湖楠*

Open App


大学4年の春。
いつも学校へ向かうバス停。
近くの家の桜が満開だった。

入学してすぐ、地面が見えなくなるくらいに、花が舞って、
感動したのを、今でも覚えている。


「それからは、毎日楽かったな…。」
ふと、言葉を零して思う。
ずっとここにいたい。って。

でも、それは叶わない願いで、
1年後はもう別の場所にいるんだ。

そう、風にさらわれる花びらを見ながら思った。



次第に時が経って、就活が忙しくなってきた。
大学も週に1、2回に行くくらいになってしまった頃。

いつもの様にバス停で、バスを待っていた。
けれど、いつもと違う。
あの桜の絨毯を作る家が、取り壊しの工事に取り掛かっていた。
あの桜も切られて、見る影もない。


「ああ、1年後またあの風景を見れないんだな…」

自分がもうここに来れないことも悲しいけれど、
それ以上に入学時、私の心を晴らしてくれた、
あの風景に二度と会えないことが悲しかった。


1年後、私はまた別の場所で満開の桜を見る。
けれど、あのバス停にもう桜が降ることは叶わない。
でも、あの景色を忘れることはきっとない。


5/9/2024, 9:43:22 AM