木蘭

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6/14/2023, 9:06:41 AM

【あじさい】

父さん、今年も紫陽花の季節になりました。
庭一面、色とりどりの花が咲いています。

父さんと母さんが大好きだった紫陽花を見ていると、母さんが嬉しそうに教えてくれた初デートのエピソードを思い出します。ちょうど今頃の時期で、紫陽花の花束をプレゼントしたそうですね。

「梅雨の雨雲も吹き飛ばす、あなたの笑顔が見たかったので」

聞いている方が恥ずかしくなるような台詞とともに、花束を渡した父さん。耳まで真っ赤になっていたのを今でも覚えていると母さんが言ってました、

プロポーズのときも、紫陽花を渡したそうですね。そのときの母さんは、複雑な思いだったようです。というのも最初に紫陽花をもらった後、花言葉を調べたら「移り気」「浮気」といったおよそ恋愛には不向きな言葉か並んでいたんだ、と。色鮮やかな紫陽花が綺麗だったから、深く考えずにプレゼントしてくれたんでしょ、と母さんは笑っていたけどね。

子どもも巣立って、夫婦2人で穏やかに暮らす日々。夕方、「行ってきます」と散歩に出かける父さんに「行ってらっしゃい」と声をかけるのが母さんの日課だったんですね。夕飯の支度をしながら、「ただいま」という声に「おかえりなさい」と言って出迎える。

でも、もう「ただいま」の声は聞こえない。あの日、いつものように散歩に出かけた父さんは、交差点で車にはねられこの世を去った。家では、母さんが父さんの好物だった天ぷらを揚げて待っていたのに。

今年も紫陽花の季節になり、母さんはずっと庭を眺めています。でも、それはちっとも悲しそうではなくて、むしろ楽しそうに時折笑顔を見せているんです。もしかしたら、あの紫陽花のどれかが父さんなんじゃないかと思えてきます。

「もうこの歳だから、いつかこんな日がくることは覚悟していたつもりなの。でも、大好物の天ぷらも食べずに行っちゃうなんてね。もしかしたら、思い出したようにふらっと戻ってくるかもしれないわ。そのときは、初デートで褒めてくれた『雨雲を吹き飛ばすような』笑顔で迎えてあげたいの」

父さん、この紫陽花の花々と母さんの笑顔が見えていますか。どちらも、色鮮やかに美しく咲いていますよ。どうか、今あなたがいるその場所から見守っていてくださいね。

6/11/2023, 8:00:34 AM

【やりたいこと】

こないだ、久々に部屋を掃除したら手付かずのジグソーパズルが出てきてしまいまして。

パッケージ写真がとても綺麗だったこと、その商品を見つけたときがちょうどタイムセール中だったことが重なり、思わずポチッてしまった記憶が鮮明に蘇ってきました。いつか作ろうと思いつつ、直後に仕事が忙しくなってきてそのまま放置状態になってしまったんですねぇ。

今なら仕事も少しずつ落ちついてきているし、組み立ててもいいかなぁとも思うのですが、何しろ場所をとるものなので…。

でも、私が今一番やりたいことはこの2000ピースを超える超大作のはジグソーパズル『夕暮れの小樽運河』を組み立てて

「できたど〜っ❣️」

ってSNSにアップすること、ですかね♪

6/9/2023, 9:47:25 AM

【岐路】

私は今、重大な岐路にたたされている。

というのも、昨日の夜のこと。今、巷で話題となっている「ChatGPT」なるものをインストールしてみた。さて、どんなことができるのかと興味本位で入力してみた。

『岐路』をテーマに小説を作ってください

すると、流れるようなストーリー展開についつい引き込まれてしまい、ついには「この続きが読みたい」とおねだりしてしまったのだ。

ちなみにその物語は、もともとは同じ道を歩んでいた男女が人生の岐路に立つところから始まる。男性は安定と伝統のために家業を継ぐことを選び、女性は自分の夢に向かって挑戦することを選んだ。2人それぞれの道を歩みながらも、あるときお互いの人生が深く交わって…という壮大なストーリーだ。

いやぁ、私にはこんな素晴らしい作品は書けないなぁ…と思うと、果たして自分はこのまま文章を書いていてよいのかという根本的な迷いを抱いてしまったのだ。

ChatGPTは、たしかに優れたアプリだ。いろんな情報を瞬時に提供してくれる。たまに、ChatGPTが書く物語を参考にすることはあるかもしれない。でも、私は私が書きたい文章をこれからも書いていく。私にしか書けないものもあるはずだから。

「書くべきか、書かざるべきか、それが問題だ」といったところだったが、私の中で答えはもう既に出ている。そうでなければ、今ここで自分の文章でお題に向き合っている意味はないのだ。

6/8/2023, 8:59:10 AM

【世界の終わりに君と】

5年付き合った彼女の生命が、今まさに尽きようとしている。既に意識はなく、自力で呼吸することもできなくなった。

機械の力でかろうじて生命を維持している彼女を目の前にして、僕にできることは何もない。こうしてこのまま、世界の終わりを待つだけなのか。そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった-

