作家志望の高校生

Open App

夜の街。そこは、毒を持った美しい蝶たちが飛び交い、萎びた花から蜜を吸い尽くして枯らしてしまう。そんな場所。
ギラギラと喧しい光を放つネオンの看板の間を抜けて、薄汚い落書き塗れの路地を進む。目的の店は、男女の醜い欲で汚れた街の中心部、足下に埋もれた地下にあった。
生ゴミと吐瀉物の混じった臭気をくぐり抜けて階段を下りきると、街の雰囲気にそぐわない、清廉潔白とした、趣味のいいアンティーク調の扉がそびえている。中から、微かな甘い匂いが漂っていた。
店の中は死屍累々としていて、深く深く眠っているのか、或いは気絶しているのかいまいち区別のつかない老若男女が無造作に転がっている。その中心で、一人佇む男。この店のオーナーであり、俺の旧友だ。
「相変わらず陰気臭ぇ趣味しやがって。」
「はいはい、いらっしゃい。」
パイプの吸い口を丁寧に磨いていた奴が、顔を上げた。生っ白い肌に、透けるような血色、柔和そうな垂れた目元にぽつりと置かれた涙ぼくろが、得も言えぬ色気を醸し出す。俗に言う優男だ。
「で、今日は何しに来たの?まさか、冷やかしに来たんじゃないでしょ。」
俺が無言でカウンターの奥をしゃくると、彼は一拍置いて小さく笑い、にまりと笑ってゆったりと歩いていった。
カウンターの奥の倉庫に戻って、手にしてきたのは如何にもなビニール袋。子供っぽい、ビビッドカラーの錠剤が包まれた、違法のヤツ。
「ん……サンキュ。」
「ほんとだよ。昔馴染みじゃなきゃタダでなんてあげないからね?」
店の中に転がったクズ共を、睨めつけるように言った彼の口元は、しかし確かに笑っていた。
「よく言うぜ……シャブ漬けにして常連にしたのお前のクセに。」
薄汚れた欲望に狂い、この先の未来の全てを捧げて一時の快楽を得る馬鹿共。俺も含めて、この街の連中は皆、欲望に呑まれて狂った人の形をした化け物なのである。
見かけだけを取り繕った夜の蝶は、今宵もふらりと飛んでいく。その下に何輪の花が枯れ落ちようと、この街で気に留める者はない。甘い蜜に狂わされた者がマトモに生きていられないのは自明の理。それを食い物にしたって、誰も文句は言わない。
「やだなぁ……僕はおすすめしただけだよ。皆、自分の意思で吸ったんだ。」
目の前で笑う彼も、この街に舞う欲望で汚れた蝶の一匹に過ぎない。

テーマ:欲望

3/2/2026, 8:55:43 AM