「お世話の日々」
中学生の女の子は、おじいさんとおばあさんのお世話をしていました。本当だったら、お父さんかお母さんがするはずですが、両方とも働いてて忙しいので、女の子がおじいさんとおばあさんの世話をしていました。女の子は、
「何で、おじいさんやおばあさんの身の回りの世話をしなきゃいけないの?」
と、毎日泣いていました。お母さんは、
「私達は、仕事が忙しくて、おじいさんやおばあさんの介護が出来ないの。アンタは毎日遊んでて暇なんだから、アンタが世話しなさいよ」
と、女の子の意見には聞く耳持たずでした。
「本当だったら、友達と遊んだりしたいし、好きな男の子と恋人同士になって青春時代を送りたいのに…何でおじいさんやおばあさんのウンコの世話や体拭きばっかり、毎日毎日しなきゃいけないの?」
女の子は、短い睡眠時間の時に泣いていました。
女の子は授業を受けていると、長い間二時間しか睡眠時間の無い生活を送っていたので、倒れて保険室に運ばれて行きました。
「大丈夫?!」
スクールカウンセラーの先生は、女の子の様子を見るなり驚きました。先生は、
「何か、困った事とかありませんか?」
と、女の子に聞いたので、女の子は、
「実は…」
と、自分がおじいさんやおばあさんの身の回りの世話をしなきゃいけない事を先生に言いました。
「ヤングケアラーね…ご両親とお話させてもらえないかしら?」
と、先生は自分が女の子を助けると言いました。女の子はこれでようやく救われると涙を流しました。
面談の日、女の子の家に先生が来ました。
「娘が素行不良を起こしましたか?」
「後で、厳しく言いますので…」
「お父さん、お母さん。娘さんは、学校では真面目に勉強なさってます。素行不良なんて一切ありません。ただ、おじいさん、おばあさんの介護の件なんですが、娘さんは大事な時期です。介護をさせていれば勉強の時間だって減ってしまいます。祖父母さんは、老人ホームに入所させるとか考えてくれないでしょうか?」
先生が、女の子の両親に提案すると、両親の表情は曇りました。
「困りますね…どっちか退職したら、生活費がままならなくなりますよ?」
「両方とも非正規雇用ですし、片方だけの給料で生活は難しいです!」
と、女の子の両親は先生に反論しました。
「あの…児童相談所に通告しますよ?」
「コッチはそんなことしたら裁判を起こして、学校の不祥事をメディアに公開してやりますよ!」
と、お父さんは先生に怒鳴りつけました。先生は、そのまま帰ってしまいました。
女の子は、中学卒業後、成績が足りずに高校進学を諦めて、近くのコンビニでアルバイトをしていました。中学三年の共通テストの日におじいさんが、卒業式の一週間前におばあさんが亡くなって、ようやく介護から開放されました。
「もう、介護しなくて良いけど、行きたかった高校にも大学にも行けない…」
女の子は、狐か魔女に騙された様な気持ちになっていました。女の子は、家が貧しくて中卒の為、アルバイトをするしかありませんでした。
女の子は、アルバイトをしていて思いました。
「何で、こんな単純で単調な仕事しか出来ないの…?」
女の子の側を、中学時代の同級生が通りかかりました。同級生には夫と子供が居て、楽しそうに喋っていました。
「ママって、大学出てるの?」
「当たり前じゃん。結婚前は正社員だったのよ」
同級生は、女の子の方を見ました。
「あんな風になっちゃダメよ。勉強しなかったらああなるから」
「うん!分かった!」
同級生一家は、遠くの方へ歩いて行ってしまいました。女の子は、自分の人生って何だろうと思いました。
あれから年月が過ぎ、女の子は中年女性になりました。結婚適齢期が過ぎても相手が現れず、未だに独身です。自立して自由に生きている人達が羨ましく思っていました。
「悪いな、今度は親の介護をしてくれ。じいさんばあさんの両方面倒見て来たお前なら出来るだろ」
