あ、雨の音。この音を聞くたびに私は昔のことを思い出す。私は昔は孤児だった。生まれた頃から1人で生きていた。周りに蔑まれてきた。殴られた。石を投げられた。誘拐されかけたり騙されて臓器を売られそうになったことだってある。
でも私は生きた。生き地獄の中で私はカビたパンと雨水を煮沸して作った飲み水で命を繋いだ。パンは黒くくすんでいてカビが生えていた。千切ることは出来なくてもちろん咀嚼することさえ出来なかったので、岩を鋭くしたナイフもどきでパンを一口サイズに切って水と共に飲みこんだ。嚥下する前に感じるのは口一杯の苦味とカビ臭さだった。暫く耐え忍べたが限界だった。まともなタンパク質は取れずビタミンも取れていない。日に日に自分の身体が壊れていく感覚があった。死ぬ間際なのに随分と冷静だった。或いはそう反応する程の余力残っていないからかも知れない。雨が降り出した。いよいよ意識が混濁してきた。そのまま眠ると次目を開いたのはヒトの部屋だった。その内家主が帰ってきた。まずここまで運んだ経緯とこれからのことを話してくれた。どうやら雨が降っている音の中に少し子供の息遣いが聞こえて発見して保護してくれたらしい。これからは私を育ててくれるらしい。
後、彼女が名前をくれた。「雨音」という名前。少し女っぽいが私を象徴しているみたいで、いい名前だなと思った。こうして生活が始まった。彼女は私を学校に通学させてくれた。勿論、美味しい食べ物だって。
それなのにある日、彼女に家を追い出されてしまった。散々言われた。やっぱり私は嫌な奴なのかな。と思った。カレンダーを覗くとエイプリルフールだった。もしかしたら私のための優しい嘘かも知れない。そう思ったら家に戻りたくなった。軽蔑されてもいい。嫌悪されたっていい。少しでもあなたの側にいたかった。
4/2/2024, 1:25:17 AM