umina*

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5/9/2024, 9:43:22 AM


大学4年の春。
いつも学校へ向かうバス停。
近くの家の桜が満開だった。

入学してすぐ、地面が見えなくなるくらいに、花が舞って、
感動したのを、今でも覚えている。


「それからは、毎日楽かったな…。」
ふと、言葉を零して思う。
ずっとここにいたい。って。

でも、それは叶わない願いで、
1年後はもう別の場所にいるんだ。

そう、風にさらわれる花びらを見ながら思った。



次第に時が経って、就活が忙しくなってきた。
大学も週に1、2回に行くくらいになってしまった頃。

いつもの様にバス停で、バスを待っていた。
けれど、いつもと違う。
あの桜の絨毯を作る家が、取り壊しの工事に取り掛かっていた。
あの桜も切られて、見る影もない。


「ああ、1年後またあの風景を見れないんだな…」

自分がもうここに来れないことも悲しいけれど、
それ以上に入学時、私の心を晴らしてくれた、
あの風景に二度と会えないことが悲しかった。


1年後、私はまた別の場所で満開の桜を見る。
けれど、あのバス停にもう桜が降ることは叶わない。
でも、あの景色を忘れることはきっとない。


5/8/2024, 5:05:23 AM

なんてことない日だった。

今日は2人とも休日。
あなたは、リビングのソファでテレビを見ていた。
いつも通りの朝の光景だ。


「ルームシェアをしよう」
高校生の時に2人でふざけあって決めたこと。
あの時は、お互い冗談半分だったけど、
それが今、叶っている。


「おはよう」
私は寝ぼけ眼を擦りながら、言う。
「おはよ、凄い寝癖だよ?」
「嘘!」

あなたの笑い声をよそに、急いで自分の部屋へ。
ドレッサーの鏡で確認する。
こりゃまぁ、凄い。まるでメデューサのようだ。

私の部屋はリビングのすぐ隣。
「あぁもう」
不満を小さく零しながら、ドレッサーの前に座る。


ここは好きだ。
ドレッサーの鏡を少し動かして、
髪の後ろまで見えるようにする。

と、リビングでくつろぐあなたが少し見えるから。

誰も知らないあなたを、ひっそり盗み見ているようで。


ただ、今日は違った。
いつも気づかれていないから大丈夫だと思ってたの。
だけど、あなたが鏡越しこちらを見て、目が合った。

今までだって、何回だって、
目を合わせてたはずなのに、
とっても驚いてしまって、目を逸らした。


その日からずっとあなたは親友とはどこか違っていた。
でも、かけがえない人で、
思うよりも、そっと恋をしたんだって、
その時は気づかなかったけど…。

それが初恋の日だったんだ。
って今更気づいたんだ。






4/30/2024, 4:33:03 PM


ここは展覧会。
誰もいない。私だけがいる。


絵が飾ってある。

例えば、
荒廃した街で1人、煌びやかに踊るあの子。
誰もいない寂れた商店街で、眠る2人の少女。
モノクロの世界で、唯一鮮やかなキャンバス。

例えば、
路地裏から見上げる、あの狭い狭い青空。
空の病室から満開の桜を眺める彼。飛び立った鳥。


そして、また真っ白なキャンバスを目の前に置く。


「話」の描き方なんて知らない。
伝わらないものばかりかもしれない。


それでも、また筆を執って、
ただ想った好きな景色を、描き出すだけ。

ここが私の楽園。
どうぞご覧くださいませ。

4/28/2024, 2:19:59 AM

僕は石ころだった。
川辺にある普通の。なんてことない石ころ。

隣に座った誰かに話しかけられていた。
その人はとてもキラキラしていて、綺麗だったと思う。

僕はその人の話を聞き続けた。
いや、聞かされ続けた。
耳がないので、曖昧にしか聞き取れかったけれども。

過去に何があったとか、それで今は1人だとか。
持っている力を、何に使ったらいいかわからないだとか。

口も手もない僕は、答えられない。
その頃はまだ自我などなかったが。


ある日のことだった。
