「歌」
陽気な音楽を響かせる携帯を手に取る。携帯に表示される懐かしい名前。こいつから電話がかかってくるなんていつぶりだろうか?なんの用かと不思議に思いながら携帯を手に取る。
「あー、もしもし。久しぶりだな。元気にしてるか?最近、お前の彼女が亡くなったって聞いて、お前のことだから塞ぎ込んでるんじゃないかと思って。今近くにいるんだけど、ちょっと出て来れないか?連れて行きたいところがあるんだ。」
久しぶりに聞く親友の声。あいつの頼みなら仕方ない。そう思い、服を着替えてからドアを開ける。久しぶりに出た外は、眩しかった。
指定された住所に行くと、そこには小さな店があった。
中に入ると、すぐそばに親友が待っていて、こちらに手招きをしている。
「久しぶり。言ってたもの、持ってきたか?」
親友に電話で言われて持ってきたもの。彼女の写真や一緒に撮った動画。歌声の録音。携帯でそれを見せると、親友は店員さんを呼び、携帯を預ける。一体なにをするのだろうか。サプライズだなんだなんて言って、まだなにも伝えられていない。
それを作るにはしばらく時間がかかるみたいで、その間親友と久しぶりに話をする。待ち合わせをしていた時、居眠りをしていたトラックに轢かれて彼女が死んでしまったこと。自分が待ち合わせに遅れたせいだと責任を感じていること。彼女が死んでから何もやる気が起きなくて引きこもってばかりいること。
親友は無言で、だけど適度に相槌を打ちながら一生懸命に聞いてくれた。おかげて洗いざらい話してスッキリした。
話が落ち着いてきた頃、店員さんが小さな箱をもってきた。それはどうやらオルゴールのようだった。店員さんに勧められ、そっとネジを回す。聞こえてきたのは、懐かしい歌だった。君とよく一緒に歌った、あの歌。オルゴールの音色は少し音程がズレていて、彼女の歌声にそっくりだった。気がつくと、涙を流していた。彼女と言った場所、交わした言葉の数々。改めて寂しい、と思った。
親友と別れて、家に帰ると雨が降り始めた。君の笑顔を思い出させる、優しい雨音。
君ともう一度会うことはできなくても、声を交わすことはできなくても、思い出の中ならいつだって会える。
いい加減引きこもるのはやめよう。君に相応しい男になるために。
5/25/2025, 10:20:10 AM