NoName,

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7/15/2024, 3:25:40 AM

結局僕は彼女の手をとることはしなかった。

彼女はきっと寂しくて哀しい女なのだと思う。
誰かのぬくもりがないと生きている確信が持てない。その誰かのぬくもりを得るために自分の身体を対価としてさし出す。自分の心と躰に罰を受けるように。

初めて会った日に彼女からすぐホテルに行こうと言われた時、焦ったのは僕の方だ。
住むところがないというから、迷ったけどベッドを貸した。お付き合いをすることを条件に、彼女としてなら愛し合うこともした。
その度彼女は安心して眠り涙を流して起きるのだった。痛々しくて守りたかった。優しくすればするほど、彼女はどうしていいのかわからないというようにもがき苦しんだ。
僕は真剣に彼女の支えになりたいと思っていたけど、彼女はそれを望んではいなかった。

半年くらいして、彼女は再び街と男と夜の間を彷徨うようになり、僕の元を去った。そのあと二度程僕の元に現れたけど、二度目の時は既に僕には大切な人がいて、彼女の手をふり払うように断ち切ってしまった。

街で似た格好の女の人を見かけるたび、もしあの時、僕が2回目の彼女の手をしっかり掴んでいたら、その時は彼女も僕の手を握り返してくれたのだろうか。後悔ではない。ただ考えても仕方のないことが頭の中で堂々めぐりするのだった。


お題「手を取り合って」

7/13/2024, 10:32:49 PM

I'll write it later.
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僕の彼女は可愛い。
優しいところも何事も全力なところも、ちょっとそそっかしいところも。何と言っても僕を大好きなところが可愛い。ついでに言うなら、ルックスも僕好みのふっくらさん。チューすると、えくぼのあるふっくらした白い頬が赤くそまるし、体のどこをさわってもマシュマロみたいに柔らかくて、抱きしめると温かくて安心感があってすごく癒される。


なのに彼女は自分が太っていると思っている。だから醜いって。ファッション雑誌に出てくるような、細い体型が彼女の理想で目標なんだって。雑誌を眺めては劣等感すら持っているような深いため息をつくこともある。

僕は細い体型を否定しているわけじゃないんだ。それはそれでステキなんだろう。
でもさ、僕が好きなのは今のふっくらふわふわ時々モチモチの君なんだ。
ずっとさわっていたい心地よさ。
想像するだけで五感が刺激される。

だからごめんよ。
細くなられちゃ嫌だから、僕はこう言うんだ。
「いつも頑張ってる“ご褒美に”さ、あの喫茶店にコーヒー飲みにいかない?」あの店の自家製ケーキに彼女は目がないんだ。ちょっと迷ったようだけど、誘惑には勝てなかったみたい。きっと彼女は“ご褒美”としてケーキとコーヒーをセットで頼むだろうな。

あぁ甘い物に弱い君で良かった。
こういうところも、ホント可愛すぎて困るくらい大好きだ。



お題「優越感、劣等感」

7/13/2024, 12:01:20 AM

出勤のため玄関を出ようとすると、男の声が追いかけてきた。「大事な話がある。今晩いつもの喫茶店で待ってる。何時になってもいいから。」
この男と暮らして5年近くたつけど、こういう約束の仕方は初めてだ。
「う、うん。」私は足早に駅に急いだ。
別れ話かな。5年だもの。潮時なのかも。
男の恩師が亡くなって2ヶ月、いろいろ考えたのだろう。様子もおかしかったし。そう思うと満員電車の中なのに不覚にも涙があふれた。あぁ、私はこの男を愛していた。

かろうじて仕事をこなし、夜の喫茶店に着くと、いつもの席で男が待っていた。
「ごめん。どれくらい待った?」まで言いかけて驚いた。私といるときには堅苦しいからと着ないスーツ姿だった。「どうしたの?その格好。」私は男の向かいの席に着くなり聞いた。
「先生の墓参りに行って、決意表明してきた。」
「何の?」私がきくと男はスーツの内ポケットから一通の封筒をとり出し、私の前にさし出した。
私に中を見ろと言うように。

封筒の中の薄い紙をとり出し広げると、男のサインの入った婚姻届だった。
テーブルに私のための水を置こうとしていた店員の動きが止まった。
男が水の入ったグラスを受け取り、店員に「彼女にもコーヒーを」とオーダーする間も私は混乱していた。店員の「は、はい。」と言う返事に、私は我に返ると、「何で?別れたいんじゃ?」と口走った。

「何でそうなるんだ?そんなこと一回も言ったことねぇし。先生にあわせた時にも一緒になるつもりだっていったろ?」「あれは先生を安心させるための…」
「先生が死んでさ、突然大切な人を失う怖さを感じた。お前を失うことを考えるともっと怖かった。だから。」一呼吸おくと、男は改まって言った。
「居心地が良すぎて俺の甘えで、今までずっと済まなかった。俺と一緒になって欲しい。これからもずっと俺のそばにいてくれ」
そう言ってテーブルに指輪を置いた。

