ざぁざぁ、とバケツを反したような雨が降る。制服を濡らす筈だった水滴は私を避けるように弧を描いては地に落ちる。
帰路につく足は止めずに、暗い空を見上げてここまで気持ちが晴れやかなのはいつぶりだろうか、等とらしくない事を心の中で紡いでみる。
途端、なんだか恥ずかしくなってきてごまかすように異様に傾いた傘を押し戻した。
「今日の心模様」
今日、第一志望だった大学の合否通知書が届いた。結果は、不合格。
居ても立っても居られなくなった私は自然とその足を近所の桜並木へと向けた。
しかし、気分を晴らしたくて見上げた桜は既に散り始めていて、不安を増す以外に意味をなさなかった。
同じ大学を受けたから一応、と報告を送った友人からは、文字通り「桜」が散ったか、という彼らしくもない、実にあいつらしい煽り文句が返ってきた。
これが私を傷つけぬようにと考え抜かれた励ましの言葉だと理解するのに時間が掛かる仲ではないけれど、なんとなく癪に障ったので既読はつけなかった。
自分の名前に桜がついているせいか、この時期は無性に悲しくなる。
ましてや今は、桜が舞い落ちる様が晴れ晴れとした空から遠ざかっているような気がして。
「桜散る」
エンドロールが流れ、少しの間をおいて配信が幕を閉じる。
卒業配信。実に大勢のファンが彼の引退を悔やみつつも、彼の物語の終章を見守った。
最後だったからか、惜しむ声よりも称賛の声の方が多かった気がする。
かくいう僕は跡を残すこともしなかった。
エンターテイナーであるあなたが、この界隈を去りきるとは思えなかったから。ずっと名もなき観客でいたかったから。だからまた会いましょう。
ここではない、どこかで。
あなたでない、あなたと。
「ここではない、どこかで」
君の作品について、ここが良い!だとか、そこが良い!だとか楽しそうに話す部員と、それを聞いて満更でもない顔をする君を部室の片隅で邪魔しないように見守る僕。
あの人のように楽しく話せたら、といつも思ってしまう。作品への熱量は同等にあるつもりだ。でも言葉が上手く出ない。
「話さねぇと、始まんねぇぞ?」
突然後ろから頭に衝撃がはしり、持っていたスマホを取り落としそうになる。頭を小突かれたらしい。
振り返りながら抗議の意味を込めて睨みつけると、犯人は間違えて当たったと言わんばかりの実に白々しい表情で肩をすくめてみせた。
「全員が全員俺って訳じゃねぇんだから、努力はしろよな」
そう言い残し教壇へと向かう親友の背を前に僕は、無理だろとぽつりと呟いた。
「届かぬ思い」
先生の話も半分に、教室の窓から空を見上げる。
天気は快晴で、本当に雲ひとつ見つけられない。
まるで晴くんみたい、と自信過剰気味な友人の顔が思い浮かび苦笑するが、当の本人は絶賛夢の中。
これで先生に当てられた時はきっちり答えられるのだから、羨ましく思ってしまっても仕方がないだろう。
「お前にはお前の良さがある。無理に変わろうとしなくても良いんじゃないか?」
ふと、前の授業の事を思い出してしまった。
やっぱり今日は空が眩しいなぁ。
「快晴」