うぐいす。

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5/31/2024, 11:45:04 AM

 純真無垢な子どもに、時として恐怖を感じる。
 
 蝶の羽をブチブチ。
 蟻の巣に水を流し込んだり。
 犬の尻尾を引っ張ったりね。
 
 自分にもそんな時期があったのかな、と、過去を思い出してみようとするが、当然私もいい歳なので、思い出せることと言えば、お遊戯会で主役をやったことだけだった。

 この頃、娘が不気味なこと言う。

「ちょうちょ! アリさん! わんちゃん!」

 文字だけなら、一見無邪気に見えるかもしれない―――事実、無邪気なのだろうが、私には恐ろしく思えてしまう。
 ―――なにもない空間に向かって、はしゃぎながら言うのだから。


 純粋無垢な子どもに―――それも実の娘に、時として恐怖を感じることがある。
 何もない空間に向かって、きゃっきゃっと楽しそうに笑うのだ。
 母親がいなくなって、どこかおかしくなってしまったのだろうか。
 今だって、ほら。

「おかあさん! もっとあそんであそんで!」

 そういえば、無垢な子どもには霊が視えるらしいと聞くが―――まさかな。
 翌日、家の裏手にある山で土を掘り返していると、子犬の死体が出てきた。


(さて、一番怖いのはだれでしょう?)

5/30/2024, 10:18:43 AM

「せんぱいっ!」「お兄ちゃん!」「後輩くーん!」「せんせー!!」「マスター!」「団長!」

 荒廃した世界で、複数人の声に呼びかけられながら目覚める主人公。
 ここはどこなのか、彼女たちは一体何者なのか。
 記憶を失くした主人公は、彼女たちに支えられながら新たなスキルを得て行く。
 そして、やがて肉薄していく―――この世界の真実に。

 ―――これは、僕と君が織り成す終わりなき旅路の物語。

 新感覚ドラマティック恋愛コメディミステリーオカルトSFサスペンス時代劇ノベルRPG! 2222年2月22日配信決定!!

「あなたのこと、待ってるからね!」



原作:後田鳴

5/29/2024, 10:40:59 AM

 ごめん、と謝る私に君は、謝ったんだから別にいいよ、と笑顔で言ってくれた。
 昔からドジばかりしていた私を、いつも笑顔で赦してくれた君。
 どうして赦してくれるの、と聞くと、君は、
「悪いことや人に迷惑をかけたら、謝るのは当たり前だ。けど、残念ながら万人が出来ることじゃない。そんな行動をね、君はやってのけるんだよ。これって凄いことじゃないか」
 だから、僕の怒りは、君の前では風前の灯火のようなものなんだよ。
 まるでなんでもないことのように赦してくれた彼に、私はいつから恋をしていた―――。

「ごめん、ごめんなさい」
 君が女の子と二人きりで歩いていたから、思わず身体の奥がカッと熱くなって―――自分の感情を制御出来なかったの。
 ごめんなさい、ごめんなさい。
 私は何度も何度も、うわごとのように繰り返す。
 謝ったら、いつも赦してくれる君。
 なのに今日は、今日だけは。
 どうして、笑って赦してくれないんだろう?

5/27/2024, 10:42:27 AM

 運動会と言えばの音楽。
 なんでだろうな。足が速くなる作用でもあんのか?
 そんなことをぼんやりと考えながら、頭に赤いハチマキを巻く。
 俺の担当は次―――借り物競走だったっけ。
 クラスの陽キャ共が率先してやると思いきや、誰も手が上がらないから、発言力の低い俺にお鉢が回ったんだよな。
 まあ、勝てと言われているわけではないし、テキトーにやるとしよう。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・。
 無言で、「好きな人」と書かれた紙を握り締める。
 いっそビリビリに破りたい気分だった。
 誰だよ、これ書いたやつ。殺す。
「はあああ〜〜〜〜」
 思わず天を仰いでいると―――クラス席の方から声が上がった。
 声の主は、俺がちょっと良いなと思っている女子だった。
「お題、なんだったんですか? もし私が貸してあげられる物だったら、遠慮なく仰って下さい!」
 無邪気な笑顔を見せる彼女は、お題の内容がどんなものなのか、想像していないのだろう。
 どうしたらいいんだよ、これ。
 おそらく彼女を連れて行ったら、全校生徒の前でお題を読まれた俺達はお笑い草になるはずだ。
 俺は慣れているから構わないが、彼女まで巻き込むのはいただけない。
「・・・・・・・・・まあ、いいか」
 公開処刑は止めてくれと釘を刺せばいいし、後は彼女に軽蔑されなければラッキーってことで。
 ああ、でも。
 どちらにせよ。
 このお題書いたやつは絶対赦さん。

5/26/2024, 12:00:03 PM

 星に願いを。
 ではなく。
 月に願いを。
 月に・・・、お願い事を三回繰り返せばいいのだろうか?
 でも、流れ星ならばともかく、月ならいつだって―――昼にだって見えるのだ。
 あまり特別感はないし、だから己の願いを託すには、少しだけ期待性に欠ける。
 ―――そもそも自分の中には、月はあろうことか、星にさえ授ける願い事がない。
 だって、現状に大いに満足しているのだから。
 君が隣にいてくれれば、願うことなんてそんなの、どこにもありはしないのだ。

 そう一人独白しながら、とっくのとうに冷たくなって動かない、大好きな彼女に頬擦りをした。

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