ゆかぽんたす

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11/21/2023, 1:00:16 PM

「じゃあ、どうすればいいの?」
ほらまた。口論が加速するとキミは必ずそれを言う。まるでトドメの一撃のように。その後にボクが押し黙るのを知ってるから言うんだろ。内心ではボクに勝てたとでも思ってほくそ笑んでるんだろ。
いつもいつもそうだ。最終的にボクが悪者にさせられる。もう沢山だ。だから、もう同じような結末にはさせない。
「別れたほうがいいんじゃない?」
案外淡々と言えるもんだ。少しも言い淀んだりしなかった。つまりは腹の底からボクはそれを望んでいるのだろう。
「……そっか。じゃあ、バイバイ」
キミもキミで。終わり方はあっさりしてるもんだな。ボクらもっと早くこうするべきだったんだ。何をそんなにずるずると続けていたんだろうか。じゃあどうすればいいのって、これまでに何回もキミに聞かれたのにね。キミはボクにいつも終わらせる為のアシストをしてくれていたんだ。なのに気付けなかったボク。笑っちゃうよね、本当に。こんなに一体何を迷っていたんだか。
「さよなら」
もう向こうへ歩き出したキミの背中に向けて言った。全然悲しくないよ。むしろ終わりは始まりだ。次の出会いに向けてボクは意欲的にさえなれそうだ。

でも。
だけど。

キミのこと好きだった時間があったのは嘘じゃなかった。それは伝わっていただろうか。もうこの際、それもどうでもいい話なんだけど。

じゃあどうすればいいのって。
言われたらもう、何も言い返せないよ。
ずるいよ、キミは。
ボクの性格、知っててそんなこと言うんだから。

11/20/2023, 10:19:31 AM

“宝物”は、安易に人に見せず大事にしまっておくものである。調子に乗って見せびらかしたら誰かに盗られてしまう恐れもあるから。だから本当は、誰も踏み入れない場所に仕舞っておいて、なんなら鍵までかけておくべきだ。それくらいしたって良いと思う。宝物は2つも3つも必要ない。たった1つでいい。僕の全てを捧げてでも守りたいもの。代替品はきかない、唯一のものだから。
「こんど、手錠でも買ってこようかなぁ」
「え?」
僕の口からあまり聞き慣れない単語が出たせいか、彼女はすごい勢いで振り向いた。穏やかじゃない話なのは間違いないかもね。だって捕まるのはキミなんだから。
「その……何のために?」
「知りたい?」
ふふふ、と意味有りげに笑ってみせた。こんな話は素でするもんじゃない。けど本当に、キミを僕しか知らない場所に閉じ込めたいなって思ってる。流石に光も音も届かない場所は可哀想だけど、地上でも以下でもこの際どっちでもいい。兎に角、僕しか行けない場所にキミを隔離していつでも会えるようにしたいんだ。それが僕の理想。
「年末の忘年会でさ。なんか寸劇やらなくちゃいけなくなっちゃって」
「……それで必要なの?」
「うん。僕は警察官役だから」
「なぁに、それ。……ふふっ、おもしろそう」
実際。本当に閉じ込めたら今みたいにキミは笑わなくなるだろうな。僕の大好きな笑顔を奪うまでしてそんなことはしたくはないな。だから理想は理想のまま。日常生活の中で、同じように生きて、笑って過ごせるほうがずっとずっと良いからね。
物騒なこと考えちゃってごめんね。行動には移さないけど、それぐらい僕の愛は重いってこと。許してね。
と、同時に覚悟もしてね。僕の愛からはもう逃げられないってことだから。

11/20/2023, 1:26:25 AM

小さい頃に聞いた話。
会いたい人のことを思い浮かべながら火を灯すと、本当にそれが叶うんだって。だからキリストの生誕日には皆がキャンドルを買うのよ、っておばあちゃんが教えてくれた。大人になった今は根拠のない作り話だって分かってしまったけど、私は今だからこそ信じて見ようと思う。

去年、大切な人を亡くしてからは毎晩キャンドルに火を灯してる。そんなわけないのに、間違いなく貴方は荼毘に付したのに、今日はもしかしたら――なんて考えてしまうよ。過度な期待は後になって余計に虚しくなるだけだと分かっているのに、取り憑かれたように蝋燭を買い込んだ時期があった。

もうすぐ、貴方の命日が来る。蝋燭何本灯せば会いに来てくれるかな?まだまだ足りないのかな?木造のアパートメントだからあんまり過激なことはできないけど、貴方がいつ帰ってきてもいいように今日も夜中じゅう灯りをつけておくよ。私はここだよ、って、道しるべになるように火を灯すから。

だからお願い。
1度だけでいいから、私の前に降りてきて。
それ以上は何も望まないから。

11/19/2023, 4:54:15 AM

今日まで色々バタバタしちゃって大変だったね。ほんとに、急なことだったからキミにはすごく迷惑をかけたと思ってる。ごめんよ。ていうか謝るのはそこじゃないか。

ごめんね。
こんなふうに、キミを置いてく形になってしまって、本当にごめん。黒い服に身を包んで最後の挨拶を参列者にするキミの後ろ姿。近付いて、そっと抱き締めてあげたい。1人でも気丈に振る舞うその背中を。僕はもう、見つめることしか出来ないなんて。

『主人は生前はたくさんの方々に愛されていた人でした』

その言葉がすごく心に沁みるよ。そんなふうに言ってくれるけれど、誰よりも僕を愛してくれたのは紛れもなくキミだった。キミと過ごした時間とたくさんの想い出の数が何よりの証さ。挙げだしたら果てがないんだ。キミと見たもの行った場所触れた所。全部ぜんぶ、残すことなく一緒に持ってゆくからね。キミから貰ったありったけの想いを棺桶に詰めておくれ。もう、ぎゅうぎゅうで蓋が閉まらないくらいに。

『どうぞ安らかに』

ありがとう。ゆっくり休みながらキミの夢でも見るとするよ。
おやすみ、愛してるよ。

11/18/2023, 6:26:20 AM

朝の4時。いつもの小さなアラーム音で目が覚めた。隣の彼女を起こさないように朝の支度を静かに始める。簡単な朝食を済ませ、家を出るいつもの時間になった。なんとなく、目に入った冷蔵庫横にあるホワイトボード。100均で買ったそれに彼女はよく予定を書き込んでいる。僕も、夕飯が要らなかったりする時は書いておくように言われている。朝が早い僕と夜が遅い彼女の一種の連絡を取るツールになっていた。今日は珍しく字列が並んでるなと思った。良く見てみると、

去年の裏起毛パジャマ出す
箱でみかん買う
クリスマスツリーの飾りつけ
週末どっちか鍋パ
イルミネーションに連れてってもらう
もこもこの靴下を新調すること
今年こそコタツを買う!
温泉も行きたいなあ

可愛いヤツだな、と思った。彼女の冬にやりたいことリストが見れたところで、今度こそ僕は靴を履く。
「行ってきます」
まだ静まり返った寝室に向かって呟いた。一先ず、今日の帰りにもこもこの靴下を買って帰ろう。

冬が楽しみだな。

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