―――ずっと子供のままでいたい。
誰だって大人になれば、一度はそう零すはず。
だってそう。相対的に見れば、子供の方が大人よりも利点がある。
例えば、一週間に二回は必ず休みがある。休日出勤だなんていう忌まわしい言葉に縛り付けられていない、自由な子供が羨ましい。
例えば、お年玉が貰える。俺は高校生に上がった時点で大人の仲間入りとして扱われた為、お年玉は中学生までだったが・・・、それでも、自分で稼がず勝手にお金入ってくる環境ってサイコー!
例えば、例えばそう―――子供なら、夢を見るのだって自由だ。空を飛びたい。魔法を使いたい。子供てったって、それが許されるのは小学生くらいまでだろうが・・・、口にせずとも、見る分なら自由気ままだ。いつまでも新人気分で居られちゃ困ると、夢を見る暇も与えられない大人よりは、自由だ。
そんな感じで、今日も俺はへとへとに腐り果てて帰路に着く―――途中、公園を横切った時に、風で揺れるブランコを見て、昔の記憶が想起した。
そういえば小さい頃―――とは言っても、小学校低学年の頃の話だが、有名なスタジオ作の映画をテレビで見て、いつか俺の前にも、美少女が舞い降りて来ないかなぁなんて想像してたっけ。
「・・・っと、いけね。こんなことしてる場合じゃねぇよ。早く帰って残りの仕事終わらせねぇと」
懐かしさに浸るのも程々に、俺は家の方角へと足を向けた―――その瞬間だった。
めいいっぱいの力で、腕を引かれたのは。
そして、俺が振り向くと同時か否か、腕を引いた主であることは間違いない、凛とした声が響いた。
「お願い、追われてるの! 助けて!」
まさかこの一言で、幼少期に描いた夢が現実のものになるとは思わなんだ―――。
「僕は死にませぇん!!」
―――ドラマの台詞って、なんだか時々口に出したくなる面白さがある。でもこの台詞を実践で使うのは、ちょっと喉に突っかかるものがあるから。
だからこの台詞は止めて、僕は僕の言葉で愛を叫ぼうと思う。なんてったって、叫ばないと相手には伝わらないからね。
「―――」
君にちゃんと届いたかな。
もしかしたら、ブレーキの音に掻き消されてしまったかもしれない。そうだとしたら残念だ。
でもまあ、君に消えない愛(キズ)を刻めたのだから、良しとしよう。
その池でプカプカと泳ぐ白鳥は、身体にハートの紋様があることから、恋愛成就のご利益があると言われて大人気。
え、あれ?
今日のお題モンシロチョウ?
あ、あはは。しまった。
紋白蝶(もんはくちょう)なんて読んじゃったよ。
赦して頂戴な。蝶だけに。
「私のこと、忘れないでね」
その言葉を最後に、ある一人の魔法少女の身体は光の粒子となって空気に溶けた。
「お墓参りには行かなくていいの?」
それから丁度一年が経った日―――悪の組織によって命を奪われた彼女の一周忌に、悪の幹部とドンパチやった帰り道で、相棒の妖精は言った。
妖精の言葉に、魔法少女は頭をぽりぽり掻きながら、面倒臭そうな表情を隠さずに答えた。
「え? あー・・・そんなのもあったっけ・・・? でも今日は疲れたしなぁ、いーや」
魔法少女はステッキで妖精を小突き、「ほら帰るよ」と言って帰路を進んで行く。そんな彼女の後ろ姿に、妖精は不思議そうに首を傾げながら彼女の背を追った。
「人間って不思議だなぁ。あんなにも忘れないって言った言葉そのものも忘れちゃうんだもんね」
横たわる魔法少女の側に、ソッと近寄る少女は、彼女の手を握り締めて言った。
「絶対忘れないよ、いつまでも」
一年後に、自分は一体どんな姿になっているだろうかと、ぼんやり考えてみた。
どこで、誰と、なにをしているのか。
一年後…、小学校の頃に、将来の夢を書けと言われた時ほどは、想像することが難解とは思わないが、それでも、一年後自分がなにをしているか想像しろと言われれば、咄嗟には考え付かないほどのものではあった。
それは自分に、『将来の夢』と呼ばれるようなものがないことが、一番の要因なのだろう。
学校の先生になりたい。そんな夢がもし自分にあったのだとしたら、一年後は大学の教育学部へ行っていると、実に明快に答えられただろう。
しかしない。自分には、将来の夢も、なりたい未来もない。
…強いて述べるのだとすれば。
今この瞬間のように、文章を書いていられたらいいなと、そう願うだけだ。