どすこい

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5/28/2025, 3:09:14 PM

「さらさら」

私はあなたが文字を書いている姿が好きだ。さらさらと美しい文字を、文章を、物語を紡いでいく。筆で書いても、万年筆で書いても、鉛筆で書いても。全てに物語が詰まっている。きっと私は一の一文字でもあなたの文字を見分けられる。
そんなあなたが私のためだけに文字を紡ぐ。今日は私も一緒に。フェンスを乗り越えて、靴を脱いで、手紙を置いて、大空へ飛び立つために。

5/27/2025, 9:41:02 PM

「これで最後」

あいつが笑っている時、大抵はいいことがない。誰かがそう言った。それでも私はあなたの笑顔が好きだった。初めてあなたの笑顔を見た時、その美しさに思わず息を呑んだ。一目惚れだった。最初は信じることができなかった。だって、ありえない。私が同性のことを好きになるなんて。だから、すぐに忘れたいと思った。勘違いだと思いたかった。放課後、居眠りから目覚めないあなたの頬にそっとキスをした。これで最後。この気持ちを捨ててしまおう。そう、思っていたのに。
いつの間にか目を覚ましていたあなたは、にっこりと笑っていた。

5/26/2025, 1:29:45 PM

「君の名前を呼んだ日」

「君って、あんまり人の名前を呼ばないよね。」
ある日、君は言った。
人の名前は絶対に間違ったらいけないものだと思うし、大切なものだから気軽に呼ぶのは怖い。そう言うと、あなたははにかむように少し笑った。
「そっか。じゃあ私のことを本当に大切、そばにいてほしいと思った時に名前を呼んで。そしたらいつでも駆けつけるから。」

棺桶の窓から少し覗くあなたの顔は青白くて、それがたまらなく寂しくて、つい、あなたの名前を呼んだ。その響きに堪えていた涙が止まらなくなる。いつでも駆けつけてくれるって言ったのに、本当に必要な時にあなたがいないなんて。
私が初めて名前を呼んだ時、すでにあなたはいなかった。

5/25/2025, 1:10:43 PM

「優しい雨音」

今日もあなたは家に引きこもってうずくまっている。理由はわかっている。私が死んだからだ。どうやら私はあなたと待ち合わせをしいていた時、居眠りしていたトラックに轢かれて死んだらしかった。あなたはその日、私にプロポーズするつもりだったらしい。そのためか、待ち合わせに少し遅れてしまったあなたは、責任を感じてるらしかった。確かに、私はそのことを知った時、そんな日に死んでしまうなんてと運命を恨んだ。でも、あなたはちっとも悪くないのに。私は怒ってなんかいないのに。そんなことで引きこもって、あなたの生活を壊してしまうほうが私には辛い。もう一度、優しい笑顔を見せてほしい。
そうしてしばらく経ったある日、あなたは久しぶりに外に出かけて行った。親友から電話がかかってきて、呼び出されたようだった。
帰ってきたあなたは小さな箱を持っていて、それはどうやらオルゴールのようだった。あなたがネジを回すと、懐かしい歌声が聞こえてきた。あなたと一緒によく歌った、あの歌。少し音程のずれた、私の声。あなたの目から、涙が溢れ出る。後悔とは違う、優しい涙。いつの間にか雨が降り始めていたようで、外から雨音が聞こえる。あなたの涙によく似た、優しい雨音。
あなたには見えなくても、もう一度話すことはできなくても、私はずっとそばにいるから。ずっと、あなたのことを愛してるから。

5/25/2025, 10:20:10 AM

「歌」

陽気な音楽を響かせる携帯を手に取る。携帯に表示される懐かしい名前。こいつから電話がかかってくるなんていつぶりだろうか?なんの用かと不思議に思いながら携帯を手に取る。

「あー、もしもし。久しぶりだな。元気にしてるか?最近、お前の彼女が亡くなったって聞いて、お前のことだから塞ぎ込んでるんじゃないかと思って。今近くにいるんだけど、ちょっと出て来れないか?連れて行きたいところがあるんだ。」

久しぶりに聞く親友の声。あいつの頼みなら仕方ない。そう思い、服を着替えてからドアを開ける。久しぶりに出た外は、眩しかった。

指定された住所に行くと、そこには小さな店があった。
中に入ると、すぐそばに親友が待っていて、こちらに手招きをしている。

「久しぶり。言ってたもの、持ってきたか?」

親友に電話で言われて持ってきたもの。彼女の写真や一緒に撮った動画。歌声の録音。携帯でそれを見せると、親友は店員さんを呼び、携帯を預ける。一体なにをするのだろうか。サプライズだなんだなんて言って、まだなにも伝えられていない。
それを作るにはしばらく時間がかかるみたいで、その間親友と久しぶりに話をする。待ち合わせをしていた時、居眠りをしていたトラックに轢かれて彼女が死んでしまったこと。自分が待ち合わせに遅れたせいだと責任を感じていること。彼女が死んでから何もやる気が起きなくて引きこもってばかりいること。
親友は無言で、だけど適度に相槌を打ちながら一生懸命に聞いてくれた。おかげて洗いざらい話してスッキリした。
話が落ち着いてきた頃、店員さんが小さな箱をもってきた。それはどうやらオルゴールのようだった。店員さんに勧められ、そっとネジを回す。聞こえてきたのは、懐かしい歌だった。君とよく一緒に歌った、あの歌。オルゴールの音色は少し音程がズレていて、彼女の歌声にそっくりだった。気がつくと、涙を流していた。彼女と言った場所、交わした言葉の数々。改めて寂しい、と思った。
親友と別れて、家に帰ると雨が降り始めた。君の笑顔を思い出させる、優しい雨音。
君ともう一度会うことはできなくても、声を交わすことはできなくても、思い出の中ならいつだって会える。
いい加減引きこもるのはやめよう。君に相応しい男になるために。

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