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5/8/2026, 4:15:11 AM

お昼休みの教室。
七菜と麻美は、1つの机に向かい合って、弁当を食べている。
七菜が、周りを気にしながら小さな声で話しかけてきた。
「麻ちゃん、私、前田は宇宙人だと思う」
「は?だれ?前田って?」
「4組にいる背の高いメガネの男子」
「ああ‥なんとなくわかるかも‥で?なんで宇宙人なの?」
真剣な眼差しの七菜とは裏腹に、麻美は冷めていた。
七菜と麻美は、幼なじみで、七菜の思い込みが激しい性格を知っていたからだ。
「この前、下駄箱で見たとき、ペカーって、後光がさしてたの!前田の周りだけ空気が変わるし!声を聞くと、耳の中がザワザワするし!」
七菜が興奮しながら、まくし立てる。
「何それ、霊感?」
「霊感はない。‥と思うんだけど、目覚めちゃったのかな‥」
麻美は、悩みはじめる七菜を見て、ちょっと面白そうだと思った。
帰りに、前田を待ち伏せるすることにした。
宇宙人を見てみたかったわけじゃない。
七菜から男子の話を聞いたのが、はじめてだったからだ。


下校時間。
下駄箱のすぐ横に置いてあるベンチで、前田が来るのを七菜と一緒に待った。
「来た、来た、来た!」
七菜は麻美の腕を激しく引っ張った。
麻美には、誰が前田かわからない。
メガネ率が多すぎる。
麻美は、前を見ながら小声で聞いた。
「どれ?どれが前田?」
「青いスポーツバック!」
口元を隠しながら、七菜が興奮しながら答えた。
「ほら!なんか、こうフワフワっと空気違くない?!」
麻美は、何も感じない。
前田は普通だ。ちょっと背が高いくらい。見た目は、地味な方。イケメンでもない。
「わからん。どこらへ‥」
麻美は、言いかけて黙った。
七菜のキラキラした目が、前田を追っている。


帰り道。バス停でバスを待つ。
「もしかしたら、幽霊とか見えてきちゃったりするかな‥」
ブツブツ言う七菜を見て、麻美はニヤニヤが止まらない。
「私は、さっき、目がハートの人を見たよ」
「え!?何それ??いつ?!」
真剣な顔で聞き返す七菜を見て、麻美は吹き出して笑ってしまった。
「何?!何で笑うの??」
「‥ぶふっ‥大丈夫。幽霊は見えないと思う。‥星間結婚できるといいね」
「‥え?!どういうこと?!」
麻美は、困惑している七菜の肩に、手をポンと優しくのせた。

4/15/2026, 2:53:25 AM

「人を呪えば穴二つ、といいますが、僕は穴には落ちたくありません。あいつと同じ穴にも、はいりたくは、ありません。」

住宅街に、ひっそりと佇む神社。
亮介は、眉間にシワを寄せながら、手を合わせている。
健康志向強めの社会人1年生。
休日の朝は、ジョギング帰りに神社によって『厄落とし』するのが日課になっている。
傾斜のある長い階段を登らないと、辿り着けない神社には、人がいない。
亮介は、口に出してブツブツと文句を言う。
「僕が触ったから、壊れたらしいです。みんな使ってたのに?買いなおしたら、また壊されて、壊れやすいの買ってくるなって、どういう心理ですか?」
亮介は、上司から毎日のように、嫌がらせをされていた。
興奮して、だんだん早口になっていく。
「基本、挨拶は無視だし、人のせいにするし、自分は悪くないの一点張りって、社会人としてどうなの?!あれで、どうやって生きてきたの?最終的に、結婚してないのも、飲み会に誘われないのも、子供部屋おじさんなのも、全部、僕や社会のせいにする気?!それに‥!!!」
ヒートアップするにつれ、罵詈雑言が次から次へと口から流れ出る。
長い長い愚痴を言い切ると、亮介は、深呼吸をして、心を落ち着かせた。

チリーン。

風が吹いた。
鈴緒が揺れて、鈴が静かになる。
額の汗が冷えて、だんだんと気分も冷静になってゆく。
「‥僕には愚痴を聞いてくれる友達がいない‥と、お思いでしょうが、こんな不快な話を大切な友達に、したくは、ないのですよ」

パン!パン!

亮介は、手をたたき、深々と頭を下げた。
(‥あ、神様ならオッケーというわけじゃないですよ。‥はぁ‥どうか憐れんで目をつぶってください)
踵を返し、鳥居をくぐる。
長い階段を2、3歩降りて、振り返った。
どっしりと構える社殿をじっとみる。
まだ、気持ちのモヤモヤは晴れず、卑屈になる。
「‥どうぞ、不敬だと思うなら、この階段から落として、骨でも折ってください!」

ニャーン。

鳥居のすぐ横に、トラ猫がちょこんと座っていた。
なにか言いたげな丸い目が、亮介を見ている。
亮介は、ドキドキしながら、階段を小走りに降りた。
何事もなく、下まで降りた。
見上げると、トラ猫は、もういない。
亮介は、深々と頭を下げて、走って帰った。
家に着く頃には、気分はスッキリしていた。

