『明日世界が終わるなら』
「明日世界が終わるなら、何したい?」
「そうだなー食べたいもの食べて、会いたい人に会って、遊びまくりたい」
欲望まみれな希望を即答した君と私の考えはほぼ一致していたので、笑えた。
久しぶりにお腹を抱えて笑ったかもしれない。
「じゃあ、やりたいことしよっか」
「だな」
世界は明日滅ぶらしい。
一年前にそう発表されると世界は大混乱になった。
巨大な隕石が降ってきて、恐竜が絶滅した時のように私たちも絶滅するらしい。
それから世界はめちゃくちゃになった。
大きな宇宙船で地球を脱出した人たちもいたし、
すごい地下にシェルターを作って避難した人たちもいたし、
これは神の意志だってひたすら祈ってる人たちもいるし、
自暴自棄になってひたすら暴れる人たちもいた。
そして私たちみたいに、変わらない人たちもいる。
「あーここら辺の店も全滅だなー」
「そうだね」
君と手を繋いで荒れた道を歩く。
商店街だった店たちは、荒れ果てて廃墟と言えるようなありさまだった。
暴れた人たちや仕事をやめちゃった人たちのせいで、立ち行かなくなったせいだろう。
「全然希望通りいかないね―」
「まぁそんな予想はついてたけどな」
歩き疲れて、ちょっと休憩。
携帯した水筒で水を一口飲む。
最低限の飲食がどうにかなってるだけ、マシなのかもしれない。
「こうなると会いたい人も難しいかもー」
「んだなー皆が今どこにいるかわかんねーな」
「君に会えただけで満足しとくかー」
「二人で遊びまくるぜ―」
「おー」
くだらない会話をして、君と笑い合う。
家が隣同士で生まれる前から親が仲良しだったため、君とは生まれた時からほぼ毎日一緒にいた。
こんな世界でも君が居てくれた事で、結構救われてる。
だからこんな最期もいいのかもしれない。
「おはよう」
「おはよー」
翌日、親が起こしてくれて目が覚めた。
世界は滅ばなかった。
というか巨大隕石とかそんなの誰も知らなかった。
私は長い夢でも見ていたのだろうか。
面白いから君にもこんな夢見たこと教えてあげよう。
「お隣り君とは一緒に学校行けないわよ」
「え、なんで?」
「昨日の夜、お隣り君が亡くなったから」
どうやら昨日の夜、たまたま降ってきた隕石が頭にぶつかって亡くなったらしい。
なんだ、夢じゃなかったじゃん。
君の世界が滅んだんだ。
『君と出逢って』
「君と出逢って、どれくらいかな」
放課後、二人で寄り道した本屋でついそんなことを呟いた。
「え?」
「あ、ごめんなんでもない」
彼女には聞こえなかったみたいで、これ幸いと慌てて誤魔化した。
彼女は特に気にした様子もなく、また本を見始める。
聞きたかった訳ではなく、ただ何気なく呟いてしまっただけだから。
出逢ったのは本当に運命的で、私には忘れることなんて出来ない事だもの。
それから私の毎日は一変した。
例えるならば、モノクロだった世界がカラフルに色付いたようなもの。
「ちょっとコレ買ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
彼女を見送って、私はまた視線を元に戻す。
特設された本のコーナー。
一面に並ぶ彼の本。
私はまたうっとりと眺める。
「あぁ、愛しの君、名探偵様」
私に推理小説の面白さを教えてくれて、私の世界を変えてくれた大切な人。
今では私も立派なミステリーマニアになりました。
少しは愛しの貴方へ近付けたかしら?
『耳を澄ますと』
ふと何か聞こえた気がして耳を澄ますと、それは確かに人の声であった。
ブツブツ何か継続して話しているようだが、どう聞いても一人分。
誰かと電話でもしているのだろうか。
なんとなく気になって、声が聞こえてきた壁に耳を当ててみる。
「……やっぱ、うん……だね」
内容はわからないが、誰かと話しているらしい。
今まで隣の部屋からそんな声が聞こえてきたことなどない。
なのできっと、たまたま今耳を当てている壁の向こうに寄りかかって話をしているので聞こえて来たのだろう。
そう結論付けて壁から耳を離した。
勉強に戻ろうとしたが、時計を見ると午前二時過ぎ。
明日も仕事だ。
慌てて寝る支度を済ませ、ベッドへと滑り込んだ。
遠くでさぁさぁと雨のような音が聞こえた気がした。
(朝までにはやむといいなぁ)
ぼんやりとそんな事を思いながら眠りについた。
翌朝、起きて窓の外を見ると晴れ。
道路を見ても濡れた様子はない。
少しだけおかしいなと思いつつも、特に気にせず朝の支度を済ませ家を出る。
何気なしに声の聞こえた隣の部屋を見るが、特に変わった所もない。
あんな時間に電話してたりするなら、大学生の一人暮らしなのかしらと余計なことまで考えてしまう。
不意にピアノの音が聞こえてきた。
時計を見るとやはり午前二時過ぎ。
隣は音大生か、それともただの趣味か。
確かにこのマンションは楽器演奏禁止とはなっていなかったが、こんな時間は如何なものか。
