あの子は、僕にとっていつだって希望だった。
幼馴染で、保育園から高校までずっと一緒。クラスが別になったって、自由時間の度に会いに行って、いつも2人で、セットみたいに過ごしていた。
彼の家はお金が無いみたいで、服はいつもボロボロ、お風呂にもあまり入れないのか、髪は束になってぺったりと潰れていた。
そんなだから、彼はよく虐められる。それは大抵僕の見ていない時で、殴られて、蹴られて、物を捨てられて、よく泣いていた。
そんな彼を、僕はいつも慰める。傷を丁寧に手当てして、捨てられた教科書の皺を一緒に、丁寧に伸ばした。時には、僕の服をお下がりとして彼にあげたり、一緒にお風呂に入ったりもした。
彼も、きっと僕を特別に思っていた。だって、貧乏で、汚くて、勉強も運動もダメ、話すのも下手。そんな彼とずっと一緒に居てあげたのなんて、僕くらいなんだから。
彼を見ていると、僕は酷く安心できた。最低なことかもしれない。けれど、彼の周りにいる、綺麗事ばっかりで彼の側に居ない偽善者達より、僕の方がずっと上だと、そう思うのだ。
僕は最底辺じゃない。彼よりはマシだ、彼よりはできるんだ。
そんな最低な考えが、僕が彼と過ごす理由だった。上を見てしまったら、首が絞まって息もできなくなってしまうから。だから、下を見て、まだ大丈夫だと、そう思っていたかった。
だけど、僕は失念していた。彼は勉強こそできなかったけれど、バカではなかったことを。彼が、僕のこの愚かな考えに気付かないはずがなかったと。
僕らは結局、どっちもどっちで、お互い様だった。彼を下に見て安堵している僕と、上に居たはずの僕が、彼を見続けたことで堕落してダメになっていくのを静かに見守った彼。歪んで、汚れた、醜い共依存だ。
それでもやっぱり、彼は僕の希望だった。どれだけ塾に連れて行かれたって、ママに私物を捨てられたって、彼がいれば平気だった。
彼は僕より下なのだ。そして、勉強を押し付けられて泣いている僕を塾から連れ出して、公園でサボらせたのも、捨てられた私物をゴミ捨て場まで探しに行ってくれたのも、彼だった。
互いを唯一の希望とした僕らは、お互い様の最底辺。彼を上に上らせない僕と、僕を下に引きずり落とす彼。
歪に光る希望は、それでも僕らにとっての唯一無二だった。
テーマ:たった一つの希望
3/3/2026, 8:45:11 AM