明日からまた、頑張れそうだ。

4/14/2026, 6:15:50 AM

晴れ、雨、雨、雨、雨、
ずぅーーと、雨。

商店街の一角にある小さなパン屋。
高校1年生の桃花は、長いため息をついた。
自動ドアが開いて、中年女性が買い物袋片手にはいってきた。
「いらっしゃいませー」
中年女性は、菓子パンを数個買って帰っていった。
『ふわふわメロンパン』は、残り3つ。
桃花は、1つだけ見えないよう隣のパンの後ろに隠す。
「いらっしゃいませー」
仕事帰りのサラリーマン、お稽古帰りのおばあちゃん、子供2人とお母さん。
帰りのラッシュ時間。
次々に、立ち代わり入れ替わり、にぎわう店内。
その度に、桃花は、少なくなるパンを1箇所に集め『ふわふわメロンパン』を奥に奥にと隠した。
‥残り1つ。
「‥はぁ、今日もこないか」
桃花は、壁に掛けてある時計をみた。そろそろバイト終わりだ。レジ締めを始める。
自動ドアが開いた。
メガネをかけた大学生がスマホを見ながら入ってきた。
「い、いらっしゃいませー」
桃花は、大学生がパンを選ぶのをチラチラみた。
レジにきた。
「‥メロンパンまだ残ってますよ」
「え?」
驚いた顔で大学生が桃花を見た。目が合う。
(しまった!)
桃花は、嬉しすぎて、声をかけてしまったのを後悔する。
「メ、メロンパン人気なので、最後のお一ついかがですか?」
桃花は、にっこりと笑顔を作って、恥ずかしさを誤魔化した。
大学生は、『ふわふわメロンパン』を買って、軽い会釈をして帰って行った。
大学生の姿が見えなくなると、はりついた営業スマイルを手で、おおい隠す。
(バカ、バカ、バカ、バカ、バカなの!?)
誰もいない店内で、体をよじって猛省する。
また、大きなため息がでた。
「はあーーーーーー‥ふふっ、ふふふ」
ニヤニヤが止まらない。
初めての会話。驚いた顔。可愛い会釈。
反省がやがて喜びに変わり、奇妙な笑い声と歓喜する声が、指の隙間から漏れ出す。
今日は、最高の日。

晴れ、雨、雨、雨、雨、
ずぅーーと、雨、のち晴天なり。

3/26/2026, 1:55:09 PM

会社の給湯室。
「整形は、やりすぎじゃない?」
「やり過ぎなんかじゃない。私は彼女になりたいの」
友人の笑顔がひきつる。
マナは、手鏡にうつる瞼をつまんで二重にした。
彼女とお揃いの白いロココ模様の手鏡だ。

隣のビルから、仕事終わりの彼女が出てきた。
マナは正面にあるカフェで待ち伏せる。
彼女はマナを知らない。
「可愛い‥あのバックはじめて見た‥」
すかさず、スマホで同じバックを探しはじめた。
着信音がなる。同僚からだった。
「マナさん!今日は飲み会だよー!先に飲んでるね〜」
(あ、忘れてた‥面倒くさいなぁ)
「すみませ〜ん。今、向かいますね!」
マナは陽気で気さくな女を演じる。
彼女のような女になるために。

ガヤガヤとした居酒屋。
広い座敷で上司やクレーマーの話で盛り上がる。
「トイレいってきます」
マナは席を立ち、長い長い廊下歩いていると、前から自分とそっくりの女が歩いてきた。
「ひっ!」
マナはとっさに小さい悲鳴をあげた。彼女だった。
彼女もびっくりした顔でマナを見る。
「‥ドッペルゲンガーかと、思った」
そう言って、彼女はゲラゲラ笑い出した。
「私もこのブランド好き!」
「色違いじゃない?」
マナは、自分には無い、純粋な好意に戸惑った。
なぜか、意地悪してみたくなった。
「これ全部、あなたの真似したの。」
言った後に、ハッと後悔したが、遅かった。
彼女のぱっちりとした目がさらに大きく見開いた。

帰り道、夜道を街灯が照らす。
マナは、友人に電話をかけた。
「‥なんで、言っちゃたの?!気持ち悪いとか言われた?」
マナは泣きながら、震える声で言った。
「‥うれしいだってさ、‥今度、双子コーデして夢の国に行くことになりました」
「えーーーー!??」
鼓膜が破れそうなくらいの声がかえってきた。


そう、彼女は天使。いや、聖女様だった。
「え〜!?私、芸能人でも何でもないのに〜ちょっと嬉しいかも!ありがとう!」
喜んではしゃぐ彼女は、マナのドロドロとした卑しくて醜い心を浄化してくれたのだった。

3/25/2026, 1:14:30 PM

料理が上手くて優しい女。
怒らない女。
義父母との関係も良好。
そして、都合のいい女。

増築された新しい家。
昼ご飯を食べた後のダイニングテーブルに、片方が記入済みの一枚の紙。
うつむいた夫が言った。
「離婚してほしい」
真奈美は、にっこり笑う。
「‥わかった」
仲が悪かったわけじゃない。夫の不倫相手に子供ができたからだ。

1年後、二階建てのアパート。
綺麗に整えられた部屋。
吊り下げのポトスが風に揺れる。
「味が濃くて身体に悪そうだって食べないの!酷いと思わない?」と、元義母。
「ドアはちゃんと閉めろ!とか、靴下を丸めて出すな!とか、言い方がキツいんだ‥こんな話聞きたくないよね」と、元夫。
「筍おすそわけしたら、調理済みなら受け取ります。っていわれたの!感じ悪いのよ〜」と、元ご近所さん。

真奈美は、満足気にスマホを置いて、淹れたてのコーヒーを飲む。
彼らの不満は、全て、真奈美の愛という名の我慢で成り立っていたからだ。
(いいぞ!いいぞ!浮気女!あの愚民どもを思う存分、蹴散らしてくれ!!)

膝の上で猫が気持ちよさそうに、ゴロゴロとのどをならす。
「‥あぁ、幸せ」
真奈美は、ずっと飼いたかった猫をなでた。

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