うぐいす。

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9/2/2024, 6:33:52 AM

 眠れない夜は、朝が来るまでが悠久のように思えて、つい枕元にある携帯電話に手が伸びる。充電器を挿しているからか、ほんのり温かみを帯びたそれに人差し指を添えて、通話アプリを開く。誰か、こんな夜更けに起きていて、友人の拙い小噺に付き合ってくれる者はいないかな。人差し指を下から上にスライドさせて、そして一つ名前を見つける。ああ、コイツ。コイツならきっと、自分と同じで、眠れなくて『夜中』に飽いているに違いない。タップを一つして、画面を変える。今夜はどんな話をしようかな。

 ―――明けないLINE―――

8/5/2024, 5:11:07 PM

「―――鐘の音だ!」
「―――ねえ、行ってみようよ!」
「―――絶対絶対、叶いますように」
「―――俺と、」

 ブチッ。
 瞬間、堪えきれずに電源を落とした。
 顔から変な汗がだらだら伝ってゆく。不快で仕方なくて、部屋の窓を開けて風を一心不乱に浴びた。
 最近話題になっている女性向け恋愛ゲーム、所謂乙女ゲームというやつに、二十歳を過ぎてから初めて手を出した。以前から友人にオススメされてはいたが、いい大人がプレイするようなジャンルのゲームではないと思い、今まで遠ざけていた―――しかしあの日は、高校の頃から付き合っていた彼氏と別れて、精神的にボロボロになっていた。だからか、手を出すまいと誓っていたゲームのパッケージに、手を伸ばしてしまったのだ。
 結果。ボロボロだった精神はより悲惨なものとなった。ハッキリ言って、令和の乙女ゲームというものを舐めていたのだ。まさかあんなにも、キラキラ青春出来るだなんて思わなかった。
 自分には存在し得ない高校時代ならまだ良かったのだ。しかしなにせ彼氏がいたわけだし、やろうと思えば、あんなアオハルのような経験が出来たかもしれない。それがまた、私の傷を深く抉ってきた。ていうか話は変わるけど、女友達可愛すぎないか? えーあの子たち攻略したいんだけど・・・。
 
「・・・・・・はあ」

 初めてやったせいで、セーブの仕方もままならなかったから・・・やるなら、最初っからになるのか。最初から・・・あの青春を・・・。
 ううっ。私もあんな青春をおくってみたかった。同級生と勉強に運動、部活に勤しみ、後輩と交流をしながら、他校の男の子と爆速で仲良くなる・・・そんな青春を・・・最後の方はともかくとして・・・。
 ばたりと脱力し、カーペットに寝そべる。そしてゆっくりとそのまま目を閉じた。なんだか、ブーブーとうるさいスマホは無視して。どうせあれだ。私に電話をかけてくるなんて、会社の上司くらいなんだから―――。

7/27/2024, 10:57:50 AM

 ガラガラガラガラ、と音が鳴り、やがて中から白い玉が出てくる。「あー! 残念、ハズレ!」と言う声と一緒に、僕の手にテッシュペーパーが託される。ハズレ・・・、また、ハズレ。商品を千円分買うごとに付いてくる抽選券で、一万円の買い物をした僕は、流石に一等が出ることはないだろうが、五等くらいならもしやと可能性を見出していた・・・、そのことごとくが、全部・・・・・・。
 悲しみに打ちひしがれている僕に、白い翼を背中に背負い、黄色に輝く輪っかを頭に乗せた自称神が舞い降り、一言。
「Oh・・・My god・・・」
 そして姿を消した。それだけかよ!!

7/20/2024, 12:12:03 PM

 世界不思議。
 セカイフシギ。二年三組。女。
「先生、違います。名字も名前も間違いです」
「ん、ああ・・・悪い。えーっと・・・」
「ヨカイワンダーです。セカイじゃなくてヨカイ。フシギじゃなくてワンダー」
「・・・悪かったね」
 先生はそう言って、漢字の上に書かれたふりがなを消しゴムで雑に消した。
 私は私で、先生との会話を経て、今一度自分の名前を頭の中で描く。
 世界不思議。
 小学校で習う漢字で構成されていて、書くこと自体に苦難はない。
 問題は読みだ。
 多分、一発で読める人はいないんじゃないだろうか。
 名字の方は、まあ良い。文句を言ったって、両親に言って解決する問題じゃないし、頑張れば一発で読めなくもない。
 けど、名前がなぁ・・・。ワンダーって。マ◯オじゃないんだから。
 それにアレだ。このフルネームだと、最近終わりを迎えた番組に訴えられる可能性があるではないか。名前の後に「発見」が付いていたらと思うと、身の毛もよだつ恐ろしさだ。
 確かに、この多様性の時代、キラキラネームだって普通の名前になるくらい、当て字は増えていると思うけれど、それにしたって、これはないと思う。
 ティアラちゃんとか、ルビーちゃんとか、アクアマリンとかよりも酷いと思う。
 泣きたくなるよ、全く。
 なんだって両親は、こんな名前を付けたのかと不思議に感じる——不思議(ワンダー)だけに———ので、学校が終わったら、改めて母さんに聞いてみるか。例のあの番組を思い出したから、とか言いやがったら、・・・非行してやる!

7/19/2024, 10:09:44 AM

 視線の先にはきみがいる。いつもいつも、二十四時間三百六十五日、私の視線を釘付けにしちゃうきみが。
 すき。すき、すき。
 ああ、ああ、ああ! 今日もきみへの愛が止まらない!
 授業をまともに受けろって叱られるのも、前見て歩けって咎められるのも、全部全部きみのせいだから、これは責任とってもらわないと、ちょっと割に合わないと思うな。
 ああ、ああ! でもでも、やっぱり今日もきみはすてき!
 今日もきみは、朝でも昼でも夜でも、一番ぴっかぴかに輝いている!
 きみが日に日に遠のいて行くだなんて、そんなまさか信じられなくって、タイムマシンを作って使って、きみに触れられるくらいの大昔に行きたいくらい。
 それくらい、すき。
 だいすき。
 ツキ合いたい!

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