白蓮

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8/30/2023, 11:49:16 AM

香りを纏う。

わたしの周りに、
わたしの香りの空気が揺れる。

爽やかさ、甘酸っぱさ、強烈さ、柔らかさ。

だれかが、わたしの香りを見つけてくれる。
どこかで、わたしの存在を見つけてくれる。

その一瞬だけでも、
わたしは誰かの中で生きている。

毎日会うあの高校生に、駅員さんに、眼鏡の彼に。

わたしが生きられる場所を、
少しだけ、貸してほしいのです。

8/9/2023, 7:20:06 AM

蝶よ花よ、そう言って人を愛でるのは、
蝶が花の周りを舞っている様を
美しいと感じるからだ。
電気屋のテレビに写っているような花畑なんかは
その例だろう。

では、蛾よ草よ、と言うとどうだろう。
似た形をしていても、全くの別物になる。
手入れのされていない林などを思い浮かべてしまう。

「少年の日の思い出」に出てくる
クジャクヤママユは珍しい蝶だと名高いが、
その実、蛾である。
そう聞くと途端に美しくなくなったような気がする。

私の頭の中の蝶は、リアルな生物の姿ではなく、
"美しい"の象徴として存在しているのかもしれない。

8/3/2023, 8:54:29 AM

病室は、白い。

アルコール消毒の匂いも、カーテンの揺れる音も、
僕を包み込む全てが白い。

だから、真っ黒い服の彼だけが
僕の世界を染めるただ一つの色だ。

毎晩消灯時刻になると枕元に現れて、
僕が眠気に誘われるまで話をしてくれる彼。

おやすみ、また明日。
そう言っていつものように目を閉じる。
けれど今日は返事がない。
不思議に思って開けようとした目に、
真っ黒な彼のマントが被せられた。
少しの間の後、ああ、また明日。と、
素っ気ない声が返ってきた。
そしてそのまま、彼の気配は夜の闇に溶けていった。

翌日、僕の部屋には新しい色が加わった。
いつも君がいた場所には、色とりどりの千羽鶴。
ふと、昨晩の会話が頭に浮かぶ。
「知ってるか?虹色を混ぜると黒になるんだぜ。」

どうやら僕の死神は、随分と優しい人のようだ。

8/1/2023, 1:30:13 PM

明日、もし晴れたら。

あなたはここを去ってしまう。
二人きりの空間に閉じ込めたのは、あなたなのに。

あなたの声が、わたしを怖い音から守って、
あなたの色が、わたしの世界を埋め尽くして、
あなたの息が、わたしの頭上を揺らしていって。

それなのにあなたは、いとも簡単に離れていく。
今この瞬間だって、
ふっと目を開ければ、あなたはもう
溶けて消えてしまっているんじゃないかって。

溢れる涙も、あの雨のように、
いつかあなたの一部になるのなら。

どうかこのまま、雷雲よ。