緋夜莉

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5/3/2024, 1:06:16 PM

当時、俺には、好きな人がいた。
みんなの憧れで、たくさんの命を救ってきた人。
俺とあの人は、15歳差。
その人と俺は、夜に親に内緒で二人で会っていた。
実は、好意を寄せていた相手。
…寄せていた、というのはおかしいか。
寄せている、だ。
しかし、あの人に会うことはもうない。
あの人は、もうここにはいない。
会えない。触れられない。話せない。
そんな彼女との日々は、誰にも明かす気はない。
俺とあの人との、大切な時間。
二人だけの、大切な秘密。


夜、星空の下で、あの人───結奈さんと出会って、話をした。
小学校で習った星座を探したり、学校であったことを話したり。
そんななんてことない雑談が、当時の俺には一番楽しいことだった。
一番、心落ち着く時間だった。


ふと、結奈さんが好きだったスズランを見て思い出した。

5/2/2024, 3:46:00 PM

「どうしたの?大丈夫?何かあった?話聞くよ?」

やめて。私、あなたから離れたいのに。

『どうしたの?』なんて、たった5文字さえ、私を苦しめる。優しくされると余計に辛い。
ここではっきり言わないと、後悔する。

私、見たよ。あなたが別な女の人と遊んでるの。その人は美人で、背が高くて、スタイルが良くて。
何1つ、あの人に勝てない。
中途半端な付き合いなら、もう終わらせた方が、私もあなたも幸せになれる。終わらせて、あの人と本格的に付き合って。

中途半端な感情は要らない。
どうせ、いつかは終わるってわかってたことじゃない。
未練なくこの関係を終わらせたいから。

優しくしないで。

4/25/2024, 10:50:52 AM

「あ、流れ星!!」
「そうだねぇ、何お願いする?」

静かな夜に響いた親子の会話に、空を見上げる。

「…美麗はさ、流れ星に何お願いする?」
「何、急に」

澄んだ瞳が私を捉える。

「…健康に楽器演奏できますように」
「へぇ、コンクールで賞獲れますように、とかじゃないんだ」
「流れ星にお願いして獲った賞は、自分の実力じゃないから」
「…」
「ぼうっとしてないで、早く帰るわよ」

流れ星にお願いして獲った賞は、自分の実力じゃない。

4/22/2024, 11:38:58 AM

「続いてのニュースです。〇〇市で発生している、通り魔連続殺人。被害者は全員女性で───」
通り魔殺人か…発生してるの近いなぁ。
あ、今日遊びに行くんじゃん。早く準備しないと。



「もう夜だけど、一人で帰れる?」
「あんたと違って子供じゃないんだけど〜」
「俺だって子供じゃねえし」

幼なじみとずっと続けてきたやり取りを交わす。

コツコツコツ…

後ろから足音が聞こえてきた。まあ多分、通行人だろう。

「うあああああっ!!」
「え…」

通行人だと思っていた人は、ナイフを持って走ってきた。
人って、動揺すると足、動かなくなるんだなぁ。

グサッ

肉を抉る嫌な音がする。けれど、痛みは感じない。

「…嘘…」

夢だと思いたい。赤い花を咲かせていたのは、私じゃなくてあいつ。

「なんで…!!」
「…怪我、ある?」
「馬鹿じゃないの!?なんで…おかしい。間違ってる。なんであんたが…」

「…たとえ世間でこれが間違いだったとしても、それはあくまで世間で間違ってるだけ。俺は他の知らないやつに、正しいか間違いかって決められたくない。俺が正しいと思った判断が、俺の世界の正しさだから」

こんなこと言うやつじゃないでしょ、あんた。
嫌。なんで…なんでなんで。どうして…。
桜の花びらが、こいつをさり気なく覆い隠すように散っていた。


「〇〇市で発生している、通り魔連続殺人。新たな被害者です。今回は、男性が───」
あいつを知らない人は、どう思って見てるんだろう。なんとなく見てるのかな。
あの日、遊びに行かなければ、生きていたのだろうか。



「来たよ。もう春だね」
当然、返事はない。
「あんたが死んで、もう8年だよ」
私ももう24。立派な社会人。
「あんた、本当に最後まで馬鹿だったよね───」
でも、こいつの馬鹿で私は今、生きてる。
「私を置いて逝くとかさ、一応あんた彼氏でしょ?彼氏がやっていい行動?」
こいつが今生きていたら、どんな人生だったんだろう。今でも私たちは付き合ってて、また冗談言い合ってたのかな。
「…あんたが彼氏で、良かったと思ってる」

桜の花びらが、私たちを優しく包むように散っていた。

4/21/2024, 10:43:22 AM

雫が零れて頬を伝う。
違う。これは涙じゃない。雨だもん。
泣くなんて、私らしくないじゃない。
別に大丈夫。私には友達、沢山いるから。寂しくなんてない。
別にあんた一人くらい、いなくなったって大丈夫。強がってるわけじゃない。だから早く行ってよ。

「…本当は寂しいくせに」

うるさい。寂しくなんてないって。だから早く。あんたの親が待ってるんでしょ。

「…わかった。また連絡するから」

あいつが乗った車のエンジン音が、雨音の中離れていく。
…最後まで、素直になれなかったなぁ。
全部わかってる。これは私の涙だって。本当は寂しいんだって。本当は、離れたくないんだって。
でも、あいつに囚われるつもりはない。
過去に囚われたくないし、過去を呪いたくない。
私もあいつも、今を生きてる。
またいつかの未来で、再開することがあれば…。

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