全てが闇に包まれている様な暗い夜、私は1人の死神と対峙していた。髑髏の仮面と黒い襤褸そして大きな鎌を持った死神は血に染まっていた。先に誰か1人を殺したらしい。今思えば無気力な人生だった。大した夢もなく未来もなく趣味さえ見つからなかった人生。今死んでもいいかもな。そう思いさえした。でもいつまで経っても死神の刃は私の首にふれることはなかった。
白い手袋に覆われた指先でクイックイッと指を曲げて挑発してきた。抵抗するつもりはなかったが、まあせっかくだし足掻いてみようかと死神に投げ捨てられたナイフを手に取り戦った。死神はわたしの首を最初に狙ってきたので屈んで避け体のバネを使って死神の喉笛を掻き切った。あっさり倒せるもんだなと思った。すると仮面から血が溢れて割れた。
仮面の中にいたのは昔馴染みの少女だった。彼女は仮面が割れたのに驚いた後、フッと笑って何かを呟いた。確かその昔馴染みは後数ヶ月で死んでしまう様な風前の灯火にあった。もしかしたら彼女は余命幾許もない命で私の命を繋ぎ止めてくれたのかも知れない。私はもう少しこの世界で頑張って生きてみようかと思った。そして最後の彼女の言葉はいったいなんだったんだろう。
「それでいい」お題
この物語はフィクションです。
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この世に願いを一つでも叶えてくれる神様がいるならどんなに幸せだろうか。私はそう思った。だが一つしか叶えられないとはどんなに苦痛なことか私はまだ知らなかった。悪夢の始まりは高校生の夏だった。暑い家の中であまり効いてないクーラーと扇風機をフル稼働させて夏休みの課題をこなしている時に電話がかかった。それは妹と母親が死んだ報告だった。車の逆走が原因らしい。あまりにも衝撃すぎて涙も出なかった。その日私は寝ていると夢の中で翼を持った天使の様な人がやってきて今から一つだけ願いを叶えてやろうと言った。私は2人を蘇らせたいのです。と言ったらダメだ。1人だけだと言われた。私は結局妹を選んだ。母だけの葬式が終わると私は罪悪感で吐いてしまった。私が母を殺してしまった。私が選んだのだ。私が見捨てたのだ。こうして私は自分の余生は罪悪感に苛まれる人生になった。けれど妹の安らぐ顔を見ると少しは何かを成し遂げた達成感で救われる様な気がしてならなかった。
この物語はフィクションです。
お題一つだけ
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私がまだ生意気盛りな青年の頃、ある日街を歩いていると小汚いお爺さんが針が折れてこわれている安物の時計を大事そうに持っていた。不思議に思って私が聞くとお爺さんは「これは亡くなった妻との唯一の思い出なのじゃよ」と答えた。でも私は壊れているからいくら大事な者でもそこまで持つのかと聞いた。それからお爺さんはニヤッと不快にも好ましくも感じぬ中間的な笑みをたたえて「おまえさんもいつかわかる」と言った。それから10年が経った。成程。確かに人生にはくだらなくても大事なものがある様だ。そう思えてきた。どんなに安くても壊れていても大事なものは大事なんだと理解した。まだ大事なものは見つかっていない。けど大事な考えが見つかった。
この物語はフィクションです。
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更新が遅れて申し訳ありません。
あ、雨の音。この音を聞くたびに私は昔のことを思い出す。私は昔は孤児だった。生まれた頃から1人で生きていた。周りに蔑まれてきた。殴られた。石を投げられた。誘拐されかけたり騙されて臓器を売られそうになったことだってある。
でも私は生きた。生き地獄の中で私はカビたパンと雨水を煮沸して作った飲み水で命を繋いだ。パンは黒くくすんでいてカビが生えていた。千切ることは出来なくてもちろん咀嚼することさえ出来なかったので、岩を鋭くしたナイフもどきでパンを一口サイズに切って水と共に飲みこんだ。嚥下する前に感じるのは口一杯の苦味とカビ臭さだった。暫く耐え忍べたが限界だった。まともなタンパク質は取れずビタミンも取れていない。日に日に自分の身体が壊れていく感覚があった。死ぬ間際なのに随分と冷静だった。或いはそう反応する程の余力残っていないからかも知れない。雨が降り出した。いよいよ意識が混濁してきた。そのまま眠ると次目を開いたのはヒトの部屋だった。その内家主が帰ってきた。まずここまで運んだ経緯とこれからのことを話してくれた。どうやら雨が降っている音の中に少し子供の息遣いが聞こえて発見して保護してくれたらしい。これからは私を育ててくれるらしい。
後、彼女が名前をくれた。「雨音」という名前。少し女っぽいが私を象徴しているみたいで、いい名前だなと思った。こうして生活が始まった。彼女は私を学校に通学させてくれた。勿論、美味しい食べ物だって。
それなのにある日、彼女に家を追い出されてしまった。散々言われた。やっぱり私は嫌な奴なのかな。と思った。カレンダーを覗くとエイプリルフールだった。もしかしたら私のための優しい嘘かも知れない。そう思ったら家に戻りたくなった。軽蔑されてもいい。嫌悪されたっていい。少しでもあなたの側にいたかった。
私は人間ではない。私は天使や死神の様な存在だ。
かと言って何か崇高な使命があったりとんでもなく邪悪な計画を練っていたりしているわけではない。
私は人の幸福を管理する役目を持っている。下界の人間の生活を見て、幸せのバランスを取っている。私は自然には干渉出来ないから人や経済を操ってバランスを変える。とはいえ私が見ているのは世界のバランスだから一部幸せに満ちている人間もいれば不幸ばかりが続く者もいる。だから神がいれば人生は幸福という風に下界の人間は思っているが、人間は他の動物たちよりも知能が発達しているから特別管理しているが、実際のプライオリティは地球を始めとする天体の方が圧倒的に上だ。だから人間だけをみればアンバランスかもしれない。だが世界を見ればバランスが取れているのだ。けれど私は人間が好きになった。ずっと見ていると退屈しない。今日も1人の人間を観測していた。その人間は前からずっと不幸で先月やっと結婚した。
ずっと不幸続きな男だったからやっとの幸運を掴めたのだと感慨深く思った。私は1人の人間だけに肩入れをすることは出来ない。だから居もしない神にこう願った。「不幸続きだった彼に幸在らん事を」
お題幸せに
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