ひやりと、頬の冷える帰路。
それは人知れず孤独感を誘い、若干だが心細さまでも思い起こす。
屋内から漏れる団欒の証が、その感覚を強くさせるのだ。
暖かな根城への恋しさを紛らわそうと、高々と頂点の位置を超え、そこから頭上や足元の道までも静かに照らしてくる相手へ目を向けた。
──“あれ”は、やや欠けているのか?
そんな疑問を持ちつつ、肺には冷たい空気を多く取り入れさせ、その中へ熱を含ませるよう「ハア」と殊更に強く吐き出してみた。
薄暗い空虚へ放った息が、白いモヤとなる。
それは遠く届かぬ先に浮かぶ、真ん丸そうな光源をほんの少しだけぼやけさせた。
【月夜】
友情の証、親愛の証。
無理して元からあるカタチの内側に当てはめようとしなくても、それとなく連絡を取る人物とは、日々の愉快さを分け合い笑っている。
自分ではないのが、電話口の相手。
人が良すぎるあの子は、時々訪ねて来るような押し売りの業者に負けそうで少し心配になる。
……この例え話だと杞憂で終わるけど。
それでも、いろいろキッパリ物を言うタイプの私とは、真逆の人柄だ。
初めのキッカケは何気ないものだったと、話かけた側の私が多分一番驚いている。
それがいつしか数年経ち、今では信じられないほど長い付き合いの友人になっていた。
ただ、明確に親しさを喜べる繋がりは、安易に得られる代物じゃあないと知っている。
何よりも変え難いのが分かるからこそ、自分にとっても大切な関係性の一人だと認められる。
時間をかけて深まる理解と共感が、いつか互いのかけがえのない財産になると柄でもなく受け止めてしまうほどに。
まあその、なんていうかさ。
まだ面と向かって伝えるのには、正直こそばゆいなとは思うんだけどね。
いつも、ありがとなって言いたくなるんだよ。
【絆】
誰かの面倒を見るのは、正直あまり苦では無い。
それに対して「そんな世話焼きだったっけ?」と友には茶化されたが、別に人それぞれだろうと軽い反論を打ち返した。
ただそうは言っても、ふと線みたいなものが途切れる瞬間はあるし、唐突にバッとすべてを投げ出してみたくもなる。
──正しく、今がそうであるように。
パートナーを送り出した扉を施錠すると、途端に肩の荷が降りたのか自ずと大きな吐息が出てきた。
だって自分も一人の人間。
のんびりと「おやすみモード」になりたい気分も、正常に備わり機能しているのだから。
そんなこんなで戻ってきたキッチンの一角。
すでに戸棚の隙間には、この日のために拵えておいた甘味たちが香りを潜ませて、今か今かと己が出番を待っている。
さあそろそろ、お湯も沸く頃合い。
不定期開催・おひとり様限定な、秘密のお茶会を始めよう。
【たまには】
言葉を交わせるうちは、何度だって伝えたい。
すれ違って喧嘩する日があっても、深い悲しみなら二人で分かち合おう。
最期に、お別れする時が訪れるまで。
あなたの隣で歩んできた日々は、毎日がキラキラと輝いて見えています。
だから明日も、会えるといいな。
【大好きな君に】
我が子の幸せと健やかな日常を願う日。
その夜の食卓は、桃色を始めとする色彩豊かな愛情に溢れていた。
いつもより甘い香りに誘われたのか、くぅ、と食欲でお腹が鳴いたのを覚えている。
私の近くへ引き寄せたお皿の中身を取り分けながら、くすりと笑った母は「こんな意味があるんだよ」と優しい声で教えてくれた。
冬から春へと向かう時期。
それはもう一日ごとにスーパーの陳列棚が忙しなく入れ替わるので、幼い頃ひそかに感じていた待ち遠しさを少し懐かしみつつ、買い物かごの隙間を埋めていった。
今日の夕食も、今では私が作り並べている。
あの遠い夜に知った由来の話を、この子には、いつ伝えてあげたら良いのかな?
母の手料理とは、私の憧れの味でもある。
【ひなまつり】