「コ、コーヒーはまだかしら。」
い、今のプロポーズ?何がおきたのか、私には理解が追いつかない。
「話、そらすなよ。目もそらすな。俺の目見て。」

今さら?5年よ?期待して諦めて今日は別れを覚悟したのに。急に涙がこぼれた。

私は左手をテーブルの上にさし出すと、「指輪を…お願い。」と告げた。
男は私の薬指に指輪をはめると「ぴったりで良かった。亅と安堵した。

やっとテーブルにコーヒーがきた。
今日はオーダーしてないはずのショートケーキも。私がここにくるといつもたのむケーキだ。なぜか苺が2つのっている。
店員を見上げると「オーナーからの気持ちです。」とカウンターの方を見ながら言った。
カウンターの奥でマダムがこちらを見て、微笑んでいた。
マダムの顔も男の顔も、あふれる涙で私には見えなくなっていた。



お題「これまでずっと」

7/12/2024, 4:26:14 AM

ちらりと見えてしまったハートのスタンプ。
彼のスマホを見ようと思って見たわけではない。
彼がトイレに立った時、テーブルの上にスマホを伏せずに置いていったのだ。
スリープモードになる直前、可愛らしい女の人がよく使いそうなそれが目に入ってしまった。

ハートのスタンプ…誰から?なんて聞けない。
彼のプライバシーを勝手に見て勝手に不機嫌になるのもおかしいことはわかっている。
けれど初めてのことに動揺した私の顔に浮かんだ笑顔が、作り笑いになっていたのだろう。
トイレから戻るなり彼が私に小声できいた。
「どうした?体調悪い?顔色少し悪いみたい?」

「違う。」思わずきつい口調で言ってしまった。
ハートのスタンプを送られてもなお平然として、私に優しくする彼に、なんだか悲しくなって無性に腹が立ってきた。
刺のある私の口調に、今度は「もしかして何か怒ってる?亅と私の目をのぞき込んで彼が言った。
彼の澄んだ目に見据えられると私はもう嘘がつけない。
「ごめんなさい。ハートのスタンプを見てしまいました。貴方にハートを送る女性がいるっんだて思ったら…」彼のスマホに視線を落としたまま私は言った。

彼はキョトンとしたが、すぐ何か頭に浮かんだようで、スマホを操作すると、「母さん」といって画面を私に見せた。

そこには先日彼がお母様に送った、彼女の好物だというスイカのお礼が書いてあった。
「スイカ届いたよ」
「ありがとう今年初物!」
「よくできた息子をもって母さん幸せ」
「愛してる」
そしてハートのスタンプ。


私は赤くなって彼に平謝りをした。いろいろな気持ちが入りまじって、それから安堵して涙が落ちそうになったけれど、一生懸命こらえた。
彼は私を咎めることなく「機嫌なおった?あぁ良かった。」と言った。「嫌な気持ちにさせてごめん。だけどさ、君は決定的に間違ってることがある。僕は君が思うほど他の人からはモテないよ。それに僕は君に夢中で他の女性には目もくれない。僕は君が好き。これ大事なポイント。試験に出すからよく覚えておくように。」冗談めかして彼が言った。

「本当に、本当に勝手に誤解してごめんなさい。」改めて私が謝ると、彼は「そこまで深刻に謝らなくても…」といいかけ、「そうだな、君からチューしてくれたら許してあげてもいいかな。」とちょっとイタズラな顔をして笑って言った。



お題「1件のLINE」

7/10/2024, 12:08:20 PM

⚠️Warning
一部不快と思われる表現がございます。申しわけありませんが、虫が苦手な方は読まれませんように。




目が覚めると自宅のキッチンだった。
おかしいな。昨夜はちゃんとベッドで寝たはずなのに。夜中に喉が渇いて、水を飲みにきてそのまま寝てしまったのかな。

それにしてもなんだか、縮尺がおかしい。まわりを見わたし、食器棚のガラスに映ったものを見て、私は息をのんだ。
チャバネだ!Gがいる!母さんGがいる!!殺虫剤!早く!
ところが声になっていないことに気付いた。まさかと思い顔をさわってみる。
ガラスに映ったヤツも前足で頭部をさわっているではないか!

う、嘘でしょ?ぎゃー!

何で?どうして?まるでカフカの『変身』?いやあれは虫を示唆しているけど断定はしてなかったはず。いや、そんなことは今はどうでも良い。
私がパニックをおこしていると、背後に視線を感じた。

昆虫は視野が広い。
母さんと目があった(と思う)。思わず固る。
母さん私!私よ!
私の声にならない叫びが届くはずもなかった。

母は後ずさりして、廊下へ向かった。
まずい。廊下の納戸には「Gジェット」というGに特化した殺虫スプレーがあるはずだ。
逃げなければ確実に殺られる。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。
混乱の中、カサカサ走り出してすぐ、私は母の放った殺虫スプレーを全身に浴びてしまった。

ぐはっ…、く、苦しい…母さん助けて…。
目覚めて5分で、私は天に召された。

それにしても、あのメーカーの殺虫スプレー、素早い効き目で長く苦しまずに死ねたことには感謝…できるかー!
薄れゆく意識の中で、この悪夢から一刻も早く目覚めたいと切実に願った。


お題「目が覚めると」

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