ホシツキ@フィクション

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人はなぜ形のない概念に固執するのだろう?

それは愛だったり、友情だったり、縁だったりといったものだ。

私も例に漏れず、概念に固執していた。
感情という移り変わりの激しく不安定なものにしがみついていた。

夫や友人といった“人”に対するものでは無い。

その人との間にある形のないものが私にとって大事なのだ。

そして今日、固執し続けたひとつの概念――愛――に
終わりを告げた。

「結婚は簡単だったけど、離婚って疲れるのね…」

私は1LDKの部屋から1Kの部屋へと引っ越した。
荷物はあらかた片付いた。

と言っても私の物は極わずかだ。

「家具もまだ買わないとなあ…」

離婚の原因はよくある性格の不一致だ。
――というのは建前で、元夫からのモラハラに耐えきれなくなっただけである。

それでも好きだった。愛していた…と思う。
いや、愛があると思いたかっただけかもしれない。


仕事の関係から、結婚しても旧姓のままだったのでその点の手続きはあまり気にしなくてもいいが、会社へは報告しなければならない。

「はぁ」

と思わずため息をつく。
手続きは本当に面倒だ…でも私は、それ以上に
達成感というか、開放感があった。


いつの間にか固執していた愛という感情がすっぽり手から落ちていったのだ。
後悔といった感情もない。
心だけでなく体もなんだか軽くなった気がした。

カチカチと鳴る時計の秒針の音を聞き、しばしぼーっとする。
その時間すら幸せだ。だって怒鳴り声じゃないもの。


「そうだ、エミに連絡しなきゃ。」

以前私が「離婚するかも」と相談していた友人に電話をかける。

「もしもし?どしたあ?」
「エミ?あのね、私離婚したの。」
「えー!?ついに!?良かったじゃん!」

思った通り、エミは明るく答えた。
以前相談した時も「別れなよ!そんな奴!」と私よりも怒ってくれていたのだ。
思わずふふっと笑う。

「ありがとう。エミのおかげだよ!背中押してくれてありがとう。」
「いやいや!ほんとよく頑張ったね!」
「今度お礼にご馳走させてよ!」
「OK!断ってもあんた頑固だもんねえ〜♪」
「分かってるじゃん!やっぱ持つべきものは友だなあ〜」
「それな〜」


その後も他愛ない話をして電話を切った。


ほんと、持つべきものは友だ。

――――いや、友情だ。



エミとの“ 友情 ”だけは―――。


私は両手いっぱいに、友情を持った。
それだけを持つ。




なんだか心と体が、重くなった気がした。


【形のない物】~完~




あなたの形無いもので1番持っているはなんですか?
私は家族愛な気がします。
それを幸せととるか、視野を狭くするか、どうなってるか本人は気づきませんよね。
でも形ない物がないと寂しい気がします。なんとなく。

いつも♡︎ありがとうございますm(_ _)m

9/24/2022, 12:34:59 PM