「人を呪えば穴二つ、といいますが、僕は穴には落ちたくありません。あいつと同じ穴にも、はいりたくは、ありません。」
住宅街に、ひっそりと佇む神社。
亮介は、眉間にシワを寄せながら、手を合わせている。
健康志向強めの社会人1年生。
休日の朝は、ジョギング帰りに神社によって『厄落とし』するのが日課になっている。
傾斜のある長い階段を登らないと、辿り着けない神社には、人がいない。
亮介は、口に出してブツブツと文句を言う。
「僕が触ったから、壊れたらしいです。みんな使ってたのに?買いなおしたら、また壊されて、壊れやすいの買ってくるなって、どういう心理ですか?」
亮介は、上司から毎日のように、嫌がらせをされていた。
興奮して、だんだん早口になっていく。
「基本、挨拶は無視だし、人のせいにするし、自分は悪くないの一点張りって、社会人としてどうなの?!あれで、どうやって生きてきたの?最終的に、結婚してないのも、飲み会に誘われないのも、子供部屋おじさんなのも、全部、僕や社会のせいにする気?!それに‥!!!」
ヒートアップするにつれ、罵詈雑言が次から次へと口から流れ出る。
長い長い愚痴を言い切ると、亮介は、深呼吸をして、心を落ち着かせた。
チリーン。
風が吹いた。
鈴緒が揺れて、鈴が静かになる。
額の汗が冷えて、だんだんと気分も冷静になってゆく。
「‥僕には愚痴を聞いてくれる友達がいない‥と、お思いでしょうが、こんな不快な話を大切な友達に、したくは、ないのですよ」
パン!パン!
亮介は、手をたたき、深々と頭を下げた。
(‥あ、神様ならオッケーというわけじゃないですよ。‥はぁ‥どうか憐れんで目をつぶってください)
踵を返し、鳥居をくぐる。
長い階段を2、3歩降りて、振り返った。
どっしりと構える社殿をじっとみる。
まだ、気持ちのモヤモヤは晴れず、卑屈になる。
「‥どうぞ、不敬だと思うなら、この階段から落として、骨でも折ってください!」
ニャーン。
鳥居のすぐ横に、トラ猫がちょこんと座っていた。
なにか言いたげな丸い目が、亮介を見ている。
亮介は、ドキドキしながら、階段を小走りに降りた。
何事もなく、下まで降りた。
見上げると、トラ猫は、もういない。
亮介は、深々と頭を下げて、走って帰った。
家に着く頃には、気分はスッキリしていた。
明日からまた、頑張れそうだ。
4/15/2026, 2:53:25 AM