今度は、両親の介護を頼まれました。女の子は、今まで抑えていた感情が一気に吹き出しました。
「お前らを苦しめて地獄に落としてやる!!」
女の子は、両親を虐待する日々を送りました。両親の口を強引に開けて熱湯を流し込み、針を両親の体中に刺し、両親を顔の原型が分からなくなるくらい、殴り、蹴り、踏みつけました。両親共に動かなくなってしまいました。女の子は、睡眠薬を大量に飲んで眠りました。
「私とあなたじゃ住む世界が違う 第七十五話」
志那は、牢屋の中で正気を失った様にしょんぼりしていました。
「誰も助けに来ない…いつまで、こんな生活が続くんだろう…?」
志那は、牢屋の中の生活で疲労困憊状態でした。
「毎日、殴られるし、電流浴びせられるし、体の何処かが怪我するし…」
「お前、大丈夫か?」
突然、志那の前に薄いベージュの肌、伏せた黒い目、黒に近い紫色でボブに近いショートヘア、痩せ型、白のパーカー、スポーティーな服で無口で冷めた感じの少女が現れました。
「…誰?」
「僕は空白。お前は?」
「斎藤志那だけど…」
「志那、このままだとこの世界で生き残れない。僕に付いて来い」
「…分かった!」
志那は、このまま牢屋から出られないのは嫌なので、空白に従う事にしました。
「…って、何処へ?」
「極地世界」
「…え?!待って、待って!極地って危ない所じゃ…」
「このまま、ココに居るか?」
「それは…嫌!」
「じゃあ、行こう」
空白は、
「バクレマンジェー」
と、唱えると極地の入り口が開きました。空白は、志那を連れて極地の中に入って行きました。
「極地って…暗いし、気味悪いし、アリスの世界みたいによく分かんない所だね…」
「気をつけろ。極地に飲まれると、甚大な呪いを受けるぞ」
空白は、ステンドグラスみたいな木の幹に手を付けると、自分の過去の一場面が映し出されました。
「…2.5次元国から追放されたんだ…」
「男のグループのファンから、訳の分からない理由で攻撃されている。元の国では住めなくなった」
「わ、訳の分からない…?!」
「グループのメンバーの一人と結婚するんじゃないかとか言う馬鹿げた理由でだ。僕、その人とは会った事が一度も無い」
「…は?何それー?!そのファン、マナーってヤツ成って無いんじゃない?!」
志那は、空白を攻撃している男性グループのファンに怒りました。
「…志那は敵では無さそうだ」
空白は、少し考えました。
「志那、赤いリンゴ好きか?」
「リンゴって…食べる方?…まさか、あのかなり失礼なヤツの事?」
「志那、どっちだ?」
「…分かんない」
「そうか」
二人は、黙ってしまいました。
「志那、この世界は志那の空想の世界で、志那がそのマスター。主だったら、好きにその世界を変えられる。闇覚醒だって使える筈だ」
「あ…そうだった。この世界、私の空想の世界じゃん…」
志那は、自分の世界がこんなに酷い状態になっている事を悔やみました。
「極地に長く居ては、人の心が消えてしまう。サッサと出るぞ」
志那と空白は、外に出ました。
「あ…牢屋の中に戻ってる…」
志那は、思いついた様にメイデンソードを振りかざすと、いくつもの拷問器具が現れました。
「…トーチャフィールド…?何コレ?今までに無い技か術?」
志那は、この時に闇覚醒の技だと悟りました。
「この技、闇覚醒なんだ!」
「オイ!侵入者だ!」
「捕えろ!」
牢屋の外が騒がしくなっていました。
「くっ…」
「空白!」
空白は、大勢の信者達と一人で戦ってました。
「(空白って、味方っぽいけど…何かイマイチよく分かんない子だな。年齢も分かんないし、男なのか女なのかも分かんないし、何の目的で来たのかも分からない。謎多し…)」
志那は、空白と言う人物の謎が多すぎて頭の整理が追い付かない状態でした。
「でも、私も戦わなきゃ!」
「私とあなたじゃ住む世界が違う 第七十四話」
「三次元国軍の方ですよね?助けに来てくれたんですか?」
