昨日書くの忘れたから昨日と今日のお題合わせて書く。
んもー、さいきん忘れがち。
まだ、分かんないじゃん?
ここで終わるか続けるのかって、自分にかかってると思うんだよね。
そりゃ辛いけどさ。いいことばっかじゃないけどさ。でもなんでかなあ、辞めたくないんだよね。いつか君にも分かるよ、そういう感覚が。
よく喋る人だなと思った。
長々と能書き垂れて、あの人の第一印象は最悪もいいとこだった。けれどあれから数年後、彼は本当に結果を出した。私のよく知らない土地で文献を学び、これまたよく分からない試験データを発表した矢先にそれが認められて、彼は一躍有名人になったのだ。
今思えば、ちょっと鼻につくけど探究心だけは底無しな人だった。自分が知りたいものをとことん追い求めるバイタリティは、悔しいけど私には彼ほどの熱量を持ち合わせてなかった。何から何まで、最初から最後まで、彼には勝てなかったというわけだ。
誰かと競って成果を出すなんて、私には向いてなかったのかもしれない。そもそも比べること自体が可笑しいのだけれど。周りの人と肩肘張るんじゃなくて、誰に言われても揺るがないような強い気持ちだけあれば良かった。そうしたらきっと、私も――
“ここで終わるか続けるのかって、自分にかかってると思うんだよね。”
自室で机に突っ伏している時、そんな声が聞こえた気がした。
あの人がここで終わりじゃないと、私に言っているような感覚。この道の先にまだ何かがあるのなら、それをこの目で確かめるまでだ。彼ならきっとそう言うと思う。だからもう一度立ち上がれ。悔やんで嘆くのはその後でいい。
「全く、もう……」
どこまでもお人好しな人だな。カリスマで、ちょっと偉そうでたまに素でおかしな事とか言っちゃって。そんなあなたが私は好きだったよ。
部屋のカーテンを開ける。外はもう眩しい光が降りそそぐ時間帯になっていた。今日も日差しは強そうだ。だいぶ引き籠もっていたから、この夏の天候についてゆけるかどうか、そこがちょっと心配。
でもこの鬱陶しいくらいの眩しい太陽のおかげで私の決心は固まった。
もう一度やろう。この道の先を知るために。
「ごめんね、わざわざ迎えに来てもらっちゃって」
「いや全然。いいんだよ」
会話はそれきりだった。
助手席に乗り込んだ君は絶えず外の景色を見ている。僕が迎えに来ても、考えているのはアイツのことなんだろう。
ちょうど信号が赤になったので停車した。だけど僕には彼女に話しかける勇気がなかった。どうせきっと上の空だ。
今一番近い距離にいるのになんにもできない。このまま遠い何処かへ連れ去ってしまいたいと、出来もしないことを考える時分が嫌いだ。そっと、窓ガラス越しに隣の気配を伺った。静かだけど彼女は寝てはいなかった。窓越しに見えたその表情は、なんともつらそうに歪んでいた。
でも僕はそれでも何も言わず、何もできず、ただアクセルを踏み込むだけだった。
意気地なしって、僕のことか。
見えないけど、きっと繋がってる。じゃなきゃこんなに目が合うことないって。
でもいつになったら伝えてきてくれるのかな。こっちはいつでもオッケーなのに。何をそんなにためらってるんだか。奥手なのは分かるけどさ、こんなに毎日見つめ合ってるんだから、そろそろ、良くない?
「あの、乃上さん」
きた。とある日の休み時間。私の席の前に一人の男子生徒が立った。もう、いつ来るのかって首を長くして待ってたわよ。長くしすぎてキリンになるとこだった、なんちゃって。
「はい?」
白々しく声を作って私は返事をする。ちょっとだけ困ったような顔をして私のことを見つめてくる彼。さあ、言いなさいよ。私のことが前から好きだった。付き合ってください、って、その手をこっちに差し出してくれればあなたの役目は終了よ。あとは私がその手を握るだけ。そんな展開になるんだと信じて疑わなかった。なのに。
「一之瀬さんのことで相談があるんだけど」
「……は?」
「ほら、君といつも一緒に帰ってる子だよ」
「うん、それはわかるよ。わかるけど……なんで」
言葉を切った私に、彼は半歩歩み寄る。私達の間には机があるけど、すごく近い。彼は身を屈ませ、そして私の耳元に顔を近づけてきた。ちょっと何する気――
「好きなんだ」
「……うん」
「一之瀬さんのことが」
「…………………………は」
最後の言葉で一気に冷めた。沈黙すること数十秒。大きな深呼吸をひとつした。なるほどそーゆうこと。目が覚めて、全部理解して、私は史上最強の勘違い女だと気付いた時、彼の手を掴んでいた。
「え、なにどうしたの」
「小指、折っていい?」
「え?はっ、え?」
「……なーんてね」
糸は見えないから、もし万が一この人の赤い糸が私に絡まってちゃまずいと思ったけど。まかり間違ってもそんなことあるわけないか。なんだなんだ。全部私の思い過ごしってやつね。はずかし。
「いいよ、何が知りたいの?あの子のこと。協力してあげる」
「……本当に!?」
