子供の頃は……
この言葉は呪いであり、救いであった。
今が辛ければ辛いほど、昔の輝きは胸を締め付ける。
今が幸せであればあるほど、
それは甘く美しい思い出となる。
子供時代を再び望んでしまうのは、
きっと子供でなくなってしまった証拠なのだろう、
それがとてつもなく悲しい。
しかし、そう思うのは、
それだけ過ごした時間が素晴らしかったからなのだ。
そしてきっと、あと何年かすれば、
今この時でさえ戻りたい基点に変わる。
だから今感じているはずの、見えない幸せに
少し耳を傾けてやるのもいいかもしれない。
過去の断片を心に置いておくことは
罪ではないのだから。
相合傘をして、帰った。
なんてことはない、友達と。
傘を忘れたから入れてほしいと頼まれ、
断る理由もなく。
人の少ない道を、二人、他愛のない話をしながら。
聞こえるのは雨の音と少し遠くの車の音と、
二人の足音だけだった。
隣を見れば、視界があなたと、私の傘だけで埋まる。
淡いピンクなんて、普段のあなたは持ってない色。
私の世界に閉じ込めてしまったよう、という言葉が
ふと頭をよぎって、慌てて前を向いた。
まるで、何かを取り繕うみたいに。
相合傘なんて、別に、どうってことないのに。
どうってことなかったはずなのに。
二人分の足跡が、
水たまりの上に残ったままのような気がした、
そんな日だった。
世界の終わりに君とやりたいこと、
たくさん思いつくなぁ。
いつもみたいにゲームして、
パッキンアイスの別々の味同士を交換して、
風呂上がりに髪乾かすの面倒だって駄弁って、
そうして布団に入るんだ。
最後に「おやすみ」って言いたいのに、
視界が滲んでいくばかりで、
どうしようもない現実から
いよいよ目を逸らせなくなって。
それでも、もうすぐ終わるこの世界を
甘んじて受け入れるしかなくって。
もう人生やめてしまいたいなって
思ったこともあるけど、
結局こうして生きていること。
君が僕にくれた数え切れないほどの笑顔と、
暖かな思い出。
記憶と一緒に溢れ出る涙が止まらないんだ。
最後の言葉はどうしたっけな。
「世界、救ってみない?」
そう君が言っていた気がするけれど、
夢だったのかもしれない。
でもまだ「おやすみ」って、言ってないはずなんだ。
手に触れる君の体温が消えていかないのは、
きっとそういうことなんだと思う。
「うん」
きっと、そう返せていたんだ。
とりとめもない話をできていた時間が、
いちばん幸せだったなあ。
君は遠くに行ってしまって、
僕だけがここに取り残された。
今じゃ、君に話しかけることすら叶わないんだね。
勤勉な君はきっと僕とは、
元々生きる世界が違ったんだろう、なのに、
僕が期待してしまったから。
天性のスターみたいな君の隣に、
いつまでも立てると思ってしまったから。
既読のつかないメッセージを片目に
通話ボタンへと向かわせていた指をはたと止める。
そして、
「メッセージを取り消しますか?」
多分これで、良かったんだ。
あの日、君の真面目さに軽蔑の目を向けた時から、
道は分かれてしまっていたのだろう。
僕は本当に君が好きだったんだろうか?
ただ、君になりたかったんじゃないのか。
僕は落ちぶれてしまった。
戻ることのない過去と
未来の幻想に縋り続けることしかできなくなった。
だから、羨ましいけれど、妬ましいけれど、
僕はやっぱり君を、あなたを、尊敬しています。
僕があなたの人生の汚点になりませんように。
私の人生にも、もう一つの物語があったら?
私はどうなっているだろう。
運動が得意かな?友達100人いるかな?それとも男の子に生まれているかも?
もしかしたら鏡の向こうの世界とか、夢の世界とかもあるかもしれないね!
そうだとしたら面白いよね!
ね、私。
私の体は相槌の代わりに、頭を撫でてくれた。
ふふ、ありがとう、大切な私の体。