ホシツキ@フィクション

Open App
9/25/2022, 12:27:49 PM

私は小学六年生から学校へ行きたくなくなった。
所謂、不登校である。

中学校は入学式も行かず、制服に袖を通さないまま15歳になった。
毎日来ていた担任の先生も、段々と週に1回、月に1回、
その学期に1回…と来る頻度が減った。

もちろん卒業式も行かなかったが、後日、担任の先生が卒業証書を持ってきた。

別にいじめられてた訳ではない。

私は“ 学校 “そのものが嫌いだった。
友人の顔色を伺うのも、テストの点に一喜一憂するのも、
なによりも先生の高圧的な態度が1番嫌いだった。

最初こそ親は学校に先生の態度を変えてもらうために掛け合っていたが、
私が学校へ行く様子が全くなかったため諦めていった。

毎日聞いていた両親の喧嘩も、いつしか聞かなくなった。

私はいつも部屋にこもり、カーテンを閉めてゲームに明け暮れていた。
家の中でトイレとお風呂に行くだけの生活だった。


毎日パソコンでゲームをし、悪態をつく日々。

自分の部屋から外を見ることがないので、今日が何月何日なのかもよく分からない。
ただ寒い、暑いと感じることが唯一季節を感じさせていた。


ある日の夕方。いつも私が目覚める時間。
いつもはドアを開けてすぐそこにあるはずのご飯が無かった。

チッ、と舌打ちをして台所へ向かう。
いつもは多分いるであろう母親が居なかった。
薄暗いリビングに行くと、置き手紙がひとつ。

“ もう私は限界です。実家に帰らせていただきます。”

なんだか現実味がなくて、
『昔見たドラマみたいなセリフだな』
なんて思ったのを覚えている。

そしてすぐ
『私のご飯、どーすんの?』
と怒りに変わった。

何年ぶりかに廊下にある電話へ向かう。
電話帳を開き、母親の実家の番号を見つけて電話をかけた。

呼出音が鳴って直ぐに誰かが出た。
「はいもしもし〜」
祖母だ。
「おばあちゃん?私だけど、ママいる?」
「…あぁ、いるけど…」
「なら変わってよ」
「…今はそっとしておいてあげて…」
弱々しく話す祖母に、私は強気になれなかった。
「わかった」
と不満げに言い、受話器を置いた。


誰もいないリビングに戻り、ドサッとソファーに座る。
ふと目をテレビに向けると、テレビの横に写真立てがあった。


小学校入学式の写真だ。


庭に咲いている桜の花びらが舞う中、母親と撮った写真。
写真を撮ってくれたのは父親だ。
『あの頃は幸せで楽しかったな。』

重たいランドセルを背負い、走って家に帰る。
「ただいま!」と勢いよくドアを開けると台所からカレーの匂いが漂ってくる。
奥から母親が嬉しそうに
「おかえり!」と言ってくれた。

『戻りたいな…あの時みたいな毎日をずっと続けたい…』


それを壊したのは私自身なのに…。

そう、私自身だ。

あの明るい母親を暗くさせて追い込ませたのは私だ。

限界にさせてしまったのは私だ。


『変わらなきゃ』

そうは言っても何からすればいいのかちっとも分からない。
ただ母親を連れ戻したいと強く思った。


私は自分の部屋へ勢いよく戻り、ボロボロの部屋着から普段着に着替えようとした。
―――が、普段着が無い。
そりゃそうだ、ずっとひきこもっていたのだから、外に着ていくようなオシャレなものは無い。


