「あーあ・・・」
ぽつりと、自分の呟きは土砂降りの雨に掻き消される。
雨だ。
しかも、小雨ではなく大振りの。
天気予報では、この雨は明日の朝まで止まないという。
残念。明日の体育はテニスだったのに、この雨じゃあ中止になりそうだ。
目前の問題よりも、未来の問題。
そんな能天気な自分に、いつの間にやら隣にいた人物が呆れたように語りかける。
「体育はともかく、お前、傘持って来てないんだろう? 帰りはどうするんだよ」
声の主は部活の先輩だった。
そうだ。
昨日散々母親に、明日は雨だから傘を忘れないようにと忠言されていたのに、今朝はバタバタしていたせいで、傘の存在を失念していたのだ。
しかし、雨宿りしていたら学校に泊まり込むことになるし、この大雨じゃあ走って帰るのも困難だ。ここは可愛らしく、先輩に甘えることにしよう。
「相合傘を提案します」
「ま、いいけどよ」
快く了承してくれた先輩は、手に持っていた傘を開き、その中に私を入れてくれた。
「・・・傘、凄い傾いてませんか?」
「し、仕方ねぇだろ。お前をずぶ濡れにさせるわけにはいかねぇじゃねぇか」
そうは言っても、私からすれば、先輩がずぶ濡れになる方が気に病む問題だ。
現に今も、私の方に傘が傾いているせいで、先輩の肩が雨に曝されている。
「先輩の傘なんですから、どーぞ先輩が遠慮なく使って下さい」
「ばっ、馬鹿お前!」
ぐいぐいと傘の持ち手を押すと、先輩は慌てふためき困った表情を作る。
馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。
「あ、雨に濡れたら・・・し、下着が透けんだろうが!」
投げやりにぶつけられた言葉に、私は思わず呆然とする。
下着が透ける。そりゃあ確かに、濡れたら透ける。当然だ。
そうは言っても・・・。
「それは先輩だって同じじゃないですか。今日は可愛いブラ着けてきたんでしょ?」
「うっ・・・・・・」
忘れてた、という顔だ。
全く呆れたものである。
それは秘密の趣味のはずなんだから、透けちゃあ大問題なはずなのにね。
5/25/2024, 2:16:33 PM