NoName

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4/5/2026, 2:39:50 AM

それでいい


失敗した。

心の中が、ぐちゃぐちゃになる。


泣きたいわけじゃない。

でも、すぐに涙がこぼれるの。

なんでかな。

なんで私って、こんなに弱いんだろう。


上手くいかない。

そんなの当たり前のことなのに、

悔しくて、

できない自分に嫌気がさして、

気付けば目の前が滲んでいる。


必死に目を大きく開けたり、

周りにバレないように少し上を見あげたり。

お願いだから、私の目からこぼれ落ちないで。


そう思ったのも束の間、

ついに瞬きをしてしまい、

音もなく、弱さの塊が落ちる。


「…悔しいか」

その言葉に顔を上げる余裕もなく、

ただただ、頷いた。


これ以上、見ないで。

こんな弱くてちっぽけな私を、見ないで。


そんな私の思いに反して、

目の前の相手から発された言葉は予想外のものだった。


「…ははっ、かっこいいなぁ」

思わず、パッと顔を上げる。

しっかりと、目と目が合った。


まるで、懐かしいものを見ているかのような

温かく包み込んでくれるかのような。


なんで…と思わず尋ねると

「その涙は、諦めてない証拠だからだよ。」

そう口にした。

そして、はい、と私の手のひらに飴をひとつ置き、

ひらひらと手を振りながら歩いていった。


飴を包んでいる紙には、

なんだかへんてこな絵がかいてあって

少し笑ってしまった。



すぐに、涙がこぼれる。

でも、それは決して弱いからじゃない。


だって、この涙は、

失敗したのが悔しくて、

それでも私はまだ出来るって、自分を信じているから。

次は上手くいくようにって、

前を向くために流した涙なんだ。


だから、それでいい。

それで、いいんだよ。

3/21/2026, 2:57:44 PM

二人ぼっち


絶対に落ちるわけにはいかないんだ。

受験は約二ヶ月後。

第一志望はまだA判定をもらえたことがない。


最近は放課後の教室で、ひとり机に向かっている。

もう進学先が決まった子を見ると

どうしようもないくらい、気持ちが焦った。


「あぁ〜、だめだ。」

気付けばもう外は暗くなり、

ついに私の集中力も切れてしまった。


「あれ、あの子まだ練習してる…」

そろそろ帰ろうかと席を立ったとき、

窓から、グラウンドで練習している男の子が見えた。


その子はサッカーゴールに向かって、何回も何回も、

同じ場所から、同じコースにシュートを打っていた。


表情までは見えないけれど、

悔しそうにしているのがなんとなく伝わってくる。

なんだか目が離せなかった。




「っ、くそっ!…だめだ、何回やっても入んねぇ」

上手くできない自分に腹が立つ。

とにかく気持ちを落ち着かせるために、空を見上げ大きく息を吸い込んだ。


「…あれ、あの教室だけまだ電気ついてる」

職員室以外はもう消えてるのに。


消し忘れかと思い、目を細めじーっと見てみると、

ひとりの女の子が本とにらめっこしていた。

時々首を傾げたり、頭を抱えてるのが見える。

こんな時間まで残ってるのは俺くらいだと思ってたのに。



……あ、受験か。

そこが三年生のフロアであることに気付き、

ひとつの答えに辿り着いた。


「こんな遅くまで頑張ってるんだな…」

受験は大変だと聞く。

それでも、あの子はそれに立ち向かってるんだ。


「…はは、超かっこいいな」

失敗ばかりで挫けそうだった気持ちが、

再びふつふつと燃え上がるのを感じた。


やっぱりもうちょっと練習してから帰ろう。

次の試合のメンバーに選ばれるために。


そんで、他の奴らよりもたくさん練習して、

絶対にこのチームの誰よりも上手くなってやる。




「…あっ!シュート入った!」

自然と拳に力が入った。

自分のことじゃないのに、なんだかすごく嬉しい。


最近はずっと、周りを見て、ただひたすら焦って

ひとりだけ置いていかれてるようで不安だったのに

その瞬間だけは、そんな気持ちを忘れていた。




気付けば、時計の針はかなり進み、

帰らないといけない時間が来た。

グラウンドを見ると、

あの子も同じように片付けをしている。


この、二人ぼっちの時間が

私の背中を押してくれたように感じた。

3/19/2026, 4:26:25 PM

胸が高鳴る


「はい!」

大きな声で、自信を持って手を挙げる。

