今日は我が国のお姫様の戴冠式だった。
オーケストラが場を賑やかせ、国民や付き人たちもワイワイと騒ぐ。
そんな平和なある日の一ページ―――だったのだ。
ちゃんと。
そう。その時までは。
突如として空が暗くなり、王国に影が差した。
異空から這い出てきた、亀の甲羅のようなものを背負う化け物は、お姫様の身体を掴むと、「姫を攫って行く」と、堂々たる姿勢で言い、また異空間へと消え去ってしまった。
突然のことだった。
唐突過ぎて、なにも反応出来なかった。
暫くみんなで呆けていて、数分経った頃にやっと事態の深刻さを認識出来たのか、国民も付き人も、ワーワー騒ぎ出した。
先刻までの、平和で穏やかな騒ぎとは真逆だった。
―――ああ、こんなにも。
と、男は膝を折る。
こんなにも呆気ない別れだなんて。
ワーキャーワーキャーと叫び怯え戸惑い右往左往する国民たちの声が、何処か遠くに聞こえた。
―――これは、赤い帽子がトレードマークの男が、綺麗な桃色のドレスを着たお姫様を助け出す為の、きっかけのお話。
5/20/2024, 4:42:22 AM