うぐいす。

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5/25/2024, 2:16:33 PM

「あーあ・・・」
 
 ぽつりと、自分の呟きは土砂降りの雨に掻き消される。
 雨だ。
 しかも、小雨ではなく大振りの。
 天気予報では、この雨は明日の朝まで止まないという。
 残念。明日の体育はテニスだったのに、この雨じゃあ中止になりそうだ。
 目前の問題よりも、未来の問題。
 そんな能天気な自分に、いつの間にやら隣にいた人物が呆れたように語りかける。
「体育はともかく、お前、傘持って来てないんだろう? 帰りはどうするんだよ」
 声の主は部活の先輩だった。
 そうだ。
 昨日散々母親に、明日は雨だから傘を忘れないようにと忠言されていたのに、今朝はバタバタしていたせいで、傘の存在を失念していたのだ。
 しかし、雨宿りしていたら学校に泊まり込むことになるし、この大雨じゃあ走って帰るのも困難だ。ここは可愛らしく、先輩に甘えることにしよう。
「相合傘を提案します」
「ま、いいけどよ」
 快く了承してくれた先輩は、手に持っていた傘を開き、その中に私を入れてくれた。
「・・・傘、凄い傾いてませんか?」
「し、仕方ねぇだろ。お前をずぶ濡れにさせるわけにはいかねぇじゃねぇか」
 そうは言っても、私からすれば、先輩がずぶ濡れになる方が気に病む問題だ。
 現に今も、私の方に傘が傾いているせいで、先輩の肩が雨に曝されている。
「先輩の傘なんですから、どーぞ先輩が遠慮なく使って下さい」
「ばっ、馬鹿お前!」
 ぐいぐいと傘の持ち手を押すと、先輩は慌てふためき困った表情を作る。
 馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。
「あ、雨に濡れたら・・・し、下着が透けんだろうが!」
 投げやりにぶつけられた言葉に、私は思わず呆然とする。
 下着が透ける。そりゃあ確かに、濡れたら透ける。当然だ。
 そうは言っても・・・。
「それは先輩だって同じじゃないですか。今日は可愛いブラ着けてきたんでしょ?」
「うっ・・・・・・」
 忘れてた、という顔だ。
 全く呆れたものである。
 それは秘密の趣味のはずなんだから、透けちゃあ大問題なはずなのにね。

5/23/2024, 7:19:39 AM

 ―――明日、世界は終わります。

 との速報。
 今から約二十一時間後に、宇宙からはるばるやって来た巨大隕石が突撃し、世界は等しく終焉を迎えるのだと言う。
 朝ご飯の匂いと、父が新聞紙を繰る音が聞こえる平和な朝には到底不釣り合いな、現実味のないニュースだった。

 わん、とお隣さんちの犬が鳴く。そんな登下校の日常も、隕石が降ってきたら粉々に消えてなくなっちゃうんだろう。
 わん。
 とまた、犬が鳴く。
 そういえば、この子の名前、聞いたことなかったな。
 また明日にでも、お隣さんに聞いてみようかな。

 ―――ああ、そうだ。
 「また明日」は、もうないんだっけ。

5/21/2024, 10:49:42 AM

 ふ、ふふふ。
 やったぞ! ついに手に入れた!
 透明人間になる薬を!!
 これを飲めばやりたい放題だ!
 ゴクゴクゴクゴク。
 ・・・これ、ちゃんと消えてるのか? うーん。自分じゃ確認のしようがないな。
 よし。
 おい、姉ちゃん。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 ・・・こりゃ成功してるってことでいいのか?
 おーい、バーカ。バーカ。
 ・・・姉ちゃんのプリン食べたの、父ちゃんの仕業って言ったけど、本当は俺だぜ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 ・・・マジか。
 よっしゃー!! これで・・・ぐふふ。
 これで―――、

 

 ―――母ちゃんの敵がとれる。
 さあ、やろうぜ。復讐。

5/20/2024, 10:21:26 AM

 きみはぼくのおにんぎょう。
 かわいくきかざって、かわいいかわいいね。
 ? おかしいな。おにんぎょうなのにしゃべってる。
 おかしい。おかしいな。
 これじゃあぼくのおにんぎょうじゃない。
 ぼくのりそうのきみじゃない。
 しかたがないから、おくちはぬってしまおう。

 あれ、そのて、どうしたの? ぼろぼろでいたそう。
 しかたないから、ぼくがぬってあげる。
 これできみは、またかわいいおにんぎょうさん。

 あれ、うごかなくなっちゃった。ざんねん。

5/20/2024, 4:42:22 AM

 今日は我が国のお姫様の戴冠式だった。
 オーケストラが場を賑やかせ、国民や付き人たちもワイワイと騒ぐ。
 そんな平和なある日の一ページ―――だったのだ。
 ちゃんと。
 そう。その時までは。

 突如として空が暗くなり、王国に影が差した。
 異空から這い出てきた、亀の甲羅のようなものを背負う化け物は、お姫様の身体を掴むと、「姫を攫って行く」と、堂々たる姿勢で言い、また異空間へと消え去ってしまった。
 突然のことだった。
 唐突過ぎて、なにも反応出来なかった。
 暫くみんなで呆けていて、数分経った頃にやっと事態の深刻さを認識出来たのか、国民も付き人も、ワーワー騒ぎ出した。
 先刻までの、平和で穏やかな騒ぎとは真逆だった。

 ―――ああ、こんなにも。
 と、男は膝を折る。
 こんなにも呆気ない別れだなんて。
 ワーキャーワーキャーと叫び怯え戸惑い右往左往する国民たちの声が、何処か遠くに聞こえた。
 


 ―――これは、赤い帽子がトレードマークの男が、綺麗な桃色のドレスを着たお姫様を助け出す為の、きっかけのお話。

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