出来ることは、すべて全力で出し切った。
待ち時間で緊張に胸が破裂しそうになりながらも、いざ本番が迫ると気合いは漲り、いっそのこと思いっ切り楽しんでやった。
ここまで残っている者は、何度も勝ち上がってきた強豪たちだけ。
誰もが目指していた頂点が、すぐ目の前にある。
自分たちが願うのは、ただ1つ。
ずっと聞き馴染んだ「名前」が、この中で最初に読み上げられると、そう強く信じている。
そして今、最後の静寂が訪れた──
【たった1つの希望】
あれも、これも、この手に欲しい。
以前逃した願いを満たせるチャンスが、今もう一度目の前にあるからこそ、彼はどうしたって諦められなかった。
「もしかしたら」「今度こそ」
そんな思考がから回って、のめり込んで、積もり切って。
もう後には引けぬと、とある手段にまで手をつけた。
──数分後。
その手のひらの中で最後に残ったのは、身の丈から破綻した者の放心と、尚も報われぬ残骸であった。
【欲望】
駅のホームから車体を眺めていると、その窓枠の内側からガラス面へ張り付いていた小さな子と目が合った。
まだ警戒心よりも好奇心が勝っている幼子の、あどけなく笑う様子に、なぜか私も自然と反応を返してしまった。
その後こちらの様子に気づいた親も、私の手の 動きを見て「ぺこり」と会釈をしてくれている。
しばらくすると発車時刻になったのか、その車窓は線路の上を滑り出し、目の前から去っていった。
ニコニコと笑顔で手を振って景色の中に溶けていったあの親子にも、なんであれ、なにかしら良いことがあるといいなと願ってみる。
我ながらお節介な思考だろうけど、今日はすこぶる気分が良かったのだ。
【列車に乗って】
元を辿ると、至って普通なドライブ好きの一人である。
これはそこから自然的に派生したものだ。
主に自分への土産物を物色する、その最中。
ふとした切っ掛けで「未知なるご当地グルメ」を探し当てるのにもハマり、週末は愛車と充実した一日を過ごしている。
見慣れない土地を巡るのは楽しい反面、それなりに金銭面の出費は嵩むこともあるが、まあ趣味とはそういうものだろう。
道すがら「美味なる出会い」を発見できた瞬間の喜びもひとしおで、単純だが何よりも心と舌は感慨に満たされるのだから。
行き当たりばったりだが、やはり旅は心地よい。
また新たな充足感を求めようとして、仕事の休憩時間に検索エンジンを開いた。
【遠くの街へ】
明るむ窓と朝焼けの訪れに、頭を抱える。
もっと計画的に手をつけておけば良いものの、“また”やってしまった。
こんな一夜漬けの足掻きでは振るわぬ事実も、身をもって知っているというのに。
うめきと嘆きをない混ぜにした声は、差し迫るまでお気楽モードのまま過ごしていた己が慢心へと牙をむき、怨嗟を捏ねくり回す。
結局苦しむのは、いつだって他でもない自分自身だ。
頭では分かっている……はず。多分。
だというのに、こうも目の前の寄り道や誘惑に負けているのは如何なものなのか。
そうやって焦りと後悔を繰り返しても、未だに悪癖を積み上げてしまうのが、いわゆる一つの“お約束”だった。
【現実逃避】