うぐいす。

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5/18/2024, 1:48:37 PM

 僕にとって『恋』とは、所詮は上辺だけのもので、自分の欲を満たすための体の良い文句だった。
 幼少期、散々言われてきた「貴方のため」という言葉。
 学生時代、貴方のことが好きだから、と身勝手に感情を押し付けてくるクラスメイト。
 それが愛情か恋情か、はたまた別のなにかなんて僕にはどうだっていいが、とにかく鬱陶しくて仕方なかった。
 だから、恋なんて―――ひいては、それを飾り付けて彩る『恋物語』なんて胡散臭いものが、僕は嫌いで嫌いで、目にも入れたくないものだった。

 ―――そんな僕が、恋をした。
 行きつけの喫茶店の、新人の店員の女の子だった。
 仲良くなりたくて、意味もなく彼女のオススメを聞いたり、もしよれば、なんて言う勇気もなくて、だけど彼女のことがもっと知りたくて、彼女の後をつけたりした。
 ある日、いつも通り、帰宅途中の彼女をつけていると、そんな僕に気付いた彼女から「もうこんなことは止めて下さい」と非難の声を浴びた。
 ―――なんで。なんで、なんで。
 なんで。
 こんなにも―――ただ、君が好きなだけなのに。

5/16/2024, 10:05:22 AM

無理ですね

5/15/2024, 10:33:57 AM

 噂によると、悪の組織は、世界に絶望し、闇に堕ちた魔法少女で構成されているらしい。判断材料はない。趣味なのかルールなのか、悪の組織の構成員は皆平等に、可笑しな仮面を付けている―――そのせいで顔を窺えないので、判断がつかないのだ。
 だから、あくまでも噂。
 憎き悪の組織め! と日々奮闘している少女たちが、まさかその組織に寝返るだなんて、ね。

 ―――もしも。
 もしも、だ。
 もしも、時間を巻き戻せる魔法が使えたら。
 その時は。
 ―――もう少しだけ、みんなの記憶に残れるように過ごしたいな。

「―――ねえ、あの敵の姿、なんだか見覚えがない? この前殺されたあの子に・・・」
「ない」

5/14/2024, 10:18:06 AM

 フッ。
 と、風に乗って飛んで行く。
 普段は見上げる家々が、あんなに遠くに見える。
 ベランダで洗濯物を干している主婦。
 自分の部屋で奇声を上げる少年。
 修羅場真っ只中な男女。
 平時なら到底見られない貴重な瞬間。
 一時一時の、そのフレームが。
 なんだか不思議で、ちょっと可笑しい。
 なんて。
 笑ったら失礼かな。
 
 ―――そんなとある日の、蒲公英綿毛の空の旅。

5/13/2024, 10:26:42 AM

 思い出せない。
 思い出せない。
 思い出そうとすると、頭がズキリと痛む。
 どうして自分がここにいるのか。
 自分は何者なのか。
 そしてここは一体何処なのか―――って、あ、あの鉄の塊は何!?
 走ってる・・・、魔力の気配は感じられないけれど、一体何を原動力として走っているのだろうか?
 と、謎の鉄の物体に興味を注がれていると、今度はブォンと轟音が、頭上のずっと上から聞こえてきた。
 ・・・? えっ、あ、あれ。あれ、なんで。どういうこと!?
 あんなに大きな鉄の塊が、しかもあんなにも上空を飛んでいるなんて、到底信じられない現象だ! ひょっとして、これは夢だったりするんじゃないだろうか?
 あんな高さを飛行出来る者がいたら、それは宮廷魔法士くらいのものだが・・・。
 
「―――いたぞ! あの女だ、捕まえろ!」
「―――えっ?」

 初めて見る様々なものに、我を忘れて夢中になっていると、突如飛び込んで来たのは、黒服黒尽くめの男たち。
 ああ、もう。なんて踏んだり蹴ったりな一日なのだろうか。
 私は、男たちが現れた方向とは逆を向いて、無我夢中で走り出す。
 とにかく、とにかく!
 なんだか分からないし、記憶が蘇る気配もないけれど、アイツらに捕まったら不味いことは分かる!
 とにかく走って走って。
 胸元のペンダントを握り締めて。
 そうして、これまた何故か魔力を帯びていない遊具が置かれている広場の近くに佇んでいる男を視界に捉えると、私はなりふり構わず彼の腕を掴んだ。

「お願い、追われてるの! 助けて!」

 彼しかいなかった。この世界で―――なにもかもが初めて見るこの世界で、何処か見覚えのある顔の彼だけが、私の一筋の希望だった。

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