「まさか。別件で用があって来ただけ。君の事なんて、僕、興味無いし。トリュフみたいにガメつい男じゃないよ」
「ターキー、言い過ぎだろー。ほとんど物言わないロブスターよりはマシだぞ」
「……無口の道化師の何処が悪いんだい?」
「まぁまぁ、二人共喧嘩しない!」
「……キャビアは良い役回りだな」
「ロブスター、今日はやけに話すじゃないか」
「…?」
志那は、三次元軍に目が点になっていました。
「あのー、聞いて良いですか?ターキーさんって本当はスカイさんって事は無いですか?」
「…君も僕をスカイって言うんだな」
ターキーの眼つきが変わりました。
「君は、一般社会の非正規雇用で終わりそうな人間だな。対して才能も無く、容姿だってパッとしない一般人レベルだ。君の人生、不幸で終わりそうだな。腹を割って話せる友人だって居ない。結婚どころか恋人と恋愛する訳でも無く、老後は一人寂しい生活で人生の幕を下ろす。ま、可哀想とでも言っておくよ」
「ひ…ヒドイ…」
志那は、涙目になっていました。
「君が泣いたって、僕はなーんとも思わないけど。僕は君と違って社会的地位のある人間だから。君なんてそこら辺の雑草みたいなモンだし。雑草に魅力なんて感じる?むしろウザいね」
志那は、泣いてしまいました。
「じゃーねー。そこで自分の出来の悪さと不甲斐無さに反省しとけば?」
三次元軍は、地下牢を出ました。
「…オイ、大丈夫か?」
饅頭の一人は、志那に話しかけました。
「拷問されなかっただけ有り難いと思え。三次元国の軍人は拷問好きな奴多いからな」
饅頭達は、志那の周りを取り囲みました。
「それより、聞いてくれよ…広告収入が無くなりそうで困っているんだ。明日からどうやって食ってけば良いんだよー!」
「歌い手の皆様は仕事でも、俺達にしてみればニートの暇つぶしのように世間からは見られてるんだろうな…」
「俺達だって、立派な配信者だ!でも、なかなか再生回数と登録者数伸びないんだよな…楽な生活したいよ…」
饅頭達は、自分達の悩みを次々に言い始めました。
「配信者って、そんなに大変なんだ…」
「もう、苦労の連続だー!企画とか編集とかで、配信者は休日が存在しない!」
「なかなか病院や歯医者に行けなくて、やっとの休みで受診したら手遅れ状態だったなんて事も珍しく無い」
「何か、良く分かんないけど、大変なんだ…」
志那は、どうでも良い話をされて退屈なのか、あくびが出そうなのを堪えていました。
「(私は、社会的地位はまったり達と同じなんだな…)」
志那は、元気が無くなっていました。
「私とあなたじゃ住む世界が違う 七十三話」
「ハマラマンジャ様、逃走したガーネットを連れ戻しました」
ケブバガミの施設に連れて行かれた志那は、ハマラマンジャの部屋に居ました。
「ん〜(私、ガーネットじゃないー!早くココから出して〜!)」
「グラック君、ポール君。君達は良くやりました。ただ、その人物はガーネットじゃ無さそうですね」
ハマラマンジャと名乗るアジア系の濃いベージュの肌、黒の細目、ベリーショートの白髪交じりの銀髪、やや肥満体の派手なスーツを着た優しそうなおじいさんは、志那はガーネットじゃ無いと一発で見抜きました。
「ガーネットじゃ無い?…いや、確かに林檎の集まりにこの娘が居ましたが…」
「ハマラマンジャ様、ガーネットは性を変えても元は女の筈です」
「グラック君、ポール君。君達は、修行はまだまだ成ってない様だね。この娘は、オーラを見れば分かる物ですよ。明らかに一般人のオーラです」
ハマラマンジャは、淡々と優しい口調で話しました。
「ハッ!申し訳御座いません、ハマラマンジャ様」
「いかに我々の日々の鍛錬が成ってない事が思い知らされました!」
グラックとポールは、ハマラマンジャに頭を下げました。
「つまり、間違いだったと言う事です。開放してあげなさい」
「お待ち下さい、ハマラマンジャ様。この娘は、アジトの内部を知ってしまいました。このまま開放するのは危険です」