そんな同じクラスの子を、わたしは見ていた。


他にやりたい人はいないかと、担任がクラスを見渡す。

はい、やりたいです

そう言えたら、どれだけいいだろうか。

わたしの人生、そんなことばかりだ。



「今度のさ、弁論大会ってどうする?」

隣でお弁当を食べている友達が発したその言葉に

わたしの心臓の音が少し加速した。


やってみたい、そう思った。


でも、いざその時になると

まるで、最初から手を挙げるつもりなどなかったかのように

体が動かなくなってしまう。



「…ずっと、やりたがってるくせに」

聞こえてきた言葉にびっくりして隣を見ると、

その子は、いたずらっ子のような顔をして笑っていた。


「バレバレだよ。いつもずっとそわそわしてるもん」

え…、と驚いたままのわたしの背中を

彼女はポンッと軽くたたいた。


そうして、飲み物買ってくるね!と

教室を去っていった。

人生は一度きりだよ、という言葉を残して。



やりたい人、といつものように先生が尋ねる。

いつもより鼓動が早い。心臓の音が煩い。

わたしの体が、やりたいと叫んでいる。


「ちなみに、今回のはいつもより規模が大きいからな」

先生が口にしたその言葉で、少し怯みそうになった。


____だめだ、わたし。下を向くな。


なにを躊躇っているんだ。

なぜ、迷う必要がある。


こんな機会、この先の人生で

もう二度と出会えないかもしれないんだぞ。


そう、人生は一度きりなんだから!


「っ…、はい!」




ステージ中央にあるマイク。

そこに向かっていく足取りは少しぎこちないが、

不思議と重くはない。


眩しい光に包まれる。

たくさんの人が、わたしを見ている。

まるで、全身が心臓になったみたいだ。


_____あぁ、これだ。

この瞬間を、わたしはずっと待ち侘びていた。

3/16/2026, 2:39:37 PM

怖がり


いつも君は、僕の前を歩いている。

その背中は

強くて、かっこよくて、勇敢だ。


怖がりで

君の後ろをついていくだけの僕とは大違いだ。


君と一緒にいる時に、僕はよく転ぶ。

なんでか分からないけど

なにもないところでもつまずいちゃうんだ。


僕が転んで泣きべそをかいていると

「なにやってんだよ」って、笑って

「ほら、立てるだろ?」って、手を伸ばしてくれる。


転ぶのは痛いし、悲しい。

それでも、君の手のひらを見ると

僕は大丈夫だと思えたんだ。


今日も君は、僕の前を歩いている。

君の後ろは、やっぱり安心するな。

そう思っていると、君の体が傾いた。


君が転んだところなんて、今まで見たことがない。

もしひどい怪我をしていたらと思うと

すごく怖くなった。


どうにかしないと。

そう思った時に思い出したのは

いつも君が僕にしてくれたことだった。


「ほ、ほら、立てる…?」

精一杯、手を伸ばした。

すると、顔を上げた君は、僕を見て笑った。


「なんでおまえが泣いてんだよ」

僕の目からは

自分が転んだ時よりも、たくさんの涙が溢れていた。


その後は、ふたり並んで家に帰った。

君も、目にうっすら涙をためていたけれど

僕はそれを見ないふりをした。



今日僕は、君の後ろを歩いている。

怖がりだからじゃない。

君がまた転んだ時には、僕が助けられるように。

もちろん、今度は涙は流さずに。


こんな僕だけど、僕が後ろにいることで

君が安心して、歩くことができたらいいな。

3/13/2026, 11:58:22 AM

ずっと隣で


夜空を彩る幾つもの光。


心臓まで響く大きな音と共に、打ち上がった光たちは

あっという間に消えていく。


空を見上げたあなたの目は

降り注ぐ光の欠片を反射して

きらきらと輝いていた。


あと何回、この景色を共に見られるのだろう。


時間の流れは、残酷な程に早く

アナウンスがフィナーレを告げた。


また来年、と挨拶するかのように

寂しくないよ、と励ましてくれるかのように

大きな大きな花たちが、次々に弾け散る。


あぁ、もう終わっちゃうのか。


最後に、一番大きな花が夜空に立派に咲き誇った。


「…やだなぁ」


寂しさが募って、自然とこぼれ落ちた言葉は、

ドン!!という大きな音と、歓声の中へ消えていった。


私の横で満足そうに目を細めるあなたを見て、思う。


あと何回、一緒に見られるかはわからない。


それでも、

願うなら、ずっと隣で。

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