作家志望の高校生

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4/17/2026, 9:22:55 AM

幼少期からずっと、何か動物を飼ってみたかった。
ただ、幼い頃はまだ単純で、頭だって悪かった。
けれど、大きくなるにつれて、長袖じゃなくたって魚は人を噛んだりしないと学んだ。
そこらの海にペンギンはいないと知った。
小さい頃は大人になれば勝手に機危機が全部なくなるのかと思っていたが、そうではない。
大人になるにつれ皆現実を知っていって、僕のように、魚と話せたり、魔法が使えたりするような幻想の世界は誰も見えなくなってしまう。
僕一人だけが、あの幼い日の絵本の中に取り残されていた。
今だって、海に行けば色とりどりの小魚と珊瑚に迎えられ、悠々と泳ぐウミガメの背に乗って、クジラの背中で昼寝ができると思っている。
でも、そのどれもがどこかハリボテじみていて、結局僕も周りの大人達と一緒なんだと、幻想を信じられない、俗世界に染まった人間なのだと分からされた。
いつかはふわふわとしたおとぎ話の世界を現実に描いた僕の心は、もう形骸化した夢の世界の破片を必死に掻き集めて繋ぎ止めているに過ぎない。
もう僕は、喋る魚なんていない、帰ったって誰もいないことをとっくに知っている。
職場を出て、家に向かった。
雑多な家具と捨てられないゴミに囲まれた、狭く古いワンルーム。
ぱちりと瞬きをして、僕は現実から逃げ出した。
ボロボロになった幼児の心を呼び覚ませば、この部屋はたちまち宝の山に変わる。
捨てられないお菓子のパッケージは、キラキラ光を反射するホログラム担当。
配置を決めきれなくてぐちゃぐちゃの家具は、家の中を楽しい迷路に変えている。
こんな部屋では、動物を飼うなんて夢のまた夢だ。
けれど、ふわふわとして夢の中の僕は、この部屋を幻想的な色をした子犬や子猫の駆ける幻影を確かに眺めていた。

テーマ:夢見る心

4/16/2026, 8:39:30 AM

ずっと昔、2人で剣を預けあった親友がいた。
騎士養成学校時代、成績は常にワンツーで、その差も常に極わずか。抜いて、抜かれて、また追い抜く。そんな学生時代だった。
太陽と月、白虎と黒獅子、光と影。
俺達は常に表裏一体で、互いを良き戦友として、好敵手として認めていた。
そんな関係が変わったのは、数年前、王国と帝国の間で大規模な戦争が起きた年だった。
2人ともよく似た成績で、他の誰より優秀。
そんな俺達は、二つある騎士団のエースとしてそれぞれ据えられた。
彼は、戦場に先攻して場を開く第二騎士団に。
俺は、彼等の開いた道を進み、支配を着実なものにする第一騎士団に。
俺はこの配置を、当時は何一つ疑わなかった。
彼は俺より僅かに上背があったし、その僅かな違いだって戦場では大差になり得るから、彼がより戦闘の激しい第二部隊に送られたのだと信じていた。
けれど、俺と彼では、たった一つだけ大差のついたものがあった。
それが、身分だ。
俺はそこそこの貴族の出で、彼は元々平民、更に血を辿れば奴隷だった時代すらある。
彼は俺の代わりに、捨て駒のように第二部隊に送られたのだ。
そう気付いた瞬間、俺は初めてこの国に対する明確な怒りを抱いた。
その日の晩、俺は仲間の制止を全て力でもって振り切り、夜中に戦場へ駆けた。1秒でも早く、彼と代わりたかった。彼の背を護りたかった。
けれど、そこに待っていたのは地獄の一言に尽きる光景。
顔馴染みの同期が、いつか労ってくれた先輩が、自分の後ろをついて回っていた後輩が、屍となって塵のようにそこらに転がっている。
こみ上げる胃酸を無理矢理飲み下し、俺は見慣れた黒髪を探した。
彼さえ生きていてくれれば、まだ救われた。
同期も、先輩も、後輩も、彼さえいてくれればその死を乗り越えられた。
それなのに。
雨の降りしきる戦場の中央で、第二騎士団のものである黒い鎧に身を包んだ彼の、首から上だけを腕に抱いていた。
真横に転がった彼の身体と愛馬は、もうとっくの昔に温度を失っている。
まだ、何も伝えられていないのに。
かつては清く、美しく澄んでいた筈の淡い淡い慕情の念が、急速に濁って、汚れて、穢れにも近いような悍ましい何かに変貌するのを、腕の中の濁った瞳だけが知っていた。

