ホシツキ@フィクション

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俺は日本中誰もが知ってる歌手になるという夢を持っていた。
高校を卒業してから大学には行かず、東京に上京した。

毎日バイトと路上ライブやライブハウスで歌を歌っていた。

そしてたまにオーディションや自分が作曲したものをコンペに出してたりしていた。

だらだらと続けていたそんな生活。気づけば上京してから5年経っていた。

シンガー仲間やバンド仲間とライブをし、打ち上げで酒を飲み、騒ぐ毎日。そんな生活に心地良さを感じると同時に、正直このままでいいんじゃないか、音楽は趣味でいいんじゃないかと思い始めていた。

どんなに頑張っても何も実らない日々。


最初の頃の熱い思いはすっかり無くなっていた。
曲を作ろうと思ってもメロディーも歌詞もなにも浮かんでこない。

――スランプだ。

そんなある日、シンガー仲間から連絡が来た。

“今度ライブあるけど来ない?新曲出来たから聴いて欲しい。トリ1個前の3番手だから!”

乗り気では無かったが、付き合いもあるし、ちょうどその日は何も無かった日なので行くことにした。


当日、正直シンガー仲間の新曲は何も響かなかった。
でも羨ましかった。ソイツは俺がライブハウスに出だした頃には既にライブハウスで活動をしてた奴なのに、バンバン新曲を作っていたからだ。響かなかったのは妬みもあるだろう。


トリはオケ音源で歌って踊る女の子だと聞いた。
“木の実リンゴ”
聞いたことの無いステージネームだ。

俺は興味本位から聞いてみることにした。

フリフリの衣装を着た20代前半くらいの女の子が出てくる。

ステージの真ん中に立ち、音源が流れ始めた。誰もが知ってるアイドルの代表曲だ。

木の実リンゴは踊り始める、だが、彼女は歌わなかった。

メロディーしか聞こえず、口パクと振り付けのみだ。
でも何か違和感を感じた。

テレビで見ていたアイドルの踊りとは全く違ったのだ。



『手話?』

彼女はアイドルの曲の歌詞を手話で歌っていたのだ。

1曲目が終わり、木の実リンゴは舞台袖からスケッチブックを持ってきた。

“初めましての人ははじめまして!
いつも来てくれてる人はありがとう!”

“木の実リンゴです!”

“私は耳がほとんど聞こえません!”

“でも、歌とダンスは誰よりも大好きです!!!!!”

“次の曲は―”


俺は鳥肌が立っていた。そして衝撃を受けた。

『耳が…聞こえない?』

2曲目が始まり、木の実リンゴは手話と体を使って曲を全力で表現していた。

アイドルには興味なかったし、曲もテレビで聞いたことあるな、というレベルだったが、その曲の歌詞と思いが伝わってきた。

俺は魅入って、そして“聴き入って”いた。

木の実リンゴのステージが終わり、シンガー仲間は
「なにあれ、歌じゃねえじゃん」
と笑っていたが、俺はこれこそが歌だと思った。

耳には聞こえないが、心に響いてきた。
木の実リンゴの心の声が、ハッキリと伝わって来ていたからだ。


『――歌いたい、曲を、作りたい!!!!』

俺はライブハウスから出て、走って家に帰った。
ギターを抱え、ジャカジャカと弾き殴る。

冷静に考えたらめちゃくちゃな歌詞だが、今の思いを全力でメロディーに乗せた。

隣の部屋からの壁ドンでハッと我に返ったが、忘れないように急いでコードと歌詞を書きなぐる。


『――出来た!!!!』

曲名は、“ 君の声 ”



だらだらと続けていたライブも、これからは魂のこもったライブに変わると確信した。


次のライブが、楽しみだ!!!


【声が聞こえる】~完~




作詞作曲出来る人、素直に尊敬します。
0から音を作るなんて、簡単な事じゃないと思うし素敵なことですよね。
いつも♡︎ありがとうございます♡!!

9/22/2022, 1:35:03 PM