木蘭

Open App

【誰にも言えない秘密】

そもそも、「ほのか」が彼氏との待ち合わせ場所に早く来過ぎるのが悪い。

「だからさ、何で約束より3時間も前に来ちゃうのよ」
「だって、楽しみにしてたんだもん。彼に会うの、ホント久しぶりだから」
「そりゃ彼が忙しいのは俺だって知ってるし、ほのかがずっと前からこの日を楽しみにしてたのもよ〜くわかってるよ。でも、何で俺を呼び出したのよ?」
「だって、彼がいること他の誰にも言ってないし、1人で待ってるとドキドキして心臓飛び出しそうだし、他にこんなことお願いできる人がいなくて」

わかってる。ほのかに他意はない。
わかってはいるけれど、つい聞いてしまう。

「あのさ、ほのかは俺を何だと思ってるわけ?」
「え? それは…ほのが1番信頼してる大切な友達、だよ」

だろうな。そう言うと思ってた。

「俺は、ほのかを友達だと思ったこと1度もないよ」
「え? じゃあ何なの?」

本当のことを言えば、ちょっと鈍くて優しすぎるほのかをきっと傷つける。俺は、自分の本心に限りなく近い言葉を選んだ。

「今までも、今も、この先も、ず〜っと気になってほっとけないヤツ」
「何それ? うん、でもありがと。嬉しい」

「あ、時間だ」と言ってほのかが席を立つ。
彼女の腕を掴んで「行くな」と言いたい衝動をグッと抑えて俺も席を立った。

「本当にありがとう。じゃあ、行くね」

ほのかが今日イチの笑顔を見せた。でも。その笑顔は俺に向けてのものじゃない。

「また何かあったら俺んとこ知らせて」
「うん、わかった。また連絡するね」

嬉しそうに駆け出すほのかの後ろ姿が眩しい。きっとこの先も、俺は彼女が気になって気になって放っておけないのだろう。

「ほのかが嬉しそうなのが俺の最高の幸せ」
なんて本人はおろか、絶対誰にも言うものか。

6/6/2023, 5:03:21 AM