グラックは、ハマラマンジャを止めました。
「牢屋に閉じ込めて置いた方が良いでしょう。後は我々で洗脳します」
突然、ターキーが部屋に入り込んで来ました。
「三次元国の方ですか。後はお任せします」
ハマラマンジャは、笑顔で微笑みました。志那は地下牢に連れて行かれてしまいました。
「キャッ…」
志那は、拘束は解かれましたが、牢屋に入れられてしまいました。
「そこで大人しくしてろ」
「ちょっと!人違いだったら、何で開放してくれないのよ!」
グラックとポールは、地下牢から出てしまいました。
「お願い、出してー!」
「お、囚人だ」
「新入りか?」
地下牢にやって来た饅頭達は、志那の牢屋の前に集まり出しました。
「ま、まったり?!」
「君がメイデンソード使いの一般人ね…」
ターキーは、ベージュの肌、黒い目、金髪のおかっぱ平均よりやや高い身長、標準体型、物静かで内助の功と言う言葉が似合う女と、大柄で小太りで道化師の覆面を被っていて、親しみやすいが、何を考えてるのか分からない道化師の男と、薄い褐色の肌、ややツリ目の黒い目、アフロの黒髪、大柄のガッチリした筋肉質、頭にハチマキを巻いたジャージ姿の昔気質の人情味のあるオッちゃんの男を連れて志那の前に立ちました。
「私とあなたじゃ住む世界が違う 第七十二話」
「何でみんな覚えてないんだよ!セラフィの奴、仲間に変な呪いかけやがって!」
「俺達は、セラフィの呪いに掛かってた時は、鮮明に覚えてたみたいだ。ただ、呪いが消えた今は…消えてしまっている」
「俺もアンバーと同じだ。ガーネット、君の事を忘れない様にしたかったが、消えてしまったみたいだ」
「アメジストはどうなんだよ?まさか、忘れたとかじゃないよな…?」
「俺も、二人と同様です。セラフィの呪いが解ける前の記憶はほとんどありません」
「う…うわーん!」
ガーネットは、泣いていました。
「何よ、ガーネットとか言う犬、初対面の人にあんな失礼な事言う?腹立つ!」
志那は、怒っていました。
「オイ、あの女、ガーネットか?林檎のメンバーと一緒に居たから間違いないだろうが…」
「グラックさん、抜かりありません。あの女、林檎のメンバーと接触している時間が長いです」
グラックとポールは、志那の方を見ていました。
「行くか?」
「いざ!」
グラックとポールは、志那の側に近寄りました。
「うわっ、だ、誰ですか?」
グラックとポールは、志那の口を塞ぎ、手足を縛り、出現させた檻に志那を閉じ込めました。
「ガーネット、捕獲成功」
「本部に戻るぞ」
グラックとポールは、志那を連れ去ってしまいました。
「ところで、志那は何処だ?」
志那が居ない事に気付いたローズは、辺りを見渡しました。
「あの女、カンケー無いだろ。部外者だから部屋には入れんかったぞ」
ガーネットは、あぐらをかいていました。その時、梨々華が部屋に入って来ました。
「アメジストさん、志那見ませんでした?マンション中探しましたけど、何処にも居ませんわ」
「買い物に行ったんじゃねーの?それにお前、一般人の癖に馴れ馴れしく部屋に入って来んじゃねーぞ!」
「何か、心配だな…」
「人さらいに遭ったとか…?」
アンバーとローズは、不安そうにお互いの顔を見ました。
「アメジストさん!志那がケブバガミにさらわれた…」
負傷したカインドが部屋に入って来ました。
「カインド、良くやった。後は俺達に…」
「アメジストさん、俺も行きます。志那を助けます…」
「先ずは治療した方が良いですね」
「アメジスト、俺達は先に向かう」
アンバーとローズは、志那の後を追いかけようとしました。
「待って下さい。行き着く先は、アジトの可能性が高いです。戦力は十分にした方が良いでしょう」
「作戦は練らないとな」
一同は、作戦会議をし始めました。
「何だよ、あの一般人のゴミ、放っとけよ…」
ガーネットは、浮かない顔をしていました。