『部屋が暗くてよく見えないな…』

私はカーテンをバッと開けた。西陽が差し込み、目に突き刺さる。

薄目を開けて外を見ると、庭に咲いている桜が見えた。

『春なんだ』

窓を開け、暖かい空気をすうっと吸い込み、振り返る。


――そこには、西陽に照らされたピカピカの制服がかけられていた。


これしかない…

私は「すぐ大きくなるもんね」と言って母親が1人で買いに行っていた中学校の制服を着ていくことにした。


もたつきながらも制服を着て、勢いよく家を出る。

『まずは謝るんだ…それで私、変わるからって伝える…!』


祖母の家まで徒歩で15分ほど。
走ればすぐだ。

体力は落ちていたが、10分ほどで母親の実家に着いた。


ドアを開けた祖母はとてもビックリしていた。
後ろから母親が顔を出す。
そして口元を手で覆い、膝から崩れ落ちて泣き出した。


「ママ、ごめんなさい!」

祖母に促され家に入る。
母親はしばらく泣いていたが、しばらくすると笑顔になった。

「私、これからいっぱい勉強して、ちゃんと高校行く!
だからママ…戻ってきて…!」


母親は涙を拭きながら、しずかに微笑んで頷いた。


「大きくなったね…」

そう言って、私の少し短い制服の袖を握った。


2人で手を繋いで家へと帰り、
カーテンを開け父親の帰りを今か今かと待つ。

帰ってきた父親もまた、涙し、私を抱きしめた。



窓の外の桜は、それをずっと優しく見守っていた。





【窓から見える景色】~完~


あなたの家の窓から見える景色はどんな景色ですか?
私の実家からはビジネスホテルと商店街と新幹線の線路と
川が見えてました(`・ω・´)キリッ
いつも♡︎ありがとうございます!

9/24/2022, 12:34:59 PM

人はなぜ形のない概念に固執するのだろう?

それは愛だったり、友情だったり、縁だったりといったものだ。

私も例に漏れず、概念に固執していた。
感情という移り変わりの激しく不安定なものにしがみついていた。

夫や友人といった“人”に対するものでは無い。

その人との間にある形のないものが私にとって大事なのだ。

そして今日、固執し続けたひとつの概念――愛――に
終わりを告げた。

「結婚は簡単だったけど、離婚って疲れるのね…」

私は1LDKの部屋から1Kの部屋へと引っ越した。
荷物はあらかた片付いた。

と言っても私の物は極わずかだ。

「家具もまだ買わないとなあ…」

離婚の原因はよくある性格の不一致だ。
――というのは建前で、元夫からのモラハラに耐えきれなくなっただけである。

それでも好きだった。愛していた…と思う。
いや、愛があると思いたかっただけかもしれない。


仕事の関係から、結婚しても旧姓のままだったのでその点の手続きはあまり気にしなくてもいいが、会社へは報告しなければならない。

「はぁ」

と思わずため息をつく。
手続きは本当に面倒だ…でも私は、それ以上に
達成感というか、開放感があった。


いつの間にか固執していた愛という感情がすっぽり手から落ちていったのだ。
後悔といった感情もない。
心だけでなく体もなんだか軽くなった気がした。

カチカチと鳴る時計の秒針の音を聞き、しばしぼーっとする。
その時間すら幸せだ。だって怒鳴り声じゃないもの。


「そうだ、エミに連絡しなきゃ。」

以前私が「離婚するかも」と相談していた友人に電話をかける。

「もしもし?どしたあ?」
「エミ?あのね、私離婚したの。」
「えー!?ついに!?良かったじゃん!」

思った通り、エミは明るく答えた。
以前相談した時も「別れなよ!そんな奴!」と私よりも怒ってくれていたのだ。
思わずふふっと笑う。

「ありがとう。エミのおかげだよ!背中押してくれてありがとう。」
「いやいや!ほんとよく頑張ったね!」
「今度お礼にご馳走させてよ!」
「OK!断ってもあんた頑固だもんねえ〜♪」
「分かってるじゃん!やっぱ持つべきものは友だなあ〜」
「それな〜」


その後も他愛ない話をして電話を切った。


ほんと、持つべきものは友だ。

――――いや、友情だ。



エミとの“ 友情 ”だけは―――。


私は両手いっぱいに、友情を持った。
それだけを持つ。




なんだか心と体が、重くなった気がした。


【形のない物】~完~




あなたの形無いもので1番持っているはなんですか?
私は家族愛な気がします。
それを幸せととるか、視野を狭くするか、どうなってるか本人は気づきませんよね。
でも形ない物がないと寂しい気がします。なんとなく。

