二人だけの秘密だよ。
そう言って、ザクザクザクと土を掘った。
ザクザク ザクザク ザクザク
ちょっと草臥れたので、一時休憩。
団子を食べて、お茶を飲んで、またザクザク。
埋める。埋める。埋める。
なぜ? と聞かれれば、隠したいから、と答える。
そんなものを、埋める。
土が全部被さって、誰の目からも隠れきったときになって、やっと鋤を放り投げることができる。
そうして、ぼくたちは、成し終えたのだった。
それからウン百年後。
薄い板――ならぬテレビには、「徳川埋蔵金、ついに発掘か!?」と目立つ色のした大きなテロップが映されている。
ぼくはとなりにいる家来――今世は友人――に向けて、テレビ画面を指さしながら笑いかけた。
(徳川さんと家来さん)
どうか、大好きなきみの願いが叶いますように。
雨音に包まれて。
包まれたくない。びょ濡れになるだけ。
雨音ではなく、優しさに包まれたいです。
夢見る少女のように。
白馬の王子様が、蹄の音と共に迎えに来てくれるその日を、ずっと、ずっと願っている。
―――なんて。
もう大学生になるのに、そんなことばかり考えていたら、単位を取り逃してしまうかもしれない。
危ない、危ない。気を引き締めなければ。
と、制服を脱ぎ捨て、自分一人で選び抜いた私服を身に纏い、ひらりと姿見の前で前髪を整えていると―――目の前が光った。
鏡が太陽光を反射した―――というわけではなく、本当に、目の前が光に包まれたのだ。
思わず目を瞑ってみるが、変化はない。いつもは暗く閉ざされるはずなのに、まるで瞼の裏が光っているみたいに、視界が真っ白だ。
途端に不安になる。なにかの病気なのではないか、と。
どうすることもできずに、暫く経った私は、観念したみたいに目を開いた―――そして。
そして、開いた視界の先は、まるで異世界だった。
童話に出てくるような、西洋風のレンガ造りの家々が立ち並び、時折、レンガ道を馬車が通過する。
周りを歩く人たちは皆、私のことを不審な目で見ていた。
日本の、アポートの一室に、ついさっきまでいたはずなのに。
なのに、私がたった今立っている場所と言えば、ドイツのロマンチック街道を思わせるような場所だ―――行ったことないけど。
これは、もしかして。
いわゆる、異世界召喚ってやつ―――!?
という諸々まで妄想するのがオタクという生き物です⋯⋯よね?
突然電話がかかってきたかと思えば、妻が入院している病院からだった。慌てて通話ボタンを押す。焦りで、「もしもし、こちらA株式商事です」と言ってしまう。通話相手の看護師さんが「三谷玖様のお電話で宜しかったでしょうか?」と聞いてくれたので、「はい!」と答えて、その場で赤ベコのように首を振った。
通話を終えた後、上司に説明をして早退させてもらう。頑張れよ! と同僚たちの声援をバックに、俺は会社を出た。頑張るのは妻なんだけどな。
途中でタクシーを拾って、病院へ急ぐ。看護師さんが言うには、余裕はあるそうだが、なるべく早めに来て差し上げてほしいとのことだ。男である俺には到底分かり得ないが、やはり側に誰かがいた方が、安心するのだろうか。
やっと治療室についた。ここまでが遠く感じられた。扉を開く。勢い余って反動で返ってきた扉に肩を打つ。「ふふっ」と高い笑い声が聞こえた。
「えっ」
驚いて前を見ると、妻が顔を綻ばせていた。とても出産中には思えない。
よくよく見れば、胸元にちっちゃくて真っ赤な人形を抱いていた。
それは人形ではなく、赤子だった。
「う、産んだのか」「産んだのよ」妻はまた微笑む。「俺がいなくて大丈夫だったのか?」「貴方がいなくてもなんとかなるわよ」心臓のあたりがキュッと痛む。
「それよりあなた、この子を抱いてあげて」
「いいのか?」
妻は肯く。ほんとうに小さくて、触れるだけでポロポロと壊れてしまいそうで、抱っこするのが憚られた。それでも、これは俺たちの愛の結晶で、宝物なのだと思うと、途端に愛おしさが止まらなくなって、そうっと、やさしくやさしく触れる。
「うあっ、あっ、あー!」
「ええっ!?」
あらあら、と妻が大きく笑った。父親が抱くと泣き出すというのは、ほんとうだったのかと、ショックよりも驚きの方が勝った。よしよしと、ゆっくりと揺らしてやるが、泣き止む気配はない。ただ、赤ちゃんとは、そういうものなのだろう。泣くのが仕事なのだ。
「無事に産まれてきてくれて、ありがとう」
そうして俺たちは、彼女に向かって、そこで初めて名前を呼ぶのだった。
「みく」