを出されたと思うが覚えていない。だが、当時の私は相当怒り狂っていたようで、氷の投球に相手の顔の一部を切ったらしい。
彼は、牙を剥き出した狂犬を目の前に怯えて死にそうな顔をしていた。そんな顔を見て正気になった私は、ただただ大声でごめんと叫んだが、相手は泣きながら逃げていった。私の耳の中では謝る声は響いているのに、辺りに積もった厚い雪のせいか、彼の耳には届かなかったのだろう。
おそらくあの日から私が転校するまで、私物の上着に悪口をペンで書かれるようなイジメが、私の知らぬところで行われていたと考えられる。そんな事実に、人の見えてはならない裏側を覗いてしまった不快感を覚えた。
だがそれよりも、私の中に古から研がれてきた殺意がちゃんと存在し、ちょっとした弾みで人さえもあやめられるのだなと小さな勇気の目覚めに気持ちがたかぶった。
(250127 小さな勇気)
—— ミアキスは、一体何と鳴いていたのやら。
—— わおんわおん、おわあおわあの双方をごちゃ混ぜにした、わおあんと鳴いていただろうか。
—— やがて、地に降り立ったミアキスは犬となって、孤独に耐え消えず、わおんと月に吠えている。
—— 木の上に昇り続けたミアキスは猫となって、おわあ、こんばんはと月夜の挨拶をしている。
「じゃあ、私が今、わぁ! って月に向かって言ったら、人間になったミアキスが鳴いているなって聞いてくれるかな」
「ミアキスが火を使うようになるとそう鳴くのかい」
「うん、自分で初めてマッチに火を点けた時、そう言ったよ」
「わぁ、そいつはびっくりだ」
(250126 わぁ!)
800年代の月には、千年を経て今もなお、幻想に輝く姫がいる。
1100年代の月には、死さえも輝かせる月光を浴びて、花と共に散って夢叶った僧がいた。
1920年代の月には、生き別れた子を探し求め、寂しがる母親のあざらしが太鼓を叩き続けている。
1990年代の月には、あれもこれもラブと教えて、扉の向こうで待つ人々にも愛をあげる勇気を与えた王がいる。
2000年代の月には、名前を呼びたくて、アリスのようにさまよいたくて、歌手がワルツを踊った。
そうして、2020年代の月には、どんな物語があるのだろうか。月の満ち欠けのように、終わらない物語の遺伝子の中に私も巻き込まれたい。
(250125 終わらない物語)
私の舌ね、ホクロがあるんだよ。
そう言って、彼女はこちらに向かって舌を出した。
熟れた果肉のように赤い舌先が笑って震えている。
彼女にあかんべえをされた。
(250124 やさしい嘘)