今日もその人は隣に座って、言葉を吐く。

「なぁ、石ころ。お前は何が欲しい?
私は、話せる友人が欲しいよ」

これが、はっきり聞こえた最初の言葉だった。
僕はこの時、二度目の誕生を迎えたんだ。


まだ石ころのままだけど、自我を持って話せるようになった。
その人は驚いていた。でも、どこか悲しそうだった。

僕たちはそれから色々な話をした。
難しいことは僕にはわかなかったから、
ただ素直に思ったことを伝え続けた。
あの時もそう。


「なぁ、石ころ。私は、私だけがここに残っていて、
意味があると思うかい?」
「うーん、僕はあなたのおかげで、ここにいることに退屈しませんが、それではダメですか」

その人は、ふっと笑って
「そうか、じゃあ私がここで生きる意味もあると?」
「あると思いますよ。あなたが毎日、楽しければそれでいいと思います。僕は楽しいですし。」

抑えきれない笑いを隠すためか、
その人は膝に顔を被せたまま、震えていた。

「そっかぁ…ありがとう石ころ」



4/26/2024, 3:41:00 PM

冬、私が訪れた山の中にぽつんと小さな村があった。

吹雪の中、足を怪我をしてしまった私を、
そこの住人はみな優しく、とても良くしてくれた。

その村は数えられるほどの人しか住んでおらず、
食料も少なかった。がみな、幸せそうに生きていた。


ある時、私は少し歩けるようになったので村の散策をしてみた。

ふと、離れたところに小屋があった。
物置小屋か何かだろうと思った。

「あそこには近づかんほうがええ、おめぇさん呪われっぞ」

そう、看病してくれた人が言っていた。だから、近づかないでおいた。


季節は春になり、この村を去ろうとした時、
子供が貧相な格好であるいていた。
体はやせ細り、靴もなく、見るに耐えなかった。
村人たちは睨みつけ、村の子はその子に石を投げつけて、
遊んでいた。

その子はなんの反応も示さず、抵抗なく、
私が近づかなかった小屋へと帰っていった。

「人が…あの子が住んでいるのか…?」
私は驚いた。同時に、村人に怒りを覚えた。

なぜあの子はあんなところに住んでいるのか。
なぜあの小屋に近づけば呪われるのか。
…誰も教えてくれなかった。

「あんな小さな子供が、呪うわけないだろうっ…!」
「あのままでは死んでしまう…っ!」

急いであの小屋へと向かった。


「…………だれ?」
足音に気がついたのか、女の子の声が聞こえた。
「旅の者だ。」
「…何用…?…ここにいては…だめ。来ては…だめなのに.......」

彼女の声を余所に、私は疑問をぶつける。
「なぜ君はこんなところにいるんだ?」
「なぜ君に近づくと呪われる?」
「なぜ村人たちは君を嫌うんだ?」

「………………」
「答えてくれ。」
「…。」
「頼む…。」

長い沈黙。
私はドアの向こうで声が発せられるのをひたすら待つ。

「……てない。」
「え?」
「わたしは……呪われてない。」
「…っどういうことだ…?」

彼女は一気に、これまで喋れなかった分を全て吐き出すように、詰まりながらも喋り出す。


「嫌われるために…こ、ここにいるの。 
だから、わたしは、呪われてなどいない、 
村が…平和になるように、……必要。」
「母さまにそう教わったの。
人は誰かの上に立っていないと、不安…だから」
「それで、村は平和になるように… 
そのために、ここに……居るの。」

「私は、ここにいれて、幸せ」

あまりにも酷すぎる。そう思った。

「だから…大丈夫だよ、旅人さん」

私は何も言えなかった。
何が良い事か、悪い事か分からなかった。

大勢の平和のために、彼女を犠牲にするか彼女を助けて、
大勢の平和を壊すか流れ者の私には、決められないことだった。

その後、私は何も出来ないまま村を去った。
ただ、もし彼女のような境遇の子が助けを求めていたら救いたいと、思った。

最後、彼女は笑っているように思えた。
だから、私は彼女に手を差し伸べられなかった。

今、あの子は幸せだろうか。


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