NoName,

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ちらりと見えてしまったハートのスタンプ。
彼のスマホを見ようと思って見たわけではない。
彼がトイレに立った時、テーブルの上にスマホを伏せずに置いていったのだ。
スリープモードになる直前、可愛らしい女の人がよく使いそうなそれが目に入ってしまった。

ハートのスタンプ…誰から?なんて聞けない。
彼のプライバシーを勝手に見て勝手に不機嫌になるのもおかしいことはわかっている。
けれど初めてのことに動揺した私の顔に浮かんだ笑顔が、作り笑いになっていたのだろう。
トイレから戻るなり彼が私に小声できいた。
「どうした?体調悪い?顔色少し悪いみたい?」

「違う。」思わずきつい口調で言ってしまった。
ハートのスタンプを送られてもなお平然として、私に優しくする彼に、なんだか悲しくなって無性に腹が立ってきた。
刺のある私の口調に、今度は「もしかして何か怒ってる?亅と私の目をのぞき込んで彼が言った。
彼の澄んだ目に見据えられると私はもう嘘がつけない。
「ごめんなさい。ハートのスタンプを見てしまいました。貴方にハートを送る女性がいるっんだて思ったら…」彼のスマホに視線を落としたまま私は言った。

彼はキョトンとしたが、すぐ何か頭に浮かんだようで、スマホを操作すると、「母さん」といって画面を私に見せた。

そこには先日彼がお母様に送った、彼女の好物だというスイカのお礼が書いてあった。
「スイカ届いたよ」
「ありがとう今年初物!」
「よくできた息子をもって母さん幸せ」
「愛してる」
そしてハートのスタンプ。


私は赤くなって彼に平謝りをした。いろいろな気持ちが入りまじって、それから安堵して涙が落ちそうになったけれど、一生懸命こらえた。
彼は私を咎めることなく「機嫌なおった?あぁ良かった。」と言った。「嫌な気持ちにさせてごめん。だけどさ、君は決定的に間違ってることがある。僕は君が思うほど他の人からはモテないよ。それに僕は君に夢中で他の女性には目もくれない。僕は君が好き。これ大事なポイント。試験に出すからよく覚えておくように。」冗談めかして彼が言った。

「本当に、本当に勝手に誤解してごめんなさい。」改めて私が謝ると、彼は「そこまで深刻に謝らなくても…」といいかけ、「そうだな、君からチューしてくれたら許してあげてもいいかな。」とちょっとイタズラな顔をして笑って言った。



お題「1件のLINE」

7/12/2024, 4:26:14 AM