…ちゃん…っぺーちゃん…徹平ちゃん‼︎

突然、自分の名前を呼ばれて我に返った。目の前には、純白のウエディングドレスに身を包んだ彼女の姿があった。

「舞衣…意識、戻ったのか⁈」
「ううん、違うの。これはね、神様からの『ラストプレゼント』」
「ラストプレゼント?」
「うん。私の生命が尽きるまで、短い時間だけど願い事を叶えてくれるんだって」

「願い事って、何でも叶うのか?じゃあ、舞衣の生命も…」と言うと、彼女は「それだけはダメなんだって」と悲しそうに首を横に振った。本当なら、それが唯一の願いなのに神様は残酷だ。

「それで、舞衣は?」
「うん、最期に徹平ちゃんのお嫁さんになりたいってお願いした。それで、お葬式じゃなくて結婚式で旅立ちたいって」

冷静になって見渡すと、ここは教会のようで周りには誰もいない。彼女の願いが反映されているのか、いつの間にか僕もタキシード姿だった。結婚式か…そういえば、ちゃんとしたプロポーズもまだだった。

「舞衣、こんなタイミングでアレだけど…僕と結婚してください!」

「もぉ〜、何かしまらないなぁ〜」と彼女は笑いながら、僕の手をとって。そして、そのまま2人でくるくると回り始めた。

「初めてだね、こんなふうにダンスするの。こんなに楽しいんだったら、もっと前から一緒に踊ればよかったなぁ〜」

こんなふうに、ずっと楽しそうに笑っている舞衣を見たのはいつ以来だろう。病気がわかってからは、笑顔の中にも深い悲しみがわずかに潜んでいた。解き放たれたように天真爛漫な彼女を見ることができたのは、僕への『ラストプレゼント』なのかもしれない。

「舞衣と踊ったこと、忘れないよずっと」
「ありがとう、徹平。すごく楽しかった。あと、私が最期に願うのは-」

また急に目の前が真っ暗になった。

一瞬、強い光が差し込んだような感じがして目を開けた。その情景は、最初に目の前が暗くなる前と同じだった。少しだけ違うのは、機械につながれた舞衣の口角が、少しだけ上がっているように見えること。
 
僕は、彼女の生命が尽きたら世界は終わると思っていた。自分には、その時を待つことしかできないと思い込んでいた。でも、その時がきても世界は終わらないし、待つだけじゃないことを舞衣が教えてくれた。彼女は、何を僕に言おうとしていたのだろう。

「笑って。笑って、幸せに生きてね、徹平」
どこからか、舞衣の声が届いた。

大丈夫だよ、舞衣。僕は生きる。
世界の終わりに君と踊ったことを、 
胸の奥深くに刻みつけて。

6/6/2023, 5:03:21 AM

【誰にも言えない秘密】

そもそも、「ほのか」が彼氏との待ち合わせ場所に早く来過ぎるのが悪い。

「だからさ、何で約束より3時間も前に来ちゃうのよ」
「だって、楽しみにしてたんだもん。彼に会うの、ホント久しぶりだから」
「そりゃ彼が忙しいのは俺だって知ってるし、ほのかがずっと前からこの日を楽しみにしてたのもよ〜くわかってるよ。でも、何で俺を呼び出したのよ?」
「だって、彼がいること他の誰にも言ってないし、1人で待ってるとドキドキして心臓飛び出しそうだし、他にこんなことお願いできる人がいなくて」

わかってる。ほのかに他意はない。
わかってはいるけれど、つい聞いてしまう。

「あのさ、ほのかは俺を何だと思ってるわけ?」
「え? それは…ほのが1番信頼してる大切な友達、だよ」

だろうな。そう言うと思ってた。

「俺は、ほのかを友達だと思ったこと1度もないよ」
「え? じゃあ何なの?」

本当のことを言えば、ちょっと鈍くて優しすぎるほのかをきっと傷つける。俺は、自分の本心に限りなく近い言葉を選んだ。

「今までも、今も、この先も、ず〜っと気になってほっとけないヤツ」
「何それ? うん、でもありがと。嬉しい」

「あ、時間だ」と言ってほのかが席を立つ。
彼女の腕を掴んで「行くな」と言いたい衝動をグッと抑えて俺も席を立った。

「本当にありがとう。じゃあ、行くね」

ほのかが今日イチの笑顔を見せた。でも。その笑顔は俺に向けてのものじゃない。

「また何かあったら俺んとこ知らせて」
「うん、わかった。また連絡するね」

嬉しそうに駆け出すほのかの後ろ姿が眩しい。きっとこの先も、俺は彼女が気になって気になって放っておけないのだろう。

「ほのかが嬉しそうなのが俺の最高の幸せ」
なんて本人はおろか、絶対誰にも言うものか。

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