親から「待って」と言われた記憶が無い。ただ忘れただけだが、別に言われなくても私は小さい頃から親元を離れずに居続けている。引きこもりの父親譲りだ。立派なものだ。さすがに死ぬまで一緒なのは御免蒙る。
待てと言われずに育ったから、自身の暴走を自ら止めなくてはならない。これが苦痛なのだが致し方ない。
親は、子どもの自傷行為を止められない癖に、自立しようとアルバイトをしたいと言い出す子どもに、お前には無理だと立ちはだかる。
いつぞや、高校で知り合ったクラスメイトと遊びに行く時も何故か止められた。理由は覚えていない。些細な喧嘩だったのだろうが、私は親から屈辱を受けるも、何もできずに狸寝入りをした。
こうして見ると、待てとは言われていないが、お前はここから離れられないのだと言い聞かせられて育ったのか。人はこれを過保護と言って、更に親馬鹿だからだと一笑に付すだろう。
私としては、リジー・ボーデンよろしく親どもの頭を斧でかち割ってやりたいものだ。
けれども、理性が待てという。人の頭の中を覗き込んでいる皆々様は、私の中にいる天使と悪魔のショーを期待しているだろうが、これでも仏教が根付く日本国の出身だ。そんな者は居ない。
16回ほど生まれ変わった身なのだから、1回ぐらい人殺しを経験した たましいぐらいいるだろう。そのたましいが、「まって」と言っている。
殺されても死んでも人間の悪癖は治らないと。
(250518 まって)
本当は、彼や彼女と性別を分けること自体、
まだ見知らぬ世界だった。
自然界には、性別なんてほぼ無いに等しい。
わたしはわたし、あなたはあなた。
同じ土から生まれたけれども、
それぞれの美しさを持っている。
互いに敬意を払って命を分け与えた。
ありがとうもごめんなさいも言わなくていい。
ただ同じ土の上で生きている、
それだけの付き合いだ。
多様性に満ちた生命が本当の世界だ。
しかし、人間が無能にも科学を片手に、
性別も個体も敬意も命も切断してしまった。
科学の電気で本当の自分の性さえも焼き殺した。
無様な燃えかすで出来た空虚な世界はもう目の前だ。
死に損ないの焼骨がジタバタと暴れている。
独りになりたくないと幼稚に泣き叫んで、
わたしを呑み込もうとする。
わたしはわたし、あなたはあなた。
それだけでもう満足ではないのか、と
わたしは股の血から溢れた火を哀れな灰に点けた。
あらゆる生命の息吹を糧に燃える炎に包まれろ。
(250517 まだ知らない世界)
本当に美しい仕事をしたいのなら、
今の仕事を辞めなさい。
親から離れなさい。
家から出て行きなさい。
住み慣れた土地から遠ざかりなさい。
空想から目を覚ましなさい。
自信が無い自分を抱きしめなさい。
どこへ行っても同じだと悲観しないで歩きなさい。
とにかく歩きなさい。
自分の為すべき仕事を果たしなさい。
読書が生み出す美を伝える為に顔を上げなさい。
そう私を奮い立たせる言葉に応えるには、
あと何回手放す勇気を持たねばならないのか。
死んでも終わらないかもしれない。
(250516 手放す勇気)
そうして照らされた自分の影が、白い光の中で孤立した。周囲の生温い暗闇は、今も私をしつこく包み込んでいる。後ろから抱擁するのは、生温かい闇か、凍てつく光か。
「お前は孤独なのだ、全くの孤独だ!」
頭上から1890年代の青白い月が、声高に笑いかけた。
(250515 光輝け、暗闇で)
生命溢れる酸素を吸っても、
愚痴しか言わず、
痰しか吐かず、
騒音しか立てられず
クソしか出せないのだったら、
私が空気になって、
無駄な呼吸を繰り返す人間の
息の根を止めてやる。
(250514 酸素)