すれ違いって、残酷だ。
すれ違ってたことに気づくのは、
事が起こってしまってからなんだから。
取り戻せなくなって初めて、相違を知る。
もっと早く、
あなたの気持ちを考えることができていたら。
すれ違いだなんて、
要因が他にあるように言うのも違うかもしれない。
私の思いやりがなかっただけだとは、
思いたくないんだ。
毎日思い出すの、あの日やってしまったこと。
後悔、後悔、また後悔。
いっそ忘れられたら楽になれるのに、
なんて思ったこともあるけれど、
きっとこうして記憶が残り続けることが
罰であり、償いの方法でもあるのだろう。
でも、あれ?
思い出せない。
あの日何を言ったのか、
どんなことを考えて何をしたのか、
後悔したのは知ってるけれど、
具体的に思い出せない。
傷ついた出来事なら?
やっぱり思い出せない。
もう嫌な記憶を見ることは出来ない。
残っているのはただ、そこに事実があるだけ。
懺悔も悲劇も、偶像にしてしまったのかもしれない。
縋って生きているのかもしれない。
そうすれば自分を可哀想だと思えるから?
辛い思いに身を任せていた方がいくぶん楽なのは、
新たな現実を見ていないから?
「忘れてしまうものじゃなく、あるじゃないですか、
忘れたくても忘れられないもの。
嬉しかったから覚えているんでしょう?」
身を包んでいた過去のベールから出ることは難しい。
たとえ過去の自分が許されなくても、
今を見なくていい理由にはならない。
また失敗を重ねるのは怖いけど、
記憶に残るような日々を過ごせるように
努力する責務、否、自由は、
誰もが持っていていいものなんだろう。
あなたでない私から、あなたを許したい。
子供の頃は……
この言葉は呪いであり、救いであった。
今が辛ければ辛いほど、昔の輝きは胸を締め付ける。
今が幸せであればあるほど、
それは甘く美しい思い出となる。
子供時代を再び望んでしまうのは、
きっと子供でなくなってしまった証拠なのだろう、
それがとてつもなく悲しい。
しかし、そう思うのは、
それだけ過ごした時間が素晴らしかったからなのだ。
そしてきっと、あと何年かすれば、
今この時でさえ戻りたい基点に変わる。
だから今感じているはずの、見えない幸せに
少し耳を傾けてやるのもいいかもしれない。
過去の断片を心に置いておくことは
罪ではないのだから。
相合傘をして、帰った。
なんてことはない、友達と。
傘を忘れたから入れてほしいと頼まれ、
断る理由もなく。
人の少ない道を、二人、他愛のない話をしながら。
聞こえるのは雨の音と少し遠くの車の音と、
二人の足音だけだった。
隣を見れば、視界があなたと、私の傘だけで埋まる。
淡いピンクなんて、普段のあなたは持ってない色。
私の世界に閉じ込めてしまったよう、という言葉が
ふと頭をよぎって、慌てて前を向いた。
まるで、何かを取り繕うみたいに。
相合傘なんて、別に、どうってことないのに。
どうってことなかったはずなのに。
二人分の足跡が、
水たまりの上に残ったままのような気がした、
そんな日だった。
世界の終わりに君とやりたいこと、
たくさん思いつくなぁ。
いつもみたいにゲームして、
パッキンアイスの別々の味同士を交換して、
風呂上がりに髪乾かすの面倒だって駄弁って、
そうして布団に入るんだ。
最後に「おやすみ」って言いたいのに、
視界が滲んでいくばかりで、
どうしようもない現実から
いよいよ目を逸らせなくなって。
それでも、もうすぐ終わるこの世界を
甘んじて受け入れるしかなくって。
もう人生やめてしまいたいなって
思ったこともあるけど、
結局こうして生きていること。
君が僕にくれた数え切れないほどの笑顔と、
暖かな思い出。
記憶と一緒に溢れ出る涙が止まらないんだ。
最後の言葉はどうしたっけな。
「世界、救ってみない?」
そう君が言っていた気がするけれど、
夢だったのかもしれない。
でもまだ「おやすみ」って、言ってないはずなんだ。
手に触れる君の体温が消えていかないのは、
きっとそういうことなんだと思う。
「うん」
きっと、そう返せていたんだ。