文句の一つも言ってやろうかとも思ったけれど、相手が変な人だと困るので我慢してベッドへ潜り込んだ。
その日はピアノのせいで熟睡出来なかったのか、嫌な夢を見た。
車にはねられる夢。
そうそうない事かもしれないけど、何か虫の知らせかもしれない。
車には気をつけよう。
そう決めて家を出た。
なんだかとても不快な音がする。
そのせいなのか、頭が痛い。
ガンガン割れるように痛い痛い痛い。
「ねぇ、聞こえてる?」
近くで声がした。
見ると、知らない和装の男の人。
なんで勝手に私の部屋に入ってるの。
嫌だよ、やめてよ。
頭が痛くて声が出ない。
だからこくこくと頭を縦に振る。
「君はね、もう死んでるんだよ」
何でそんなひどいこと言うの。
やだやだやだ。
私はまだやりたい事もたくさんあるし、
やらなきゃいけない事もたくさんあるの。
まだ死ぬわけにはいかない。
だからお願い、やめてよ。
「だからいつまでもここに居ちゃいけないんだよ」
だってここは私の部屋だから。
色々燃やされちゃったから、
私の居場所はもうここしかないの。
なくさないで、やめて。
私の居るとこなくなっちゃう。
「死んだら、空に還るんだよ」
リーンと澄んだ鈴の音がして、不快な音が消えた。
目の前の男の人が優しく微笑んでる。
あぁ、もうここは私の居場所じゃなくなっちゃったんだなと理解すると、生前の記憶を思い出した。
夢じゃなかった。
車にひかれて、死んだんだ私。
それに気付かなくて、そのまま生活してるつもりだった。
おかしいね、私。
うん、もう大丈夫。
呼ばれてるのがわかる。
ばいばい、もう行くね。
私は空にとけた。
『二人だけの秘密』
号外!
勇者が幼き頃に交わした二人だけの秘密、お相手はなんと孤高の女騎士!!
そんな新聞が撒かれると、城下町は有名人同士の色恋話に大いに賑わいを見せた。
そして宿に集まっていた勇者パーティーも勇者の前で、話題になっている秘密について好き勝手に語っていた。
「いやー皆、色恋ネタ大好きネェ」
「これってそのうち尾ヒレだのなんかついてって、気が付いたら実は婚約してましたーとかになってたりしてー」
「幼き頃より愛しあう二人……神もきっと祝福されますね」
「……で、件の勇者サマはどう思ってンデスカー」
皆がニヤニヤと笑いながら勇者を見つめる。
勇者はぶすっと不貞腐れながら、ひたすら無言を貫いていた。
「……」
パーティーメンバーとはそれなりに長い付き合いだ。
何を言ってもからかわれるのが分かっているため、ひたすら無言で耐えるしかないとも言える。
(二人だけの秘密か……)
むかし、まだ生まれた田舎の村にいた頃の話。
年も近かったし、馬が合ったからよく一緒に遊んでた友だち。
幼いながら立派な将来の夢を持っていた二人。
そんな中で交わした二人の秘密の約束。
「おーい、何か答えろよォ勇者サマ」
「あんなの、ただ将来の夢を語り合っただけだよ」
そう二人で朝から晩まで拾った小枝で、戦いごっこをしながら。
方や勇者を夢見て、
方や女騎士に憧れて、
お互い頑張ろうねと約束しただけの話。
皆が求めるロマンスなど欠片もない。
もちろん、そんな事はこのパーティーメンバーにも分かっている。
「外堀から埋められないと良いねー」
女魔導士がカラカラと笑いながら言う。
その言葉につられて皆も笑う。
勇者はそれにさらに腹を立てた。
「埋められてたまるか! 私はこれでも女で、恋愛対象は男だ!!」
ついに我慢が出来なくなって、勇者は叫んだ。
パーティーメンバーはニヤニヤと笑いながら、「知ってる」と口々に呟いたのだった。
『優しくしないで』
「優しくしないで」
伸ばされた手を、思い切り叩き落として言った。
僕は貴方が嫌いだ。
だから、僕にかまわないで。
「そっか、ごめん」
貴方は困ったように眉を下げて笑った。
それに僕はまた腹を立てる。
笑いたくなければ笑わなければ良い。
僕に対して怒れば良いだけの事なのに。
「……」
でも僕は貴方が嫌いだから、親切にそんなアドバイスなんかしない。
これ以上顔を見てイライラするのも嫌で、貴方を置いて教室を出た。
そのまま怒りをエネルギーに変えて、ズンズン進み屋上に出る。
「……」
放課後、誰もいない屋上。
僕は思わず叫びたくなったけど、フェンスを殴るに留めた。
(バカじゃないの)
その言葉だけが、ぐるぐる身体の中を回る。
貴方の困ったような笑顔が嫌い。
嫌ならはっきり嫌だと言えば良い。
他人に優しくして、裏切られて傷付いたみたいに笑わないで。
最初から他人になんて優しくしなければ良い。
他人なんてどうだって良いんだから。
そう、他人なんてどうでも良いんだ。
(……あぁ、腹が立つ)
なのにどうして、こんなに貴方が腹立たしいんだろう。
「バカじゃないの」
笑うなら、楽しい時だけ綺麗に笑えばいいのに。
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体調不良文にも♡ありがとうございました。