テーマ:届かぬ想い

4/15/2026, 8:54:47 AM

ある男が捕まった。
山の中、とある少年を一人攫って画していたらしい。
保護された少年に目立った外傷は無く、ただひたすら、警察関係者を押し退けて男の元へ寄ろうとしていた。
世間は洗脳された少年を酷く哀れみ、男に対するヘイトはみるみる高まっていく。
やがて男は、勾留中に自らその命を絶った。
それを知った世間は、ある者は掌を返して男を哀れみ、またある者は罪を償わずして死んだ男を罵った。
ただ、攫われた被害者の少年だけが、酷く絶望したように、親の死を信じられない子のように泣いていた。
男は、死ぬ直前、少年へあてたものだと思われる手紙を遺している。
内容は、取り留めもないような雑談から始まって、何度も何度も謝罪の言葉が繰り返されていた。
本物の父親になれないこと、少年をまた一人にしてしまうこと、少年の両親から、彼を救うことができなかったこと。
角張った、少し乱れた字で、ただひたすらに謝罪の意が連ねられていた。
世間がこの手紙を知ると、男の手紙の意図を皆して考察し始めた。
攫われた少年も、自らの手で命を絶った誘拐犯も、顔も名前も無い世間にとっては玩具も同然。
一過性の、新しい刺激を与える話題でしかない。
それからまた数日後、今度は少年が、かつて男に攫われ、軟禁されていた山の中で自死したことが報じられた。
彼の遺体のすぐそばには、あの手紙への返信のような、それでいてどこかずれた中身が並べられていた。
あの日自分を連れて行ってくれて嬉しかったこと、毎日温かい食事が出てきて驚いたこと、頭を撫でる手のひらの感触が新鮮だったこと。
世間が予想した男の犯行と、随分食い違う手紙だった。
瞬く間に話題を呼んだこの一連の事件は、しばらくすればもっと新鮮で刺激的なニュースにすり替わり、世間はその関心を失っていく。
それからまた数週間後、あの事件の終末が、新聞の片隅でひっそり迎えられる。
男は誘拐犯であると同時に、酷い虐待家庭から少年を救い出した者であり、歪な愛情を求めた者でもあった。
少年は被害者であると同時に、異常な程の盲信を孕んだ歪んだ思想の持ち主であり、男の歪んだ求愛欲求を完璧に満たす者だった。
男が少年に宛ててしたためたあの手紙はきっと、救世主になりきれなかったことへの懺悔だった。
少年が男に宛てて遺した手紙はきっと、自分の信じる神に対する、最上級の愛の言葉だった。
世間が関心を失った、白黒の文字の世界の中で、神になりきれなかった男と、歪な神を信じた少年の物語は、密かに幕を下ろした。

