作家志望の高校生

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3/23/2026, 8:35:58 AM

ある日。いつも通り学校へ行って、いつも通り靴を履き替え、教室へ入る。
普段からギリギリを狙って登校する俺は、大抵、人の活気に満ちた教室を見ることになる。
そう、いつもなら。
普段通り、予鈴が丁度鳴るような時間にドアをくぐる。
しかし、誰もいない。本当にいない。なんなら電気さえ付いていない。
一瞬、今日は休みだったかと錯覚しかけたが、隣のクラスから朝礼の挨拶が聞こえる。
ならば、うちのクラスだけが、学級閉鎖か何かで休みかと学校からの連絡を片っ端から漁ったが、やはりそんなものは無い。
どうすればいいか分からず困惑したまま、既に二十分が経とうとしていた。
もう朝礼はとっくに終わって、1時間目が始まる頃のはずだ。
でも、やっぱり、いつまで待っても先生すら来ない。
そこまで行くと、俺は一周回ってテンションが上がってきた。
誰もいないなら、何もしなくてもいいだろう。というか、帰ったって文句を言う者は誰一人いない。物理的に。
いそいそと鞄を背負い直した辺りで、薄っすらと遠くから、規則的な電子音が聞こえてきた。
「…………夢かよ……」
擦り倒されたお決まりすぎる展開に溜息を隠しもしない。
夢オチ。何の面白みもない、ありふれたオチのつけ方だ。
寝ぼけた頭を引きずって、夢の中でもうしたはずの身支度をもう一度やり直した。この光景を見るのは本日二回目。なんだか損した気分になってきた。
夢で見た通学路を通って、夢で見た電車に乗って、夢で見た通りに登校する。
しかし、現実の学校は夢なんかよりずっとうるさくて、楽しげで、めちゃくちゃだった。
教室の扉をくぐると、いつも通り、もうなんとなく完成されたグループにまとまった生徒たちが、ガヤガヤとてんでバラバラな話をしている。
あんな寂しい夢なんかより、この不条理で、めちゃくちゃで、バカらしい現実の方がずっと面白そうだと、小さな笑みが溢れた。
登校してきて早々ニヤついていたせいで、俺に話しかけに来た友人に引かれたのは言うまでもない。

テーマ:バカみたい

3/22/2026, 8:45:32 AM

「ねー、もう帰ろ……何食ってんの?それ。飴?」
放課後を告げるチャイムがなってから、もう三十分は経っただろうか。
俺を待ちくたびれた友人が、机にしなだれかかるように顔を覗かせた。
「……ん〜……もう帰るよ。今食べてんのはあめ。」
間延びした返事を返して、鞄を手に取って席を立つ。
口の中で転がしたあめが歯に当たって、かろん、と軽い音を立てた。
「俺も食べたい。一個ちょうだい。」
友人の手のひらが、図々しく目の前に差し出された。
俺は軽く溜息を吐いて、鞄から飴玉の袋を取り出す。
「やりぃ。」
手の上に個包装の飴を2,3個乗せてやれば、彼は満足したように手を引っ込めた。
隣からビニールを破く音がして、それから、俺と同じように、口の中で飴を転がす音がする。
「そういやさぁ、アイツ大丈夫?お前仲良かったじゃん。ほら……あの……アマネ、だっけ?」
びく、と肩が跳ねた。
友人はなんでもない世間話のつもりだったのだろう。
だが、俺にとってはあまりに身近で、あまりにタイムリーな話題だった。
「……さぁ。仲はいいけどさ。アイツ元々連絡よこすタイプでもないし。」
アイツは、一週間ほど前から学校に来ていなかった。
教師が親に連絡を取っても、両親さえ居場所が分からないという。
親しかった俺にも当然聞かれたが、分からないと答えた。
「ふーん……今警察も探してんだろ?見つかるといいな。」
友人の声が遠く聞こえる。
口の中のあめは、いつまで経っても小さくはならなかった。
友人の飴玉を転がす音は、もうとうに止んでいる。
「……そうだね。アメ、どこいったんだろ。」
雨音。俺の親友。アメ、というのは、幼かった俺がつけたあだ名。
やがて始まった友人の愚痴をBGMに、俺は家にある大量の肉の消費方法を考えていた。今日も、夕飯は肉料理になりそうだ。
舌の上では、甘さのないあめが存在を主張していた。

テーマ:二人ぼっち

3/21/2026, 8:40:00 AM

僕には恋人がいた。そう、過去形である。
なんでもない日常が楽しくて、幸せで、僕は少し浮かれていたのかもしれない。
同性同士で、当然壁は多かった。けれど、その分実った時の喜びも、一入だった。
それが今、たった一瞬出来事で、耳障りな甲高いブレーキ音で、全部壊された。
歩行者用の信号は間違いなく青で、周りの悲鳴がよく響く。
仰向けに倒れ込んだ目に映った空は、憎たらしいくらいに綺麗な夕日に焼けていた。
飲酒運転の大型トラック。そんな、ありきたりで、誰かの日常のニュースの一コマにしかならないような事故だった。
でも、それで壊された僕らの日常は、一生モノの傷になった。
2人とも意識不明の重体だったらしい。僕を庇おうとした彼は僕より重傷で、病院に運び込まれる頃には心肺停止の状態だった。
救急車に乗せられた、僕の意識が飛ぶ寸前、閉じた瞼の下で響く電子的な鼓動の音が、僕を余計不安にさせた。彼の鼓動はいつだって優しくて、ずっと僕を安心させてくれたのに、今日ばかりはその鼓動が怖かった。
僕が目を覚ましたのは、それから3日後のことだった。目を開けた瞬間の眩しいくらいの白と、泣き崩れる両親の声をよく覚えている。
しかし、目覚めた瞬間の僕はそれどころではなかった。涙が止まらなくて、視界が滲んで、音が遠かった。
目が覚める、恐らく数十分前。僕は、淡い夢を見ていた。どこかも分からないふわふわした空間で、彼の膝に頭を預けて、優しく優しく髪を梳かれている。
どこかは分からなかったけれど、酷いくらい心地よくて、ずっとそこにいてもいいかとぼんやり感じていた。
不意に彼が手を離して、少し眉根を寄せて、泣きそうな目をして笑った。
背中に手が触れて、軽く前へ突き出された。僕は柔らかなそこから追い出されるように、真っ逆さまに落ちていく。
その寸前、名残惜しそうな彼の唇が、掠めるように僕の唇に触れて、離れた。
結局、彼の意識は戻らなかった。僕の代わりになったんだと思う。
なんともありきたりで、なぞり尽くされた物語。
けれど、あの夢が醒める寸前の唇が、手が、目が、全部が焼きついて、僕の人生から離れてはくれないのだ。

