思い出せない。
思い出せない。
思い出そうとすると、頭がズキリと痛む。
どうして自分がここにいるのか。
自分は何者なのか。
そしてここは一体何処なのか―――って、あ、あの鉄の塊は何!?
走ってる・・・、魔力の気配は感じられないけれど、一体何を原動力として走っているのだろうか?
と、謎の鉄の物体に興味を注がれていると、今度はブォンと轟音が、頭上のずっと上から聞こえてきた。
・・・? えっ、あ、あれ。あれ、なんで。どういうこと!?
あんなに大きな鉄の塊が、しかもあんなにも上空を飛んでいるなんて、到底信じられない現象だ! ひょっとして、これは夢だったりするんじゃないだろうか?
あんな高さを飛行出来る者がいたら、それは宮廷魔法士くらいのものだが・・・。
「―――いたぞ! あの女だ、捕まえろ!」
「―――えっ?」
初めて見る様々なものに、我を忘れて夢中になっていると、突如飛び込んで来たのは、黒服黒尽くめの男たち。
ああ、もう。なんて踏んだり蹴ったりな一日なのだろうか。
私は、男たちが現れた方向とは逆を向いて、無我夢中で走り出す。
とにかく、とにかく!
なんだか分からないし、記憶が蘇る気配もないけれど、アイツらに捕まったら不味いことは分かる!
とにかく走って走って。
胸元のペンダントを握り締めて。
そうして、これまた何故か魔力を帯びていない遊具が置かれている広場の近くに佇んでいる男を視界に捉えると、私はなりふり構わず彼の腕を掴んだ。
「お願い、追われてるの! 助けて!」
彼しかいなかった。この世界で―――なにもかもが初めて見るこの世界で、何処か見覚えのある顔の彼だけが、私の一筋の希望だった。
5/13/2024, 10:26:42 AM