いつも♡︎ありがとうございますm(_ _)m

9/23/2022, 1:13:41 PM

「あぁ〜酔った酔ったあ〜〜いや〜酔ってなあぁい〜」
私は今最高に最低な気分だ。

彼氏に振られただけではなく、コロナによる人件費削減のため
バイトをクビになった。

友達と飲み明かしたかったが、初めての緊急事態宣言により
ことごとく断られてしまった。

彼との思い出が詰まった部屋にいたくなくて、夜に近所の公園でひとりお酒を飲む。
「ふざっけんなよ…アイツも、店長も、コロナもおお〜!」

手を思いっきり上に上げて、公園のゴミ箱に向かって空になった酒缶を投げつける。

カッシャアアン!という音が誰もいない深夜の公園に響き渡った。

「うっさくて〜ごめんねえ〜!」
と言ってから
「あぁ、1人やったわ!」と言いケタケタと笑ってしまった。


ふと視線が遊具に向かう。

ブランコに滑り台、鉄棒に……ジャングルジム。


何だか無性に登りたくなった。1番上に行きたかった。
「よっしゃ!」
飲みかけの缶を勢いよくベンチに置き、ジャングルジムへと向かう。

落ちた時のことなど、酔っ払いは考えるわけが無い。

ヒヤリと冷たい棒を掴み、ヨタヨタと登っていく。

酔っ払いとはいえ大人である。すんなりてっぺんに着いた。


びゅうっと頬を風が撫でる。

「なんだ、意外と低いなあ…」

ちょっとガッカリした。登っても真っ暗だ。
何故か脳内で登ったら綺麗な夜景が…なんて考えてしまっていた。

「見えるわけないじゃんねぇ?」
と自分にツッコミを入れ、またケタケタと笑う。

「――っはぁ〜、おっかしい……」



おかしい。ほんとにおかしい。
登っても夜景など見えるはずもない。
なんで登ったら思った通りに夜景が見えるなんて考えたのだろうか。


気づけばまぶたが涙でいっぱいになっていた。

滲んだ景色の中で、電柱に付いている電灯や、近所のアパートの部屋から漏れる光がキラキラと輝いた。


『あぁ、夜景、見れたや…』


理想とはかけ離れた理不尽の中で、私は生きていかなければならない。

でも、理不尽だらけの世界の中で
自分の理想が少し叶ったような気がして、
幸せな気持ちになった。



不幸だ不幸だコノヤロウ。の後に、

「でも!」

が言えるような生活にしていこう。



まずは、こうだ。

彼氏にフラれ仕事もクビになった。

でも!

そのおかげでジャングルジムから幸せをもらった。
そして酒は美味い。

ケタケタと笑いながら、ぴょんと飛び降りた。


――――足をくじいたのは、言うまでもない。



【ジャングルジム】~完~



フィクションです!
酔ってる時に遊具で遊ぶのはやめましょう!笑


いつも♡︎ありがとうございますm(_ _)m
私もポチポチ♡︎送ってるのですが、他の方の小説も面白いし、
ポエムも素敵です!
数行でお題を表現するその表現力が私も欲しい…( ´ー`)

9/22/2022, 1:35:03 PM

俺は日本中誰もが知ってる歌手になるという夢を持っていた。
高校を卒業してから大学には行かず、東京に上京した。

毎日バイトと路上ライブやライブハウスで歌を歌っていた。

そしてたまにオーディションや自分が作曲したものをコンペに出してたりしていた。

だらだらと続けていたそんな生活。気づけば上京してから5年経っていた。

シンガー仲間やバンド仲間とライブをし、打ち上げで酒を飲み、騒ぐ毎日。そんな生活に心地良さを感じると同時に、正直このままでいいんじゃないか、音楽は趣味でいいんじゃないかと思い始めていた。

どんなに頑張っても何も実らない日々。


最初の頃の熱い思いはすっかり無くなっていた。
曲を作ろうと思ってもメロディーも歌詞もなにも浮かんでこない。

――スランプだ。

そんなある日、シンガー仲間から連絡が来た。

“今度ライブあるけど来ない?新曲出来たから聴いて欲しい。トリ1個前の3番手だから!”

乗り気では無かったが、付き合いもあるし、ちょうどその日は何も無かった日なので行くことにした。


当日、正直シンガー仲間の新曲は何も響かなかった。
でも羨ましかった。ソイツは俺がライブハウスに出だした頃には既にライブハウスで活動をしてた奴なのに、バンバン新曲を作っていたからだ。響かなかったのは妬みもあるだろう。


トリはオケ音源で歌って踊る女の子だと聞いた。
“木の実リンゴ”
聞いたことの無いステージネームだ。

俺は興味本位から聞いてみることにした。

フリフリの衣装を着た20代前半くらいの女の子が出てくる。

ステージの真ん中に立ち、音源が流れ始めた。誰もが知ってるアイドルの代表曲だ。

木の実リンゴは踊り始める、だが、彼女は歌わなかった。

メロディーしか聞こえず、口パクと振り付けのみだ。
でも何か違和感を感じた。

テレビで見ていたアイドルの踊りとは全く違ったのだ。



『手話?』

彼女はアイドルの曲の歌詞を手話で歌っていたのだ。

1曲目が終わり、木の実リンゴは舞台袖からスケッチブックを持ってきた。

“初めましての人ははじめまして!
いつも来てくれてる人はありがとう!”