テーマ:夢が醒める前に

3/20/2026, 8:36:49 AM

「ぐぬぬ……」
俺はしがない無名の作家だ。
そんなに人気でもない雑誌の片隅で、掲載させてもらっている。
当然これだけで食っていけるはずもなく、夜にはバイトを詰め込んで、寝不足でフラフラのまま筆を執る生活を、もう何年も続けている。
さて、そんな俺だが、最近ようやく、少しずつ軌道に乗ってきたのだ。
じわじわと固定のファンが増え、僅かながらにファンレターが届くようになった。
そこで、少し長めの作品を掲載をしてみないか、と声をかけられたのだ。
だが、短編作家が中編を書くのは中々に難しい。
オチは思い付く。書き出しもなんとかなる。ただ、そこを繋ぐ間が、全く書けない。
初回は安定を狙おうと、王道の恋愛モノにしたのは間違いだったかもしれない。俺は生まれてこの方、恋人なんてできたこともない。
「……恋って何だよ……」
哲学的な問いを口にしてみても、現状は何も変わらない。相変わらず繋ぎは白紙のまま、中途半端な恋模様が画面上を漂っている。
今日はもう無理かと諦めて、キーボードから手を離した。息抜きに糖分でも摂ろうかと思い立って冷蔵庫を覗くも、何もない。
そういえば、散歩は閃きの元だと誰かが言っていた気もする。散歩がてら、コンビニにでも行こうと適当に上着を羽織った。
もう雪はすっかり溶け切っていて、梅の蕾が綻んでいた。まだふっくらしている野良猫が、同じく丸々とした雀を追い回すのを横目に、煌々と明かりの灯るコンビニに足を踏み入れた。
気の抜けた店員の声に頭を上げ、固まる。
顔面国宝、そんな言葉が頭を駆け抜ける。男でも見惚れるような、気怠さを孕んだ、いかにも夜が似合いそうな男だった。
俺は本来の目的も忘れて意味もなく店内を歩き周り、ぼんやりしたままコンビニスイーツを買って帰路についた。
恋愛モノのヒーロー役のモチーフが彼になったのは、言うまでもない。
あの時の感情を好き勝手書き殴って、俺はもはやヒロイン気取りまであった。
仕方がない。だって、不覚にも男相手に胸が高鳴ったのだ。作家として、これをネタにしない手筈はない。
その日の原稿は、いつもより少しだけ人気を博したらしい。

テーマ:胸が高鳴る

3/19/2026, 8:50:44 AM

ぷるりとした露を、紫陽花の葉の上から滑り落としてみたり。
あるいは、道に落ちたカラカラの落ち葉を勢いよくふ(つぶしてみたり。
そういう、どうしてもやりたい、説明のつかない破壊衝動は、きっと皆持っている。
普段は、その矛先が人間でないからと見て見ぬふりをして、あまつさえ外でそれらの欲求を満たしている。
そんなのは許されるのに、何故僕は許されないのだ。
自分一人に向かって集中するカメラのフラッシュと、軽蔑と好奇心を孕んだ人々の不躾な視線が、僕を真正面から貫いていた。
昔から、破壊衝動の抑えられない子供だった。
友達の作ったブロック製の城や砂の山なんかを、衝動に急かされるままに壊しては友達を失ってきた。
端から見れば、僕は最低最悪の人間なのだろう。
人様のものを壊して、それで喜んでいるのだから。
それはいい。だって、事実だ。
僕が他人のものを無許可に破壊したのも、それが楽しかったのも、全部事実だ。
僕が気に食わないのはそこじゃない。
僕が嫌なのは、清廉潔白を装って僕を叱る、正義ヅラした肉塊たちの存在だった。
皆、本質は僕と同じくせに。
僕なんかより、ずっと巧妙に、ずっと気味の悪い衝動を隠し持っているくせに。
僕に向いたフラッシュは、君たちの抱える衝動の化身だ。
無責任に、他人の落ちぶれる様を見たい。
めちゃくちゃになった他人の人生を、あくまで他人として消費したい。
皆、そう思っている。
モノを壊して喜ぶ僕と、ヒトを壊して喜ぶ君たち。
どうして僕がそんなに責められなくてはならない。君たちの秘めるその衝動のほうが、ずっとずっと醜くて汚いじゃないか。
幼稚な僕は、その不条理と苛立ちを堪えきれなかった。
僕の破壊衝動はその日、初めて人間に向けてふるわれた。

テーマ:不条理

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