テーマ:神様へ

4/14/2026, 9:17:10 AM

じりじりと、頭を焦がす強い日差しの下だった。
俺は、神を拾った。
お守りとかお札とか、そんなんじゃない。
人間の形をして、淡く光る何かだ。
初めは俺だって疑って、近付く気は無かった。
しかし、いくら歩いてもこの何かから離れることはできなかったのである。
一歩歩いて、二歩歩いて、そこまでは動ける。
けれど、三歩目は許されないようで、風も音も一切無いまま、元の地点に戻されてしまう。
そんなこんなで、仕方なく、本当に不本意ながら、俺はこの不審生物を家に上げた。
奴は本当に人間のことを何も知らないようで、俺の家に乗り込むなり早々、狭いだと汚いだの散々不満を垂れてきた。
追い出そうとすれば、さすがにそれは止んだが。
呼称が無いのも不便だろうと、仮で名前を付けた。
鬱陶しいくらいの晴れの日に拾ったそいつは、適当にそれらしい字をこねくり回してヒナタと名付けられた。
ある日、本当に神なのか疑わしくなって、ヒナタを突き回してみた。
初めてきゃらきゃら笑うだけだったヒナタも、ずっと無言で突かれ続けると困惑の気配が滲んできた。
ふわふわと淡い光を放ちながら、俺の手を止めることもできずオロオロしているヒナタな、やけに可愛く見えた。
ヒナタは観察した俺の身体をベースに自分の体を模っているらしく、初めは性別も曖昧だった肢体は、確実に男性的になっていた。
ヒナタが人間の真似も随分上達して、一人で買い物にフラフラ出かけることも多くなっていた、ある日だった。
最近は消せるようになってきたとはいえ、淡く光っていたヒナタのことを怪しむ人々も一部にはいた。
でもこれまでは、そんな人々もさすがに遠慮の感情はあるのか、或いはヒナタが何かしていたのか、家に来るようなことは一度もなかった。
しかし、今日。
ヒナタが出かけていたある時、インターホンが鳴ったのだ。
男の一人暮らしで警戒心のけの字も育たなかった俺は、無警戒に扉を開けてしまった。
そこにあったのは、好奇と疑いと、異端者を排除しようとする者たちの歪んだ光。
俺は手首を掴まれ、そのまま家から引きずり出された。
その瞬間だった。
ヒナタを拾ったあの日、快晴のあの日のような、眩い光を背負ったヒナタが、これまでに見たことがないような顔で立っていた。
次に俺が瞬きをした瞬間には、全てが終わっていて、何が何だか理解もできなかった。
ヒナタは快晴の空の光を浴びながら、無垢で純粋な、何の曇りも無い笑顔を浮かべている。
翌日。俺の家の周辺で、数人の男女が行方不明だとニュースキャスターが話すのを、俺はぼんやり聞いていた。

テーマ:快晴

4/13/2026, 9:43:14 AM

遠い、とはなんだろうか。
物理的に距離が離れていることなら、現代の加速した移動手段によってその距離は縮まっただろう。
では、心理的な、隔たりだとか差別だとか、そういった類いのものだろうか。
それだけが遠いかと問われれば、どうにも納得できない気がする。
こんな不毛な問いを、もうかれこれ2時間は議論していた。
「だーかーらー!物理的な距離なんてどうでもいいんだってば!」
隣に座る、小柄で可愛い顔のくせに縄地区内一升瓶を抱いた男。
彼は、心理的な距離こそ遠さなのだと、酔う度に俺に力説してくる。
「……いや、結構遠いってのは物理的や距離のことだろ。他にどんな意味があったって、それは物理的な距離にその事象を例えているに過ぎないんだから。」
目の前で湯気を立てる焼き鳥を程々につまみつつ、彼の弁論に乗っかってやる。
彼はまだ心理がどうたら、差別がどうたらなどと語っているが、あの飲みっぷりと酔いっぷり、首の角度からするに十分後には電池切れだろう。
なんて思っていた矢先だった。
彼が突然、思い立ったように紙ナプキンで何かを折り始めた。
酔っ払いのブレブレの指先で作られる、不格好な紙飛行機。
紙ナプキンでは紙が薄すぎて、いまいち上手く自立しない。
一応形になったところで、彼が席を立った。
転んで騒ぎにされても面倒だ。
そんな打算的な考えを以て、俺は彼の横について行ってやることにした。
決して、久しぶりに見た紙飛行機に少し惹かれただとか、そんなことは無い。
彼は騒がしい居酒屋の暖簾を一度潜ると、へろへろの紙飛行機を、明後日の方向へ向けて飛ばした。
頼りなくて、フラフラしていて、けれど確かに遠い空へ飛んでいった紙飛行機を見て、今抱いているこのなんとも言えない感情が、微かに感じる風こそが、遠さなのだとぼんやり理解した。

テーマ:遠くの空へ

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