“木の実リンゴです!”

“私は耳がほとんど聞こえません!”

“でも、歌とダンスは誰よりも大好きです!!!!!”

“次の曲は―”


俺は鳥肌が立っていた。そして衝撃を受けた。

『耳が…聞こえない?』

2曲目が始まり、木の実リンゴは手話と体を使って曲を全力で表現していた。

アイドルには興味なかったし、曲もテレビで聞いたことあるな、というレベルだったが、その曲の歌詞と思いが伝わってきた。

俺は魅入って、そして“聴き入って”いた。

木の実リンゴのステージが終わり、シンガー仲間は
「なにあれ、歌じゃねえじゃん」
と笑っていたが、俺はこれこそが歌だと思った。

耳には聞こえないが、心に響いてきた。
木の実リンゴの心の声が、ハッキリと伝わって来ていたからだ。


『――歌いたい、曲を、作りたい!!!!』

俺はライブハウスから出て、走って家に帰った。
ギターを抱え、ジャカジャカと弾き殴る。

冷静に考えたらめちゃくちゃな歌詞だが、今の思いを全力でメロディーに乗せた。

隣の部屋からの壁ドンでハッと我に返ったが、忘れないように急いでコードと歌詞を書きなぐる。


『――出来た!!!!』

曲名は、“ 君の声 ”



だらだらと続けていたライブも、これからは魂のこもったライブに変わると確信した。


次のライブが、楽しみだ!!!


【声が聞こえる】~完~




作詞作曲出来る人、素直に尊敬します。
0から音を作るなんて、簡単な事じゃないと思うし素敵なことですよね。
いつも♡︎ありがとうございます♡!!

9/21/2022, 12:50:53 PM

「秋は恋をすることが多いんだって。」
とある女子校の昼休み、友人が私の前の席の椅子に座りこちらを向く。
どうして?と言わんばかりの顔だ。
「ほら、クリスマスが近くなるからじゃない?」
「なるほど!確かに!」

目からウロコだと言うふうにオーバーリアクションをする。
そんな私たち2人組はそろって彼氏がいない。
「私らには関係ない話だなあ〜っ」と言いお弁当箱を開け、食べ始めた。

――とは言っても彼氏いない歴=年齢の私と違って、彼女は恋愛体質だ。しかもダメ男ばかりと付き合っている。そしてすぐ捨てられている。

「秋に付き合った人とは長続きしやすいんだって」
そういえば、というふうに私が言うと、彼女は食いついた。

「そっか!クリスマスの他にも初詣にバレンタインにホワイトデー、カップルイベント目白押しだもんね!」
「まああんたの場合バレンタイン終わったらフラれそうだけど?」
とからかうと友人はぷぅっと分かりやすく不貞腐れる。でも反論はしない。図星だからだ。

「まぁ今好きな人すらいないし、関係ないもん〜」
そう言って友人はほうれん草のおひたしを食べる。

私も焼きそばパンの袋を開けて1口食べた。

「今日お弁当忘れたの?」
「うん、だから朝コンビニで買ってきた。」
「私の卵焼き、あげる!」
彼女は半ば無理やり私の口に卵焼きを突っ込んできた。
「―――っ!」


『間接キス……!!』


私は口の中で卵焼きを噛みながら、どんどん出てくる唾液と絡ませ飲み込んだ。

“ 秋の恋は長続きする ”

『……私なら、絶対に傷つけないしずっとそばにいるよ』

その言葉を飲み込んで、私は口の中にのこるほんのり甘い卵焼きの風味を消すように、焼きそばパンを大きく1口食べた。

『でも、秋に付き合いたいな』




秋は始まったばかりだ。


【秋恋】~完~



恋愛の形も性別も、人それぞれですね。
皆様いつも♡︎ありがとうございます。
昨日♡︎多くてびっくりです。昨日だけで♡︎21!🎉感謝感謝(*´ω`人)これからも頑張ります。
まだの方お時間お手隙ありましたら見てって下さいませm(_ _)m

Next