嬉しそうに彼が笑う。そういう顔、私だけに向けてくれる人現れないかなあ。赤い糸ってどうして見えないんだろう。でも、見えなくて良かったのかもしれない。簡単に運命の人を見つけられたら、なんのドキドキも生まれないもんね。
いつかは本物の赤い糸に巡り会えますように。
今日も肌にまとわりつくような暑さだった。でも空は綺麗な水色が広がっていてなんだか清々しい。南西の方角に綿菓子みたいな雲が見えた。上に上に膨らんでいて、まるで生き物みたいに成長している。
本当にあの中に化け物でも住んでたら面白いのに。穏やかじゃないことを考えている僕は今、電車に揺られ窓から外の景色を見つめていた。駅につく頃には6時を過ぎるだろう。それでもまだまだ外は明るい。
暑いこととか、どうでもよかった。
さっきまで駅で君と話してた時、そんなの全然気にならなかった。
“また明日も会えるかな”。君が僕にそう言うから、どうにかしてこの後もずっと一緒にいたいと思ってしまった。まぁそんなのは、高校生の僕らには無理というか許されないことなんだけど。
でも本当は君とまだまだ話してたかったんだよ。時間が全然足りないんだよ。あの入道雲からドラゴンでも召喚させて、月を食べちゃえば夜なんて失くせる。そうしたら君ともっと一緒にいれるんだ。そんな、頭が可笑しい人みたいな妄想しちゃうくらいに、僕は君のことが好きなんだ。
でも明日も会おうと約束したから、そんなことする必要はない。大人しく夜を迎えて、ちゃんと就寝する。そしてまた明日君のこと、改札まで迎えに行くから。
また昨日書くの忘れちゃった、から今日のと合わせて書きます
どこからか蝉の鳴く声が聞こえる。私の嫌いな雑音の1つだ。
と、なるともうすぐ夏になるのか。でももうすでに今の時期もかなりの高温で夏と呼ぶに相応しい天候をしているけれど。照っている太陽もなかなか暑い。コンクリートに寝転がるなんて真似をもうできなくなっちゃうのか。それはそれで寂しい。
「いつもここにいるの?」
また来た。最近こうして音もなく現れて私に話しかけてくるコイツ。確か隣のクラスらしいけど、いつの間にこんなに親しく話しかけてくるようになったんだか。友達になったつもりは全くない。
今みたいに、ある日もこうやって屋上で寝そべって授業をサボっていた時のこと。突然彼は現れた。私だけがびっくりして、彼の方は「そんな硬いとこで寝てて痛くない?」と、拍子抜けするような質問をしてきたのだ。彼は別に私のことを教師に言いつけるでもなく、なんと同じように隣に横たわった。「意外とコンクリートの上ってひんやりしてて気持ちいいね」なんて、呑気に笑って言うもんだから思わず私も笑ってしまった。
それから、事あるごとにコイツはここへやってくる。こうやって、一緒にサボるのが日課になっている。
「フウカちゃんさ、いつまでこうしてるの?」
いつの間に、名前を知られてたんだろうか。警戒して見つめる私をよそに彼は隣で喋り続ける。
「もうすぐ夏だよ、暑くなるよ。ここでこんなことしてたら、溶けちゃうよ」
「そしたら日陰のどっか隠れるとこに行くからいい」
「ダメダメ、日本の夏を甘くみちゃ。もう屋外はこの先危険だよ」
「……つまり何。教室戻れって意味?」
コイツは私に大人しく授業にでろって遠回しに言いたいんだろうか。やっぱコイツも先生の手先かなんかだったってわけか。ちょっとでも気を許して話し相手して損したよ。これ以上誰かと一緒にいたくない。1人になりたい。コイツがいつまでもここに来るのなら、私がどっか別の場所にサボり場を変えればいいだけ。体を起こすともわっというこの時期特有の湿気をまとった空気にあてられた。本当にもうすぐ夏なのだ。いつの間にか春は終わってしまった。私はこれまで何をやってたんだろう。この先何がしたいんだろう。
「……ちょっと、何」
手首に何かが触れた。彼が、寝転がったままの体勢で私の腕を掴んでいる。そしてなぜか微笑んでいた。
「いーよ、教室行かなくて。でも流石に場所変えない?ここのまんまだと、俺死にそ」
「変えるったって、どこに」
「ここじゃなければ、どこでもいーよ。君が落ち着ける場所、探そう」
そんなの、あるわけないじゃない。みんながいる教室が無理なんだもん。私の居場所なんてないんだよ。この屋上だって決して居心地いいとか思っちゃいなかった。ただ1人でぼんやり空を眺められるから居座ってただけ。いつの間にか、コイツのせいで1人でいられなくなっちゃったけど。
「行くとこないの?」
「……」
何にも言わない私を見て、彼は静かに笑った。ゆっくり上体を起こして私にきちんと向き直ると、
「じゃあ俺が連れ出してあげる」
彼はそう言って私の頭に手をのせた。優しい温もりだった。あれだけ人が嫌いなのに、他人に触られるなんて拒否もいいとこなのに。
嫌じゃなかった。今だけは蝉の声も、蒸し暑さも、全部忘れちゃうくらい目の前の彼のことをじっと見つめてしまった。
行こう、ここではないどこかへ。そう思えた瞬間だった。